close

レシピ検索

食材からレシピを探す

  1. HOME
  2. 岸本葉子の 年をとるって、こんなこと?
暮らしの中でふと感じる「これってトシかも?」。困りごとや心配ごとだけでなく、大人ならではの楽しみも。おねえさん世代の岸本さんが送るリアルな「体験レポート」です。
11月25日 親の介護をどうしよう
私にはできない
 人にまったく言わなかったので書く機会を逸していたが、この春に父を送った。母はとうに故人となっているので、これで私の親の介護は終了したことになる。
 振り返ればいつも「後追い」だった。
 親には申し訳ない言い方だが、三十代そこそこから、いつか来る介護は私の心に重くのしかかっていた。介護の話を耳にしては、わが家の場合どうなるだろう、どうしようと考えて思い悩んだ。
 姉は小さい子がいるから、ひとり暮らしの私が介護すべき。親と同居することになるんだろうか。仕事はどうする? 働く時間がとれないと、収入は即とだえる。
 公的施設に申し込んでも、会社勤めでない私は在宅介護が可能だろうと言われてしまうのか。民間の施設は、資金力のないわが家ではとてもとても……。
現実は待ったなし
 具体的に考えて、例えば下の世話ひとつとっても、介護者は体位交換にかかる負担で腰を痛めてしまうと聞く。ただでさえ腰痛持ちの自分にできるのか?
「できない」と頭を抱えるのが常。
 できる、できないにかかわらず、現実は待ったなしである。母が心筋梗塞で入院したときは「いよいよだ!」と身構えた。退院したその日から介護がはじまることになろう。そのための準備をすべく、介護用品店へ駆け込み、商品カタログをもらってくる。取り寄せを頼んでいる間に、入院先で母は亡くなり、準備はムダというか、取り越し苦労となったのだった。
 介護では、想定と違うことが違うスピードで起こるもの。
前もって考えても仕方ない
 父の場合もそうだった。介護が必要になった頃は、姉はとうに子育てを終え、成人した子たちがむしろ介護の戦力になってくれた。新たな事態が発生するたび、ケアマネージャーさんに相談しながら、なんとか在宅で続けてきた。最後のひと月だけ入院したが、そのときだって退院したら市の施設に移れるよう、申請書を取り寄せたり介護認定をとり直したりの準備をしていたのだ。ことほどさように、現実が常に先に進行し、ただただついていくだけ。
 介護は、備えておくべきものとのイメージがある。が、どのタイミングで何が必要になるか予想できない。走りながら対応策を探すしかないのだ。ひとことで言うなら「前もって考えても仕方ない」。
 いつか来る親の介護が気になる人の心を軽くするものかどうかはわからないけれど、二人の親を送ってみての正直な感想である。


岸本さんの本 『ちょっと早めの老い支度』
『ちょっと早めの老い支度』
50代が近づいたとき、老後の準備を考え始めたという著者が、どんなときに老いを意識し、どんな支度を始めたかを率直に綴ったエッセイ。
1961年神奈川県生まれ。エッセイスト。保険会社に勤務後、中国・北京に留学。自らの闘病体験を綴った、『がんから始まる』(文春文庫)が大きな反響を呼ぶ。著書は、『ちょっと早めの老い支度』(小社)、『ためない心の整理術 』(佼成出版社)、『「和」のある暮らししています』(角川文庫)など多数。共著に、『ひとりの老後は大丈夫?』(清流出版)がある。 岸本葉子公式サイト>>
バックナンバー
イラスト/松尾ミユキ 人物写真/安部まゆみ