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馬田草織の塾前じゃないごはん
塾前じゃないごはん=お夕飯のこと。ポルトガル料理研究家で文筆家の母・馬田草織さんとJKこと女子高校生の娘さん。女2人で囲む気ままな食卓の風景をお届けします。さて今晩の「塾前じゃないごはん」は?

思春期娘との会話は朗らかなサンドバッグ作戦で。猛烈に酒を呼ぶアスパラフリットと。

2023.05.09

アスパラガスのクミンフリット

[第5回]おだやかに会話したくて、とりあえずサンドバッグになってみた

「塾前じゃないごはん」一覧はこちら 

いつものように朝ごはんを食べながら、JC娘とラジオを聴いていた。わが家は私の好みで、もう長いことJ-WAVE一択だ。その朝は、海外の同性婚が認められている国についてのトピックに触れていた。

なになに、スペインではかなり早いうちから同性婚が法律で認められてるだって。へえ、意外だね。カトリックの教えが強い国なのに。手もとのスマホで検索すると、そうか、宗教的な婚姻と法律上の婚姻は分けて考えるということらしい。なかなかに合理的で、その平等観念の社会への浸透ぶりが自国とあまりにも差があって、心底うらやましい。親子でちょっと盛り上がる。

フラットな意見をもつJC世代

ふだんの会話からも感じるのだが、JC娘の世代は私の世代よりもずっと、男女平等や生き方の多様性をごく当然と受け止めている様子。これはすごくいいことだ。日本も早く認めればいいのにね、同性婚、と娘がつぶやく。まったくだ。そのへんは親子で意見が一致。私も何か意見をつけ加えよう。

「ほんとだよね、日本はそもそも夫婦の性別(・・)だって認められてないのに」
すると娘はパンをもぐもぐ咀嚼しつつも、不可解な表情かつ無言で私の顔をじっと見つめる。
「だいたいいまどき日本ぐらいだよね、夫婦の性別(・・)が認められてないの」とさらに熱量アップで話を続けると、娘はますます眉間にシワを寄せ、違和感1000%の顔でまじまじとわたしを見る。

あれ、話の意味が通じてない? おかしいな。 そこで娘がどっと疲れた顔で「お母さんさ、それをいうなら別姓でしょ、べっせい。さっきからずっと〈せいべつ〉って言ってるよ。性別なわけないでしょ、ほんと意味不明」。

またやってしまった。こうまで言い間違えるとほんと恥ずかしい。でも最近は、こんなレベルの言い間違いが多いのだ。これはホルモン問題というよりも加齢のほうの問題だろう。脳でイメージしている言葉と口から出てくる単語が一致しないなんて、相当ですな、自分。

悪循環を断つきっかけは、あえて自分を怪しむこと

ちょっとした勘違いもよくある。お気に入りのパン屋さんの店名が、ドイツ語由来かフランス語由来かでちょっとした言い争いになったのだ。結局Google先生で検索したら、わたしの勘違いだったことが判明。まあじつに些細な話なんだけど、日常の会話とは、これ些細な話の積み重ね。ほかにも娘の友達や先生の名前を間違えることもしょっちゅうで、カウントしてたらキリがない。だから最近は、何か話す前にひと呼吸おいたほうがいいのかも、と思うようになってきた。

つまり、自分を疑う日々なのだ。でも、この自分を怪しむという姿勢が、最近の我が家の会話が少しだけスムーズになるきっかけになった気がするのだ。 というのもつい数年前までは、親だから大人だから、私のほうがきっと正しいと考えがちだった。そのせいで、私の方が間違っているのに強く意見してしまい、あとから誤解していたことを訂正しづらくなることがよくあったのだ。そうすると、娘もしだいに話しかけるのがいやになる。そんな悪循環が、一時期たしかにあった。

気をつけたい「上から」トーク

当たり前なことだが、どんなトピックでも、人の考えはそれぞれ。それなのに家族はもっとも近しい存在だから、つい余計に意見してみたり、よかれと思って講釈してみたり、子どもなりの意見を「それは甘い」と思わず上から目線で修正しようとしてしまう瞬間があった。

でも待てよ。自分が子どものころに一番嫌だったのは、自分の意見を最後まで聞いてくれない大人の偉そうな態度だったのではないか。間違っても正そうとしない大人のずるさだったのではないのか。子どものくせに、なんておかしな言葉がまだ普通に飛び交っていた時代はとっくに終わった。そもそも子どもにしかわからないことだってたくさんあるわけで。老若男女の平等うんぬんをいうのなら、まずは自分の家での会話から注意していかないと、結局は世の中の不平等の空気も変わらないままなのでは。そんなふうに思うようになり、勘違いの上からトークに気をつけようと思うようになったのだ。

困ったときは、大下先生!

