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【編集マツコの 週末には、映画を。Vol.28】「トスカーナの幸せレシピ」

2019.10.10

こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
この仕事をしていると、当然食べ物関係の映画が好きなのでは? とよく聞かれます。もちろん!と言いたいところなのですが、意外にそうでもなく。むしろ、意識的に避けてさえいます。
美味しそうな食べ物を大画面で見ちゃうと、それだけで満足しちゃったりしませんか? なんかずるいなって思っちゃう(笑)。

『トスカーナの幸せレシピ』はタイトルから察するに、がっつり料理ネタっぽいので警戒(?)していましたが、イタリアの美しい自然を楽しめるロードムービーでした。
マツコはロードムービーに目がないのです。もちろん料理も重要な要素になっていて、ただ美味しいものが出てくるだけじゃなくて、きちんと意味のある設定に納得。
意外な出会いが人生を変える面白さ、そして料理の持つチカラ、両方が詰まったさわやかな作品でしたよ。


「世界に必要なのは完璧なトマトソースだ」このセリフで主人公アルトゥーロ(ヴィニーチョ・マルキオーニ)の人物像がだいたい分かる気がします。
日本人に置き換えるなら、「完璧なお出汁」じゃないでしょうか?「バルサミコを加えただけで何が新レシピだ」などと呟く彼は、伝統を重んじるタイプの料理人。
ちなみにこういう料理人の方はちょっと怖い方が多いような、経験上(笑)。
腕は超一流ながらも、その荒っぽい性格で暴力事件を起こしてしまい、社会奉仕活動を命じられることに。
そこで出会ったのが、自立支援施設で学ぶもう1人の主人公、グイド(ルイジ・フェデーレ)です。

この施設に集まるのは、アスペルガー症候群の若者たち。イタリアでも日本でもこういった奉仕活動が実際にあるのかどうか分かりませんが、アルトゥーロは若者たちに料理を教えることになります。
アスペルガー症候群は名前だけが独り歩きしていて、実際の症例はあまり知られていない印象があります。
「表情や身振り、姿勢などが独特」「慣習的な暗黙のルールが分からない」「親しい人間関係が築けない」などの特徴があるそうで、「など」ってところが曖昧ですね……。1人1人特性が違うようです。
グイドはというと、少し表情や動きにぎこちないところがあって、他人との体の接触に敏感。遠回しな表現を理解できず、幼く見られやすい。

反面、とても鋭敏な味覚の持ち主で、アルトゥーロの授業中、料理に含まれている素材を見事に言い当てます。
それがきっかけとなり、「若手料理人コンテスト」へ出場することに。2人はアルトゥーロの運転で、コンテストの会場であるトスカーナ地方まで車で旅をするのです。
ここまでの流れがややスムーズ過ぎな気もしますが(笑)、映画なのでそれはよしとしましょう。


ところで、ロードムービーの良さってなんでしょうね。旅っていつもとは違う精神状態だから、良くも悪くも大胆な気持ちになったり、自分を見つめ直すきっかけになったり、一緒に旅をする相手と理解が深まったり……(逆もよくあるけど)。
そういうドラマ性が映画というメディアと相性がいいのかもしれない。

『長い旅』というモロッコの映画が好きなのですが、これが最高のロードムービーなんです。
南フランスに住むモロッコ人の移民親子がイスラム教の聖地メッカへと車で旅をするお話で、移民として過酷な人生を送ってきたお父さんと、二世として気ままに生きる息子が、すれ違いながらも長い旅の間でだんだんと理解し合っていく様子が本当に良くって。

ロードムービーって、旅の終わりが必ずしもハッピーエンドでないことが多い気がします。
ハッピーの考え方にもよりますが、誰かが亡くなることが多いような。この『長い旅』もそう。
旅から帰ってきたとき、夢から醒めてしまったような寂しさってありますよね。現地で連絡先を交換した人とも、その後特に連絡を取ることは割となかったり。
そういう儚さも含めてロードムービーが好きなのかもしれません。


さて、アルトゥーロとグイドの旅はどうなるのでしょう。当初、この2人の関係は「付き添いが必要な者と、付き添う者」だったはずなのですが、旅をともにするうちに、やや変化が生まれ……。
ホテルの部屋の殺虫剤の臭いに耐えられないと部屋を変更させたり、対向車が1台来ただけで「道が混んできた」と慌てるグイドに初めはあきれ顔のアルトゥーロですが、率直で純粋な彼の態度にだんだんと共感していくのです。これぞロードムービー!(^^)

なぜこの2人は心が通じ合ったのかしら。
アルトゥーロが施設の若者たちに料理を教えるのは、あくまで一時的なこと。彼らに対する無関心さゆえ、逆にグイドの料理の才能には敏感に反応し、通じ合ったのかなと思いました。
特別優しく接したり、先入観を持たずに自分に向かってくるアルトゥーロは、グイドにとって新鮮な存在だったのではないでしょうか。
全く気を遣わないのが良いとは決して思わないのですが、「無関心」の持つ力もあるなあと感じるのです。


原題が気になって調べてみると、『Quanto Basta』=適量。料理のレシピに出てくる言葉です。
ちなみに『オレンジページ』では、なるべく「適量(適宜)」という表現は使いません。
レシピを読んだ人がどのくらいの量を入れればいいのか分かりづらく、迷ってしまうから。
でも、料理人の世界では「適量」を知ってこそ本物。これ、映画の中でも重要なキーワードになってるんです。

レシピ通りに作れば、きちんとおいしいものができあがるのが料理。こだわりが強く、ルールや決まりに忠実であろうとするグイドにとっては、相性のいい分野と言えます。
ただ、料理人として上を目指すには、「適量」という概念も学ばなければならない。
それは料理に限らず毎日の人間関係も一緒で、そこをなかなか理解できずに苦しむグイドを応援したくなってくるんですね。
グイドとの出会いによって、料理人としての原点を見つめ直すアルトゥーロ。グイドは彼と接することで、人生の「適量」を見つけることができるのでしょうか?

トスカーナの豊かな自然とイタリアの食文化も楽しめる、見てておなかが鳴っちゃう作品です。


「トスカーナの幸せレシピ」 10月11日(金) YEBISU GARDEN CINEMA 他にて全国順次公開
配給:ハーク
© 2018 VERDEORO NOTORIOUS PICTURES TC FILMES GULLANE ENTRETENIMENTO


【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和

次回10/18(金)は「YESTERDAY イエスタデイ」です。お楽しみに!

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