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【編集マツコの 週末には、映画を。Vol.79】「おもかげ」

2020.10.15


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
外国の映画って原題がすごくシンプルなものが多いですよね。そのまま日本で上映すると分かりにくいこともあるので、邦題がつくケースが多いですが。
今回紹介する作品の原題も、『Madre』とごくシンプル。スペイン語で母親という意味です。邦題の『おもかげ』はオリジナルの潔さを踏襲しつつ、この映画を表すのにふさわしい言葉でもあります。
行方不明になった息子を10年間探し続ける女性のストーリーは、もともとは数々の賞に輝いた短編映画の「その後」を描いたもの。大切なものを失った後、人はどのように歩んでいくのか。そんな普遍的な問いかけに、最後まで登場人物に感情移入しながら見られる作品です。


スペインのマドリードに住むエレナ(マルタ・ニエト)にかかってきた1本の電話。それは、父親と旅行を楽しんでいるはずの6歳の息子、イバンからのものでした。「パパが戻って来ない」「今どこにいるの」「わかんない」「何が見える?」「男の人がいる」「逃げて」。父親とはぐれて不安げな幼い息子と、その状況を知り気が気でない母親の電話越しの会話。見ているこちらも胸が痛くなる冒頭のシーンこそが、短編『Madre』として公開されたものでした。それから10年。イバンはどうなったのか? 殺されてしまったのか? 犯人は? 詳細が語られることはなく、分かるのは息子がいなくなったフランスの海辺の町でエレナは暮らしている、それだけです。ある日彼女は、生きていれば同い年くらいであったろう、息子のおもかげを感じさせる少年に出会います。高ぶる気持ちを抑えられずに彼に近づくエレナに、最初は不思議に思っていた少年も少しずつ心を開いていくのです。


大切な存在を不慮の出来事で失ったとき、人が立ち直るのに必要なもの。それは忘れることではなく、許すことなのかもしれません。
行方不明になったとき息子と旅行していた元夫を心の中で許せていないのと同様、エレナはきっと自分のことも許せない。2人きりで行かせてしまった自分を。そしてその間、息子の不在で久々に羽を伸ばしていた自分を。
何回かこの連載で書いていますが、作家の桐野夏生さんの小説がとても好きです。『柔らかな頰』という作品があるのですが、行方不明になった我が子を追い求める母親、という設定に今作と重なる部分が。『柔らかな頰』では、主人公の娘は神隠しのように忽然と姿を消したという違いはあるものの、母親が苦しみ続けること、そして苦しむことで「忘れていない」と証明しようとしているところに、共通点を感じるのです。


息子に似た少年ジャン(ジュール・ポリエ)はフランス人。スペイン人であるエレナの息子であるわけはなく、彼女もそれは分かっているはず。それでも少年に近づくエレナの気持ちは分かるような気もするし、恋人のヨセバ(アレックス・ブレンデミュール)と三角関係(?)になってしまうほどののめり込み様は、正直不可解でもあります。それは、10年という歳月が流れた今、彼女なりに決着をつけるための行動。
「どんな悲しみも時間が解決してくれる」と言いますが、それは本当なのでしょうか? 10年という年月、ジャンとの出会い、恋人の支え。その全てがエレナには必要だったのかもしれません。静かで力強いラストシーンが、ずっと心に焼きついています。


本作のプロローグにあたる、エレナと必死で助けを求める息子との会話の様子をワンシーンワンカットで捉えた、緊迫感溢れる約18分の短編映画「Madre」(第91回アカデミー賞®短編実写映画賞ノミネート)が、『おもかげ』公式サイト(omokage-movie.jp)にて10月22日(木)23:59までの期間限定で無料公開中!


「おもかげ」 10/23(金)シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー
©Manolo Pavón


【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和 


次回10/23(金)は「キーパー ある兵士の奇跡」です。お楽しみに!

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