しかもいまわが家は、親子ともどもホルモン大航海時代のど真ん中にあるわけで、ただでさえ不安定な毎日なのだ。そんなときこそ船内ではできるだけおだやかに、会話のキャッチボールを続けたい。どうすればおだやかに続けられるのか。
そのヒントはまたも私の愛読する、大下隆司先生の『思春期デコボコ相談室~母娘でラクになる30の処方箋~』(集英社)にあった。

〜思春期脳は興奮しやすいようにできている。〜思春期には性ホルモンの血中濃度が急激に高まり、脳にも影響する。(中略)中でも恐れや怒りをつかさどる扁桃体に強く作用する。扁桃体は、天敵に出会ったときに「闘うか、逃げるか(Fight or Flight)」という生存に関わる状況判断に関係する部位で、思春期にはこの扁桃体が過剰なほど活性化し、性ホルモンやアドレナリンに敏感に反応します(以上、一部を部分的に抜粋)。

つまり、彼女ら彼らティーンの脳は、常に臨戦体制ともいえるというわけだ。
だからかな、ふとしたときに娘の名前を呼んで話しかけると、アンニュイな不機嫌モードで返されることが多いのは。そんなときはついイラッとする気持ちを抑えつつ、まずは私のほうから「大丈夫、これは攻撃ではありませんよー。こちらは武器は持っていません、丸腰ですー」という気持ちで話しかければ、向こうも安心するのでは。そんなふうに考えるようになった。

朗らかなサンドバッグ作戦

そんなわけで最近は、とにかく聞く、ひたすら聞くに徹するようにしている。トピックがテストの結果でも、友達関係でも、好きなアニメの話でも、何でもそう。年齢的にも人生の経験豊富なはずの自分ではあるけれど、だからといって若い人の考えていることや思うことをジャッジする権利なんてないのだ。コメントを求められたら何か言うけれど、できるだけ余計なことは言わないようにする。

イメージは朗らかなサンドバッグ。 とある週末、そんな感じでいっしょに過ごした夕ごはんの時間は、久しぶりに会話ができて満ち足りた時間になった。いつも朗らかなサンドバッグはむずかしくても、たまには頑張って受け止めまくると、意外なごほうびを手にできることもある。なにしろ最近は、自分の思い込みや勘違いが多くて、とてもじゃないけど自分を信用できない。だから、サンドバッグに向けられるティーンの鋭いコメントが、むしろありがたかったりもする。

それにしてもまさかこんなに早く、老いては子に従えを実感するとは思わなかった。子育てってせつないね(哀!) 。

今回の塾前じゃないごはん


アスパラのクミンシードフリット

アスパラシーズン到来中。シンプルにゆでたり焼いたりして楽しんだら、トライしてほしいのがフリット。週末の余裕のあるときに、小さめのフライパンでビール片手に楽しく揚げるのがおすすめです。粉と炭酸水(またはビール)でころもを作り、揚げる直前にクミンシードをぱらり。揚げるとアスパラがころもの中で蒸された状態になるから、香りもうまみもぎゅっと凝縮されます。しかもころもに混ぜたクミンシードの香りが立って、猛烈に酒を呼ぶし、ご飯だってすすみます。油の量は1㎝ぐらいで充分。飲みながら揚げたてをつまむのが最高です。

アスパラ1束は下の堅い皮をむき、堅い根元を切り落として長さを3等分する。揚げる前に粉を薄くまぶしておくと、ころもがはがれにくくなる。ボールに天ぷら粉と冷えた炭酸水(またはビール)を4:6くらいで混ぜ、ややゆるめのころもを作る。

バットに粉をまぶしたアスパラを並べ、ころもの1/2量をかけ、まんべんなくころもをまとわせたら上からクミンシードをふりかける。まとわり具合で、ころもは適宜足して。フライパンに1㎝ほど油を入れて170℃に温め、アスパラを入れる。一度にたくさん入れると油の温度が一気に下がり、からっと揚がらないので、2~3切れずつゆっくりと。1分ぐらいが目安。油が減ったらそのつど足す。

バットに油ぎれがいいように立てて並べ、さらに油をきる。仕上げに塩をふり、好みでレモンを絞っても。のんびり飲みながら、が正しい揚げものスタイルです。

馬田草織
馬田草織
文筆家・編集者・ポルトガル料理研究家。思春期真っ盛りの女子中学生と2人暮らし。最新刊「ムイトボン! ポルトガルを食べる旅」(産業編集センター)。料理とワインを気軽に楽しむ会「ポルトガル食堂」を主宰。開催日などはホームページ(http://badasaori.blogspot.jp)からどうぞ。
インスタグラム @badasaori

『馬田草織の塾前じゃないごはん』 毎月第2・第4火曜更新・過去の連載はこちら>>>
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