両思いじゃない〈壁ドン〉は性暴力、という話。初秋の『れんこんのしゃきしゃきクミン炒め』のレシピ

［第13回］両思いじゃない〈壁ドン〉は性暴力、という話。

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※今回のエッセイは性的同意に関する内容です。過去のつらい経験を思い出してしまう可能性のあるかたはご注意ください。

朝ごはんを食べていたら、ラジオから〈性的同意〉に関するニュースが流れてきた。性的、という言葉が曖昧なのか、JC娘に説明してもいまいち腑に落ちない様子。そこで、「好きな人の壁ドンはめちゃうれしいけど、好きでもない男に一方的に壁ドンされたらただ怖くて不愉快なだけでしょ」と言ったら、ものすごく腑に落ちていた。つまり性的同意とは、性的な行為を受け入れる意思のあるなしであり、性的アクションの前に確認すべきもの。両思いの壁ドンなら、確認しないほうがむしろうれしいけど（妄想）。

性的同意。漢字4文字の熟語はいかんせんむずかしそうでとっつきにくい。でもこれをよく知ることで、女も男も同性どうしもお互いに快適な世界を生きることができる。できれば子どもが小さいうちから、性的同意について教えることが常識になるといい。朝起きたら顔洗う、食べたら歯を磨く、トイレに行ったらおしりを拭く、性的アクションを起こすときは性的同意を得ると、ごく当たり前のこととして教えたい。

なぜならシンプルに、世界中で性的同意を無視した性犯罪がいまだに多すぎるからだ。日本ではジャニーズの性加害問題を筆頭に、この夏大阪で行われた音楽フェスでは韓国出身の女性DJが複数の観客から胸をさわられるという性暴力事件が起きた。また、スペインサッカー連盟の男性会長が女子Ｗ杯で優勝したスペイン代表女子選手の唇に一方的にキスした問題をめぐり、国際サッカー連盟がこの会長の資格停止処分を発表したばかり。

基本的なことだが、性暴力とはレイプだけではなく、性的同意がとられていない性的な言動のこと全部をさす。だから、一方的に性的な冗談や質問をされたり、スキンシップされたり、デートやセックスの強要などもすべてが性暴力だ。

いやいやちょっとからかっただけで大意はないとか、思わず興奮してとか、そんなものはいっさい言い訳にならない。性暴力は窃盗や殺人と同じで、欲望や衝動のままに動いた結果の、法を侵す犯罪行為だ。それなのに、つい調子に乗って（それ犯罪）とか、衝動的に（衝動を抑えられないのも犯罪）とか、あるいは相手も挑発的な服装だった（むちゃくちゃ。水着姿の人に片っ端から犯罪を犯すのか）などと責任放棄や転嫁して許されると思っている人がどうしてこんなにも多いのか。それ、全部有罪だよ。

そもそも性的同意って？

その前に、性的同意ってなんだっけ。いまいち知識があやふやかもと思う人はこちらをどうぞ。
性的同意ハンドブック『What’s Consent? より良い人間関係を築く方法』（制作・シャベル＆Voice Up Japan Waseda ×学生有志協力・早稲田大学ジェンダー研究所）。これ、イラストたっぷりでとてもわかりやすい。H Pから日本語版を表示するとPDFで読める。
https://site-7218760-1366-3570.mystrikingly.com/

じつはわたしも半年ほど前、仕事を通じて友達だと思っていた男性から性暴力を受けた。

その男性を含む男女複数の仲間たちと楽しく会食した帰りに、加害男性に無理やり長時間ハグされたのだ。その相手に好意を持ったことはみじんもはなく、むしろ苦手なタイプだった。だから最悪だった。力で振り切りたかったが、いかんせんわたしは体が小さい。しかも、酔っていて気分も悪かった。早く離せ。なのに加害者は勝手にロマンチックになっている。気持ち悪すぎる。怒りしかなかった。それ以来ふとその嫌な記憶がよみがえると、突然落ち込むこともあった。なかったことには到底できない。自分で自分を奮い立たせ、半年たって友人に相談し、ようやく勇気を出して相手に謝罪を求めた。すると驚くことに、その加害男性は最初は覚えていないとしらばっくれたのだ。下劣なうえにひきょう。こういう人間は、ほおっておいたらいずれ同じことをだれかに繰り返す。自覚させないと。その加害者に、あなたは自分の妻や娘にも、同じような性暴力を振るう男が現れたらどうするつもりか、そしてこの事実は、共通の友人にもすでに話していると伝えると、自分の立場がわかったのかようやく謝罪してきたのだった。絶望的な経験だった。

