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  2. 岸本葉子の 年をとるって、こんなこと?
暮らしの中でふと感じる「これってトシかも?」。困りごとや心配ごとだけでなく、大人ならではの楽しみも。おねえさん世代の岸本さんが送るリアルな「体験レポート」です。
10月14日 ジムのレッスンにデビュー
ひとりの運動の気楽さ
 ジムはときどき行くけれど、する運動は同じだ。クロスマシーンという機械に乗って、両手でバーを押しながらペダルを踏んでひたすら歩く。「まだ十分?」「まだ二十分しか経ってない?」。時計を見ながら忍の一字。途中で止めて機械を降りたい衝動と闘い続ける。
「楽しい」という要素はないが、レッスンより気楽。思い立ったときに行き、機械が空いていればすぐはじめられる。スタジオレッスンは、レッスンのある時間に合わせないといけないし、混むものは早めに行き整理券をもらうなど、何かと面倒。もっぱら機械で、ひとりストイックに運動していた。
音楽につられ、人について
 ある日突然空き時間ができた。ジムでたまには泳ごうか。プールが使える時間かどうか、レッスン表をジムのホームページから開き、スタジオレッスンに目が止まる。
 ちょうどこの後、整理券の要らないレッスンがある。内容はよくわからないが、初心者向けの印付き。急いで行って滑り込んだ。
 インストラクターがいくつかの動きを説明する。基本はそれの組み合わせらしく、エアロビクスの簡単なものと思えばいいようだ。音楽がかかる、おっ、これはマシーントレーニングにはない現象。曲につられて、身の内から浮き立つような。
 まずはふつうに立ち、片足を前へ後ろへ。後ろへ引くとき、同じ側の腕を前へ伸ばす。それに上体を倒す動きも付けていく。しだいに大きくテンポよく。給水タイムを挟んで再開。
 勘の悪い私は、動きが切り替わるたびにつっかえ遅れる。前の人をまねて、どうにか揃ってきたところで次の動きへ。その繰り返し。私の世界は前の人の背中と、鳴り響く音楽だけになっていった。
癖になりそう
 インストラクターの合図で、動きが深呼吸に変わる。えっ、もう四十五分?! その間時計を一度も見なかった。「お疲れ様」の声と拍手で終了。
 自分しだいでいつでも降りられる機械は、その衝動に抗して「やる気」を維持するのがたいへん。レッスンは音楽にのせられ、前の人の動きについていくうち、「やる気」を保つ努力なしで、自然と完遂できてしまう。皆でいっしょに行う効果である。
 終わった後もマシンだと、「とりあえずノルマは達成したか」くらいの気分で、黙って立ち去るだけだけど、レッスン後はもっと陽性の充実感といおうか。この感じ、癖になりそう。
 時間さえ合えば、また出たい。
 それにしても常連さんのパワーは驚く。周囲の会話では、私より年上そうな人でも、今日は何と何に出たとか、この後も出ると言っている。一日に二レッスン、三レッスンとこなしているとは! 私はもう風呂入って休むしか考えられないのに。
 年であっても慣れればできるようになるのだろうか。


岸本さんの本 『ちょっと早めの老い支度』
『ちょっと早めの老い支度』
50代が近づいたとき、老後の準備を考え始めたという著者が、どんなときに老いを意識し、どんな支度を始めたかを率直に綴ったエッセイ。
1961年神奈川県生まれ。エッセイスト。保険会社に勤務後、中国・北京に留学。自らの闘病体験を綴った、『がんから始まる』(文春文庫)が大きな反響を呼ぶ。著書は、『ちょっと早めの老い支度』(小社)、『ためない心の整理術 』(佼成出版社)、『「和」のある暮らししています』(角川文庫)など多数。共著に、『ひとりの老後は大丈夫?』(清流出版)がある。 岸本葉子公式サイト>>
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イラスト/松尾ミユキ 人物写真/安部まゆみ