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  2. 岸本葉子の 年をとるって、こんなこと?
暮らしの中でふと感じる「これってトシかも?」。困りごとや心配ごとだけでなく、大人ならではの楽しみも。おねえさん世代の岸本さんが送るリアルな「体験レポート」です。
3月11日 何はなくともアイブロー
眉はしだいに薄くなる
 質問です。もしメイク用品をひとつしか使えないとしたら、あなたは何を選びますか?  私の答はアイブロー。
 かつてそれは私にとって、眉を好きな形に整えるものでした。流行やなりたいイメージに合わせ、太くしたり角を作ったり。今はもっと切実。欠けた部分を補う。
 眉というのは年とともに薄くなる。平安貴族の女性は、楕円のように短く淡く眉を刷いているが、今の私はあんなふう。眉尻側三分の一がほぼ消滅している。間違って剃り落としてしまったみたい。パーツを欠いたような妙な感じが、自分でもする。
 しみも気になる。濃い眉は視線をおのずとひきつけるが、そうでないと肌の色むらが相対的に目立つのだろう。輪郭もなんとなく、ぼけた印象に。
描き足しても、とれやすい
 出かけるときは必ず描く。支度はいつもぎりぎりなので、前髪の分け目から見える方だけ描くことも。
 化粧ポーチにも入れていく。時間が経つと落ちてくるので。毛のある眉頭の方はまだ粉がひっかかって残っていても、肌にじかに載っているに等しい眉尻の方はとれやすいのだ。
 ある日メイクをしようとすると、アイブローが見当たらない。どうしよう、出かけられない!
  探した挙げ句、その前に持っていったバッグの底に転がっていた。化粧ポーチの口の隙間から抜け落ちたらしい。
 そのときの焦りようから知った。ファンデーションを塗らなくても口紅をつけなくても、眉を引かないことはもう考えられないのだ。
スペアを備えて
 こうしょっちゅう持ち歩いていては、いつかなくす。そのときに恐慌をきたさないよう、スペアを備えておくことにした。
 使っているアイブローはカートリッジ式で、芯を含んだ先を付け替えるタイプ。ホルダーごとの全体を買うのはもったいないから、先だけにする。少々握りにくいけど、必要なのは芯なのだし、化粧ポーチに入れるには長くない方がいいくらい。
 出先で、さて使おうとすると、芯が出ない。ホルダーに嵌め込まないと出ない作りになっているのだ。泣く泣くまるまるもう一本購入。
 それほどまでになくてはならぬものなのです。


岸本さんの本 『ちょっと早めの老い支度』
『ちょっと早めの老い支度』
50代が近づいたとき、老後の準備を考え始めたという著者が、どんなときに老いを意識し、どんな支度を始めたかを率直に綴ったエッセイ。
1961年神奈川県生まれ。エッセイスト。保険会社に勤務後、中国・北京に留学。自らの闘病体験を綴った、『がんから始まる』(文春文庫)が大きな反響を呼ぶ。著書は、『ちょっと早めの老い支度』(小社)、『ためない心の整理術 』(佼成出版社)、『「和」のある暮らししています』(角川文庫)など多数。共著に、『ひとりの老後は大丈夫?』(清流出版)がある。 岸本葉子公式サイト>>
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イラスト/松尾ミユキ 人物写真/安部まゆみ