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  2. 岸本葉子の 年をとるって、こんなこと?
暮らしの中でふと感じる「これってトシかも?」。困りごとや心配ごとだけでなく、大人ならではの楽しみも。おねえさん世代の岸本さんが送るリアルな「体験レポート」です。
12月24日 場所ふさぎの品
無駄なモノはもうない、はずが
 年末は処分のシーズン。粗大ごみの申し込みはお早めにという案内が、自治体からも来ている。室内を見わたすと、捨てるべきモノは特になさそう。ここ数年、服をはじめとするモノ減らしにつとめた成果が出ている感じ。
「無駄なモノがない部屋なのだなあ」と改めて思い……いや、あった。本来の機能をまったく果たしていない点で、無駄中の無駄、今年買った最大の場所ふさぎ。箪笥が増えてしまったのです。
「かわいい」に抗えず
 この家に住んで十六年間、箪笥は置かないできた。クローゼットがあるなら不要だと、引っ越しの際に処分。以後クローゼットに入る衣類しか持たないようつとめてきた。
 モノ減らしにとりかかるまでは、クローゼットに詰め込んで、取りにくいし、いざ出すとしわになっているし。「箪笥があれば」と何度もぐらつきかけたが、そのたびに意志を強くし首を振る。「収納場所を増やすのは、収納問題を解決しない」と考えて、クローゼットに収まる量に限ってきた。
 モノ減らしのかいあって、クローゼットにも気持ちにもゆとりができた今年のある日、古道具店の前を通りかかって、私の胸はふい打ちの矢に射貫かれる。「かわいい」。幅一メートルくらいの引き出し箪笥。上の方は小引き出しで、左右にガラスの扉がある。昭和の時代、少女の部屋にあったような。ガラスの中にフランス人形やリボン細工のプードルなど飾って。ノスタルジーに抗しがたく、買ってしまった。一万三千円という、家具にしてはお値打ちの価格も魅力だったと告白しよう。
入れられない箪笥
 買ってはきたが、入れるモノはない。箪笥のぶん部屋は当然狭くなり、アイロンをかけるときなど、正直じゃま。ただでさえ狭い部屋をなんとか広く使おうとするのがふつうなのに、入れるモノのない入れ物を置くなんて、どうかしている。
 ガラスの内側にはフランス人形……は、さすがにないので、花の刺繍の布バッグを飾り、小引き出しには、白鳥やバンビの柄の雑貨など、年がいがなさすぎて出しておくのが恥ずかしい雑貨を並べ、秘密の癒しスペースとしたが、こういうのに癒される自分ってどうよ、とも思う。
 片付けが面倒なときは、癒し雑貨以外のモノも放り込みたくなるけれど、それは厳禁。「入れるのを許すと、モノは増える」と自分を戒める。しかし、モノを入れてはいけない入れ物って……(さきの疑問の繰り返し)。 でも、矛盾は矛盾のままにしておこう。減らすばかりが能ではない。いわゆる「心の潤い」の機能を持つ品として置いておくつもりです。


岸本さんの本 『ちょっと早めの老い支度』
『ちょっと早めの老い支度』
50代が近づいたとき、老後の準備を考え始めたという著者が、どんなときに老いを意識し、どんな支度を始めたかを率直に綴ったエッセイ。
1961年神奈川県生まれ。エッセイスト。保険会社に勤務後、中国・北京に留学。自らの闘病体験を綴った、『がんから始まる』(文春文庫)が大きな反響を呼ぶ。著書は、『ちょっと早めの老い支度』(小社)、『ためない心の整理術 』(佼成出版社)、『「和」のある暮らししています』(角川文庫)など多数。共著に、『ひとりの老後は大丈夫?』(清流出版)がある。 岸本葉子公式サイト>>
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イラスト/松尾ミユキ 人物写真/安部まゆみ
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