思えば高校生のころ、電車内の痴漢や図書館でのつきまといなどから始まって、これまで数え切れないほどの性暴力を受けてきた。会社の上司からのひどい発言やうんざり行為も山ほど経験し、仕事で取材した相手に無理やりキスされそうになったこともある。あらためて書くと地獄、毎日がサバイバルだった。いま振り返ってもこの男たちはデリカシーの欠如が著しく、日本全体も未熟な社会環境だった。それから10年以上がたち、さすがにそういうこともなくなったな、年とってよかったなと思っていたら、またおぞましい被害を受けた。いまこうして書いている瞬間も、加害者への怒りと屈辱で動悸が激しくなる。

でも、もう一方的に怒り傷ついて終わりにはしない。残念ながらひどい人間はいるのだ。だからこそ、これから大人になる子どもたちには、ぜひとも性的同意について知ってほしいと思うし、親は子どもに教えてほしいと思う。よくわからないという人は、自分と他者を守るためにもこれを機会に知って欲しい。

人間がお互いを尊重して楽しく生きていくには、性的同意は不可欠。わたしにとって、性的同意を心得た男友達や仕事仲間との時間はとても楽しく、人間関係の醍醐味ともいえる。恋愛ももちろん楽しいが、恋愛とはまた違う、相手への尊敬を基本にしたリラックスしたつきあいもとてもいいもの。これこそ人生の宝だ。

子どもに教えるにはどうしたらいい？

では、子どもには何を教えたらいいのだろう。

幼児のころは、まず自分を守ることを教えたい。プライベートゾーン（あるいはパーツ）という言葉の意味を、どのくらいの人が知っているだろう。体の内部とつながっている口・胸・おしり・性器のことで、他人が勝手に見たり触れたりしてはいけない場所のことだ。幼児には、水着で隠れる場所とお口だよと教えることが多い。自分にも他人にも、守るべき場所があることを知ることが大事だ。プライベートゾーン、絵本などの単語で検索すると素敵な絵本がたくさん出てくるので、ぜひ子どもに読み聞かせてほしい。

小学生高学年になったらそろそろ性の話もしたい。これ、わたしもとても苦手だった。いや、じつはいまも苦手。まず、何をどう話したらいいのかわからないからだ。でもありがたいことに、いまは性の話をわかりやすく解説してくれる専門家や活動家のYouTube動画や本、漫画などがたくさんある。検索してほしい。

わたしが娘が小６のころにプレゼントした本は『ティーンズ・ボディーブック』（中央公論新社）。思春期以降の成長に寄り添って、心や体の変化から性器や生理のこと、避妊、性感染症、男性の体のことなどあらゆる性のトピックが盛り込まれている。イヤなときはNOという大切さも書いてある。ティーン特有の悩みも。ちなみにこの本には、振り切ったギャグに温かさがにじむ伊藤理佐さんのイラストや漫画も載っているので、大人になるまで、もしくは大人になってからも親しみやすく、心強い味方になってくれるはず。女子情報しかなくて申し訳ないが、きっと男子に関する良書も出ていると思うので探してみてほしい。

さらにこれは、性的同意に関するわかりやすいイラスト動画。イギリスの警察が2015年に公開した、性行為においての同意を紅茶にたとえた動画の日本語吹き替えバージョン（吹き替え作成は、函館性暴力防止対策協議会。素晴らしい仕事をありがとう）。紅茶っていうのがイギリスらしいね。
ティーン以上大人向け動画 https://www.youtube.com/watch?v=-cxMZM3bWy0
子ども向け動画 https://youtu.be/xxlwgv-jVI8?si=hjGeI9uv5uGlsv_0

性の話をするタイミングは早い方がいい

そして、小さな子どもを育て中のみなさまに、わたしの失敗から生まれたアドバイスを一つ。性の話は子どもが親の話を素直に聞く思春期手前ではじめるほうがいい。お出かけに誘うと、喜んでついてくるような時期。思春期に入ってしまうと子どもは恥ずかしがってしまい、話そうとすると逃げられるか、何でいまその話をするのと逆ギレされるから。人間は動物ゆえ、成長とともにセックスについて興味は増し、好奇心や欲望も募る。それはとても自然なこと。そんなとき、正しい知識を与えられる環境があまりにも少ないと、子どもは妄想やネット上で拾ったデタラメばかりを吸収し、ひわいな動画仕込みの性知識しか持たないゆがんだ人間が出来上がる。それだけは避けたい。そんな非常識な世界ではおちおち恋愛も楽しめない。だから話を聞いてくれる早いうちから、性の話をしてあげたい。

この夏休み、わが家のJC娘と家で映画を見た。ティーンの娘はもはや簡単には映画の誘いに乗ってくれないが、アメリカの女性新聞記者たちが、とんでもない極悪男の悪事を暴いた映画なんだけどと説明すると娘は興味を示した。ティーンの早いうちに見ておいてほしいかったのだ。

