close

レシピ検索

食材からレシピを探す

年をとるってこんなこと?

暮らしの中でふと感じる「これってトシかも?」。困りごとや心配ごとだけでなく、大人ならではの楽しみも。おねえさん世代の岸本さんが送るリアルな「体験レポート」です。

4月23日 トリセツが捨てられない

 この数年モノを減らしています。クローゼットをはじめ目についたところのモノを少しずつ処分。服、ストールなどの小物、食器……。
 でもまだ手つかずのジャンルがあった。電気製品の取扱説明書(トリセツ)。テレビのそばの収納の扉をたまたま開けたら、出てくる出てくる。電気製品関係の冊子や紙。うちってこんなに電気製品があったっけ。

処分したアイロンのまで
 このアイロン、前のじゃない? ホットカーペットもこの後買い替えたんだった。どれも本体はとうにないのに、説明書だけ残っている。
 冷蔵庫や洗濯機を設置する際の注意書きまで。設置がすんだら用済みのはずでもとってあるのは、「いつかまた引っ越すことがあるかもしれない。そのときに要る」と考えてか。自分で設置するわけでもないのに。そもそもできない。ここに来たときも運送屋さんに頼んだのだった。
 自分でできないからこそ、とっておきたくなるのかも。「私はちんぷんかんぷんだけれども、この紙を見せればなんとかなる」と信じる。
保証書があるために
 保証書とセットなのも足かせになっている。でも保証の対象である一年の間に故障して修理を申し込んだことなど、過去になかった。延長保証の五年間だってそう。延長保証は量販店が設けているもので、買い上げ額の五パーセントを保証料として代金とともに支払う。私はあれを「ポイントで客に還元する十パーセントの半分を取り戻す策なのでは」とにらみつつ、安心料と思ってついつける。今回出てきた延長保証書の何枚かは、発行者がもう潰れた店だった。
 冊子や紙をどけるとその奥にはバッテリー、コード、ケーブルの類。どれがどの電気製品のか、差し込みの形が同じなら共有できるかどうかもわからない。パソコンやデジカメについてきたらしいCD-ROMだかDVDだかもある。その区別すらつかない私としては、とりあえずとっておくのが無難そう。
「何かのとき」ないと困る?
 もうわが家に存在しない製品のトリセツと保証書はさすがに処分したが、それ以外は元に戻した。
 捨てられない根本には、私が電気製品にうといせいがあるのでしょう。
  服みたいに単にもったいないだけなら、「いつか着るかも」の「いつか」は来ないと思い切れる。電気製品は判断がつかないだけに「何かのとき、ないと困るかも」の縛りが、他のジャンルに比べて強力なのだ。電気製品の進化に、自分が追いつけなくなるほど、トリセツも増えていきそう。
 片付けのブラックゾーンとなっています。
  • ←前へ
  • 次へ→

1961年神奈川県生まれ。エッセイスト。保険会社に勤務後、中国・北京に留学。自らの闘病体験を綴った、『がんから始まる』(文春文庫)が大きな反響を呼ぶ。著書は、『ちょっと早めの老い支度』(小社)、『俳句、はじめました』(角川ソフィア文庫)、『買おうかどうか』(双葉文庫)など多数。共著に、『ひとりの老後は大丈夫?』(清流出版)がある。

岸本さんの本

ちょと早めの老い支度
『ちょっと早めの
老い支度』
50代が近づいたとき、老後の準備を考え始めたという著者が、どんなときに老いを意識し、どんな支度を始めたかを率直に綴ったエッセイ。
  • amazon>>
  • 楽天ブックス>>
  • セブンネットショッピング>>

イラスト/松尾ミユキ 人物写真/安部まゆみ