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馬田草織の塾前じゃないごはん
塾前じゃないごはん=お夕飯のこと。ポルトガル料理研究家で文筆家の母・馬田草織さんとJKこと女子高校生の娘さん。女2人で囲む気ままな食卓の風景をお届けします。さて今晩の「塾前じゃないごはん」は?

塾前じゃないごはん、ラストナイト(連載は終わらないけれども)。「白菜春雨帆立て缶の辛子高菜煮込み」のレシピと。

2024.02.27

「白菜春雨帆立て缶の辛子高菜煮込み」のレシピ

[第23回]塾前じゃないごはん、ラストナイト(連載は終わらないけれども)。

[第22回]ずっとお金が苦手だった。そんなとき、山崎さんに出会った。

塾前じゃないごはんラストナイトだった先週。
メニューはリクエストに応えて、JC娘の好きな牛タン焼きと麦めし、自然薯のとろろ汁かけ放題に、水菜と大根の韓国のりサラダにした。BGMはSpotify上に親子それぞれの好きな曲をミックスした「ご飯用 テンション爆上がりフーゥ!顔文字(再現不可)」を選択。いやほんと、いろんな夜がありました。そしてこれまでどれだけ塾前の食卓を、このフーゥ!な音楽に支えられてきたことだろう。おかげでJC娘推しの最新 K-POPやボカロにも詳しくなった。なにより、会話の途切れた不穏な食卓の空気が1曲でぱっと変わるのは、まさに音楽の力だった。

見守るって難しい

この1年間受験生の親になってみて実感したことがある。それは、親は結局、ひたすら見守ることしかできないということだ。過干渉にならず、あくまで見守る。では見守るとはなにか。具体的なケアなら、たとえば毎日学校や部活動から帰宅したら、塾前ごはんを食べさせて塾へ送りだす。夏休みや冬休みには、夕飯代わりの弁当を渡して塾へ送りだす。つまり体調管理だ。これは大変だけど、親もがんばればできる。

難しいのはむしろ精神的な部分だった。つまりそれは、ふとしたときに親が言いたくなる、余計なひと言をいかに親自身が飲み込むかということだった。たとえば、明日は学校や塾のテストだけど、そんなにゲームしてて勉強大丈夫かとか、受験する学校を選ぶときに、本当にその選択でいいのか、こっちの学校の方がいいんじゃないのかとか。子どものことを心配するあまり、親自身が自分の不安を消すために、要望にも似たひと言を口にしてしまう。それをしないことが難しかった。

K校受験に関しては、わたし自身わかっていないことの方が圧倒的に多かった。自分がJC娘だった頃とは受験のシステムも内容も異国並みに変わっていて、三者面談に行っても内申点の仕組みや推薦・単願・併願などのシステムをいまいち理解しきれず、複雑さに面食らうばかりだった。しかも同じ学校でも、いまと昔とでは偏差値学力や校風もかなり違っていたりして、下手な助言は邪魔なだけ。親としてできることといえば、話を聞くことと、そしてごはんを作り続けることだった。

遠い過去には、確かに自分も受験を経験した。高校、大学、そして浪人からの再大学受験。だから受験生としての日々も知らないわけではない。が、あまりに時間が経ちすぎていて情報として使えるものはなく、せいぜい失敗談ぐらい。3年前の海外旅行の経験ですら古くなるこの時代、ましてや受験の経験をや、だ。

いざ入試本番が近づいてくると、子どもの感じている緊張はそのまま親にも伝わってきた。2月はずっとそわそわしていた。もっともいちばん大変なのは当の本人だから、こちらは余計なことは言わずにひたすら見守るのみ。久しぶりに親として経験する受験は、肝を冷たい手でぎゅっとつかまれるような、きりきりする時間の連続だった。ましてや本人をや。

受験の最終的な合否は運も大きく関係するということは、大人なら重々承知だ。受かって当然が受からず、予想外があっさり受かることもある。また実際は受験が終わっても、ああ自分の努力が報われた、と心から思えず、悔しさを抱えながら進む人も多いと思う。わたし自身の受験を振り返っても、高校、大学とも第一志望に進めなかったし、もっといえば、就職活動でもいちばん行きたかったところとは縁がなかった。

