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オレンジページ☆デイリー

2019.11.1

【編集マツコの 週末には、映画を。Vol.31】「人生、ただいま修行中」


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
映画って監督や作品によって撮影技法が色々ありますね。例えば去年大ヒットした『カメラを止めるな!』のような、タイトル通り場面転換のための「カット」をほぼしない長回し撮影とか。
あとは……よく分かりません。
映画をたくさん見ていますが、撮影技術にはとことん疎いマツコです。こんなコラムを書かせてもらっているからには、そういうことも勉強せねばと思うのですが。
でも今回紹介する『人生、ただいま修行中』のように、内容に力強さがあるドキュメンタリーは、技法とか気にしなくていいとやっぱり思う。だってここに出てくる看護師の卵たちの1人1人がドラマそのもので、なんの装飾もいらないんだもん。知らない世界を覗く楽しさ、「始まり」の場所にいる人たちを見る高揚感、フランス社会らしい多様性への驚きetc.色々なものを体験できる105分です。


監督いわく、こんな時代に「誰かのために働くことを選んだ」、看護学校の生徒たち40人を追ったドキュメンタリーです。
舞台はパリ郊外の看護学校。血圧チェックの練習をしている穏やかな雰囲気で始まります。
手の洗い方や医療器具の取り扱いから、看護師としての心構えを学ぶ座学まで、多岐にわたる学習内容。

座学では、綺麗ごとばかりではない医療の世界の現実を説明する場面もあります。
例えば路上生活者が突然運ばれてくることもある。彼らは臭いがキツいし、目を背けたい状態かもしれない。
例えば医薬品会社からワイロを持ち掛けられることもある。彼らの会社のガーゼを使ってほしいから、何らかの形で取り入ってくるかもしれない。
例えば病院はなるべく少ない人数で現場を回したいから、1人でたくさんの患者を抱えさせられることもある。
少しばかりの手当を受け取って、結果的には医療の質の低下に加担してしまうかもしれない。

光だけでなくほの暗い部分も知っておくのは、どんな仕事に就くときも大事なことなのかもしれませんね。


実習の授業は予想よりもだいぶフレンドリーな雰囲気。
というか、日本だと「笑わないで真剣にやりなさい!」と言われそうな気がする(笑)。
注射器に薬品をうまく入れられずに「イライラする」と呟く女子学生(気泡を抜くのが意外に難しいらしい)。
赤ん坊が異物を飲み込んだという想定のシチュエーションでは、少し寸劇風になって「誰の子だ? さては愛人の子だな?」なんて茶化したり。
それに対して特にたしなめるでもなく、もちろん合わせてふざけるでもなく、淡々と指導する講師の姿が印象的でした。
国によって教え方も、そして教わり方もきっと変わるのでしょうね。

当たり前だけど、病院での実践的な研修ではふざけるわけにはいきません。
注射もだし、抜糸やギプスの取り外しなど、基礎中の基礎だけど失敗が許されないものばかり。
でもやっぱり、日本に比べるとどこかゆるい雰囲気を感じます。患者さんはのんびり研修生の処置を見守っているし、研修生も「初めてなんで」と割と堂々と言う。
これ、お店のスタッフさんとかでも当てはまる気がするんですよね。
日本て「新人だからって言い訳してはいけない」文化でしょう。だからサービスの質にあまりブレがないという良さがあって、その代わり仕事のやり方に個性は出しにくい。
一般化しすぎるのは好きではありませんが、そういう違いが面白いなと思いました。


クライマックスはなんといっても、研修後の講師との面談シーンです。
ガン患者の死に立ち会い、そのことがこれから看護師として生きていくために良い経験だったと話す男の子。
ムスリムである彼は、研修中もラマダン(断食)をしたそう。
予想通りの患者や予想通りの状況だけではないことを身をもって学んだ学生も。
生活のために売春をして、避妊できずHIV検査を受けたいという患者に出会い、何と言えばいいか分からなかったと彼女は語ります。
「進路を変更した方がいいと言われた」と悔し涙する子もいました。
かと思えば、超スーパーポジティブに「どの分野の実習も楽しかった」と笑顔で話す子もいて……。

プラスであれマイナスであれ、感情を露わにする学生たちを受け止める講師たちが本当に温かいのです。
1人1人受け止め方は違うんだけど、学生たちの感情に飲まれることはなく、かと言って距離を置きすぎることなく。
友達どうしのおしゃべりとも違うし、面接のような感情を排したやり取りとも違う。
共感し、分析し、寄り添ってあげる。対話なんですね。
「実習は学ぶためのもので、あなたをテストしたり泣かせるためのものではない」というある講師の言葉がじんわりと心に残っています。


監督の二コラ・フィリベールさんはドキュメンタリー映画の名手で、2002年の『ぼくの好きな先生』という作品が日本でもヒットしました。
田舎の小さな小学校で低学年~高学年までの子供たちの面倒を一度に見ている、定年間近の先生を追ったもの。DVDでぜひ見てほしい作品です。
久々に見返してみたら、子供たちの話を辛抱強く聞き、あくまで同じ目線で接しながら厳しさも忘れない先生の姿が。
ここにもやっぱり「対話」がありました。
ときおり入る風景のカットは風にたなびく木々の姿で、『人生、ただいま修行中』にも見られるもの。この監督の撮影技法の1つなのかもしれません。

でもそれより何より、普段はあまり取り上げられない小さな世界に目を向け、そこにいる人たちの価値を社会に気づかせる。
それこそがフィリベールさんの映画技法ではないでしょうか。


「人生、ただいま修行中」  新宿武蔵野館他全国順次公開
配給・ロングライド
©️Archipel 35, France 3 Cinéma, Longride -2018


【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和

次回11/8(金)は「スペインは呼んでいる」です。お楽しみに!

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