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年をとるってこんなこと?

暮らしの中でふと感じる「これってトシかも?」。困りごとや心配ごとだけでなく、大人ならではの楽しみも。おねえさん世代の岸本さんが送るリアルな「体験レポート」です。

7月9日 俳句に探る、元気のもと

ビギナーでも点が入るかも
  俳句会の三十五周年パーティーで高齢者パワーに圧倒されたと書きました。なんでそんなに元気なの。秘密を探るにあたり、俳句と私の関わりを書くと。
  作りはじめたのは五年ほど前。世界でいちばん短い詩形というし、どんなものだろうと興味を持って。最初のうちは入門書を読み読みひとりで作り、たまーにテレビの俳句番組に投稿していた。佳作にもならないので音沙汰なし。地面に穴を掘って叫んでいるように無反応で、その頃は特にわくわくすることでもなかった。
  知人の紹介で、句会に参加してから一変。
  句会は決められた数の句を出す。無記名なので誰の句かはわからない。それを清書して回す。字によっても誰のかわからなくするため。作者を知らないまま、いいと思った句を決められた数選んで発表。選んだ人の数が、句の点数になる。点を得た句は、どこがいいかを評される。
ストレスフリーな交友関係
  「まぐれで点が入ることあるじゃない。点が入ればほめられるじゃない。家ではほめられることなんて絶対ないから、気分いい」
  参加者のひとりの女性が言っていた。まさしくそう。
  ふつうのお稽古事だと上手下手がどうしてもあるし、長く続けている人とそうでない人との差は歴然だけれど、俳句は毎回毎回「やってみないとわからない」。文芸でありながらゲーム性もあるのです。
  しかも無記名だから「世話になっているあの人の句だから、選ばないと」というようなプレッシャーからは自由。人間関係の解放区!
吟行はスリル満点
  吟行句会はますますスリルが増します。名所などを歩いて作って句会をすること。歩くだけでも体にいいし、好奇心をもってものを見るから、たぶん脳も活性化される。訪ねるのは古池やお寺みたいな、わびさび系に限らない。流行りのスポット東京駅やキャンパスなどで、今を呼吸し、ついでに若いエネルギーも呼吸。句会の場所はカラオケルームだったり、キャンパスの学食だったりする。
  天候、どんな題材と出会うかなど出たとこ勝負。予測がつかない。花曇り、なんて季語を心のうちに用意していっても、雲ひとつない青空だったり花が散った後だったりする。思いどおりに事が運ばなくても計画にしがみつかず、臨機応変に修正ないし頭を切り換える、柔軟性も鍛えられそう。ふつうならテンションが下がりそうな雨でも、ウォーキングシューズに傘さし嬉々として集合場所に来る面々を見ると、「元気のもとはこれか」と思う。
  ちなみに今年俳句の大きな賞をとった人は、九十九歳の女性でした。
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1961年神奈川県生まれ。エッセイスト。保険会社に勤務後、中国・北京に留学。自らの闘病体験を綴った、『がんから始まる』(文春文庫)が大きな反響を呼ぶ。著書は、『ちょっと早めの老い支度』(小社)、『俳句、はじめました』(角川ソフィア文庫)、『買おうかどうか』(双葉文庫)など多数。共著に、『ひとりの老後は大丈夫?』(清流出版)がある。

岸本さんの本

ちょと早めの老い支度
『ちょっと早めの
老い支度』
50代が近づいたとき、老後の準備を考え始めたという著者が、どんなときに老いを意識し、どんな支度を始めたかを率直に綴ったエッセイ。
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イラスト/松尾ミユキ 人物写真/安部まゆみ