そのときは、この世の終わりかと思うほど落ち込んだが、実際はこの世は終わることはなく、案外選ぶつもりではなかった選択肢の先に楽しいこともたくさんあったし、むしろ思ってもいない出会いが待っていた。結局、思いがけないこの道を進んで、案外よかったなと思えたことも数えきれないほど多かった。そんな感じで人生はなんとかなったりならなかったり、というか、なんとかなっているのかどうかもわからないまま続いていくわけだが、それは長く生きてこないとわからない話。試験を受けたばかりの当の受験生にはまったく響かない話だ。

「これでもいい」と「これがいい」の違い

あらためて感じたこともあった。それは「これでもいい」と「これがいい」の違いは大きいということ。「これがいい」という憧れへの執着は、人を能動的にする。憧れの人、憧れの学校、憧れの土地、憧れの何かがあれば、人は能動的に努力できる。たとえ憧れの果ての挑戦がその時点ですぐに思った結果にならなくても、費やした努力はそのまま本人の実力になる。それがいつか役立つ日が来るということは、長く生きているとわかる。だからまわりにいる大人である自分は、子どもの「これがいい」はできるだけ見守ろうと思う。これからも。そう、子どもを見守る行為は、今後も独り立ちするまで続くのだ。

それにしてもあっという間だった1年間。
同じような境遇だったみなさま、とりあえずお疲れさまでした(エアハイタッチ)。たまにJC娘の勉強ノートをのぞいてみると、数学などはすでにまったく教えられないレベルに達していることに衝撃を隠しきれなかったことを、ここに告白しておきます。

なんだかすっかり受験終了モードで書いているけれど、考えてみたら3年後には大学受験だよ。母さんまだまだ働くぜ。

今回の塾前じゃないごはん

「白菜春雨帆立て缶の辛子高菜煮込み」

漬けもの特有の発酵で生まれるうまみは、料理に使うとちょっと深い味になります。わたしがよく使うのは辛子高菜漬け。鍋や煮込みといった冬の定番に加えると、発酵させた高菜の漬けもの的うま味と唐辛子のアクセントが加わって、すっきりした塩味の中に深みのある、ついつい食べちゃう味になります。寒いいまなら汁気たっぷりの煮物でも。汁だく仕上げなのでスープの役割も果たします。小さな土鍋を使えば、できたてのぐつぐつを鍋からじかにすくって楽しめる。鍋もの未満の汁おかずでご飯もすすみ、複雑なうまみがワインも呼びます。

白菜の葉3〜4枚は食べやすく切る。にんにく、しょうが各1かけ、ねぎ1本はみじん切りにする。鍋にごま油大さじ1とねぎ、にんにく、しょうがを入れて弱火で熱し、香りが立ったら辛子高菜漬けのざく切り・山盛り大さじ2を加える。しっかり炒めたら水1カップと酒大さじ2、帆立て貝柱の缶詰(80g入り)1缶の缶汁をすべて加えて煮立て、白菜を加えてふたをし、弱火で10分ほど煮る。一度味をみて塩で調える。白菜が柔らかくなったら春雨一つかみと帆立て貝柱を加え、さらに春雨が柔らかくなるまで5分ほど煮る。仕上げに黒こしょうを軽くひき、香りづけにごま油をひと回しして完成。

うまみだらけのスープを吸った春雨やくったりと甘く煮込まれた白菜が、寒い日にはとくにうれしい。帆立て缶の代わりにちくわやさつま揚げなどの練りものや豚バラ肉、ひき肉の団子なども合います。でも、帆立て貝柱のうまみは別格。ビールもワインもいける、けしからん真冬のおかずが完成です。
馬田草織
馬田草織
文筆家・編集者・ポルトガル料理研究家。思春期真っ盛りの女子中学生と2人暮らし。最新刊「ムイトボン! ポルトガルを食べる旅」(産業編集センター)。料理とワインを気軽に楽しむ会「ポルトガル食堂」を主宰。開催日などはインスタグラムからどうぞ。
インスタグラム @badasaori

『馬田草織の塾前じゃないごはん』 毎月第2・第4火曜更新・過去の連載はこちら>>>

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