その映画とは『SHE SAID／シー・セッドその名を暴け』。ハリウッドの大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの何十年もの性犯罪を暴いた「ニューヨーク・タイムズ」の調査報道記者たちの取材活動から記事公開までを描いたもの。ブラッド・ピットが製作総指揮に名を連ねているが、かつてブラピと交際していたグウィネス・パルトロウはこのワインスタイン事件の被害者の一人で、事件を記者に告発した勇気ある一人でもある。なおこの報道は、ピュリッツァー賞に輝いた（書籍は新潮文庫）。
この事件は＃MeeToo運動が世界へ広がる大きなきっかけのひとつになったことでも有名だが、この映画では、あまたの事件と性暴力を許す社会構造の恐ろしさも明かされている。そう書くとちょっと主語の大きな内容に感じるかもしれないが、そうではない。たとえばわたしは、こんなシーンが忘れられない。

新聞記者の女性たちが、打ち合わせついでにバーでランチを食べようとメニューを見ていると、酒を飲んでいる男性客がやってきてからまれる。何度断っても執拗にからんでくる男に、ついに記者の一人が大声であっちに行けと怒鳴ると、男は捨てぜりふを吐いて去る。そしてその後、記者は思わず仲間にごめんと言ってしまう。クズ男を退治するために大声を出したのについごめんと言ってしまう思考回路が、わたしたちには刻まれてしまっているのだ。そして、あなたが謝らないでと同僚に励まされる。リアルな性被害には、こんな感じで白昼にいきなりからまれるパターンもある。そのほか、被害を受けたことを回想する女性たちの告白シーンも多数出てくるのだが、明らかに相手が100％悪いのに、被害を受けるとつい自分も悪かったのかもと罪悪感を抱いてしまう女性がいかに多いか。この映画が物語る。

見終わった娘は、こんなひどいことがあっていいのかと憤りながらも、見てよかったと話してくれた。世界ではどんなことが起きているのか、知ると知らないとではとにかく違うのだ。そして、もしも誰かが誰かに危害を加えようとしたらそれは罪であり、相手が100％悪いことであるということをまずは知って欲しい。性的同意のとられていない性的アクションは、赤信号を無視して突っ込んでくる車と同じ。絶対に許されない罪なのだ。

朝起きたら顔を洗い、食べたら歯を磨き、トイレに行ったらおしりを拭くように、性的同意を理解していることが常識である世の中になりますように。心理的安全性を感じられる世の中で、気の合う人と楽しく生きていきたい。恋愛は、その先に生まれるから。

今回の塾前じゃないごはん

「れんこんのしゃきしゃきクミン炒め」

さあ、れんこんの季節が始まります。茨城県の霞ケ浦でれんこん農家のかたに取材したとき、れんこんは季節ごとに味が変わる根菜（実際は地下茎）だと初めて知りました。霞ケ浦の場合は9月の下旬ごろまでにほぼ生長を終え、その後は田んぼの中でねかされ、でんぷん質を糖に変化させて出荷される。晩夏や初秋のものは比較的さっぱりした味わいで、11月ごろから糖度がぐっと上がり味も増してくる。つまり旬の走りにあたる9月のれんこんはさっぱりした味わいで、しゃくっと軽い歯ざわりの炒めものにぴったりなのです。今回は、ワイン片手にちゃちゃっと作れるれんこんつまみをご紹介します。

ポイントはれんこんの切り方。繊維にそって縦に切り、しゃきっとした食感に仕上げます。輪切りスライスよりも食べごたえがあるので、れんこんそのものの味わいも楽しめます。にんにくのうまみと唐辛子の辛さに、クミンシードの香ばしさがアクセント。塩味ベースで、ワインビネガーを少量加え、うまみをたします。

れんこん１節はピーラーで皮を向き、繊維にそって縦に細長い乱切りにする。切ったら水に5分ほどさらし、表面のでんぷん質を落として変色を防いでアクを取り、ざるにあげて水けをきる。にんにく１かけはつぶす。赤唐辛子１本は種を取ってちぎる。フライパンにオリーブオイル大さじ１とにんにく、唐辛子を入れて弱火で熱し、にんにくの香りが立ってきたらクミンシード小さじ1/2を加え、中火で30秒以上熱する。クミンシードがプチプチはじけだしたら、しっかり水をきったれんこんを加えて炒める。白ワインビネガー大さじ１を回しかけ、加熱して酸味をしっかり飛ばす。全体に油が回ったら塩少々をふり、香ばしさが立つまで中火でじっくり焼きつける。味をみて塩適宜でととのえる。

クミンシードの香ばしさににんにくのうまみと唐辛子の辛みがきいて、しゃくしゃくした歯ざわりが楽しい。香りが食欲をそそる、初秋のけしからん炒めものです。