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  2. 岸本葉子の 年をとるって、こんなこと?
暮らしの中でふと感じる「これってトシかも?」。困りごとや心配ごとだけでなく、大人ならではの楽しみも。おねえさん世代の岸本さんが送るリアルな「体験レポート」です。
2月25日 風邪で棒に振る
筋トレのしすぎ?
 言ってしまえば「風邪で寝込み、まる二日間棒に振った」だけの話なのだが、それに至るまで、なんと的外れなことばかりしていたか、反省を込めて記します。
 金曜の朝、洗面台の前に立つとなんか脱力感がある。その日は二つの病院と美容院へ行く日。しゃがんで化粧をしながら、「ゆうべ寝不足だったものな」。
 体のあちこちが重だるくてよく眠れなかった。あのときすでに引いていたのかもしれないが、ベッドの中での私の解釈は「筋トレをよくしたものな」。加圧トレーニングに励んだのだ。夜中いったん起きだして湿布薬を貼り、再びベッドにもぐり込んだが、肘や肩が突っ張るように痛く、気持ちも悪い。「このパジャマ、きゅうくつなんでは」「静電気がすごすぎるのでは」。何度も着替え、切れ切れに寝た。
 病院は定期的に通っている漢方だ。待合室でもいつにない倦怠感。「翌日までこう疲れが残るくらい運動してはだめだな」。そのときもまだ「筋トレのしすぎ」と思い込み、診察室では医師を目の前にしながら症状を訴えなかったのだから、ほんと、おばかです。
休めばいいのに
 二つめの病院も、定期的に通っている婦人科。午後の受付まで一時間ほどあく。そのときも、おとなしく休んでいればいいものを、「あの寝苦しさでは、パジャマをなんとかしなければ」。セール中の肌着店をうろつき、体力をよけいに消耗していたのだから、おばかにもほどがある。
 婦人科は処方箋をもらうだけ。残る用事は、それを持って薬局へ行くのと美容院での白髪染めだ。どちらも後日ですむことで、早く帰って休めばいいものを、「先延ばしするとおっくうになる。まとめてしてしまう方が結局は楽」と判断。すすぎのお湯が、いつになく冷たく感じられた。
 夕方、家に着くと、筋肉痛、関節痛がひどくなっている。鎮痛剤を飲んで、とりあえずベッドへ。「筋トレのしすぎにしては、いくらなんでも」とさすがに思い、熱を計って目を疑った。八度三分? 鎮痛剤は解熱剤を兼ねているのに、この値?
初期対応がまずすぎた
 食事もとらず、ベッドの中でもうろうとして過ごす。喉の渇きをおぼえ、台所からペットボトルの水を持ってきて、かたわらのテーブルに置きたく思うが、実行に移す力がない。湯たんぽを電子レンジで温め、背中の寒さをなんとかしたいが、やはり動けず。「うちの親はこれら全部を、家族にしてもらえるわけだな」。引き比べて、ひとり身の自分の行く末を憂う。
 しかし少なくとも今度の風邪については、同情の余地はない。なんと言っても初期の対応がまずすぎた。異変に気づくチャンスはいくらでもありながら、寝不足のせい、筋トレのせい、パジャマのせいと、誤った解釈で事態を悪化させることばかりしていた。「体の声を聞く」なんて、言うは易く行うは難し。自分の体と何十年も付き合ってきたのに。
 日曜の夕方までまる二日間寝込み、当然筋肉は落ち、加圧の頑張りも無に帰してしまったのでした。


岸本さんの本 『ちょっと早めの老い支度』
『ちょっと早めの老い支度』
50代が近づいたとき、老後の準備を考え始めたという著者が、どんなときに老いを意識し、どんな支度を始めたかを率直に綴ったエッセイ。
1961年神奈川県生まれ。エッセイスト。保険会社に勤務後、中国・北京に留学。自らの闘病体験を綴った、『がんから始まる』(文春文庫)が大きな反響を呼ぶ。著書は、『ちょっと早めの老い支度』(小社)、『ためない心の整理術 』(佼成出版社)、『「和」のある暮らししています』(角川文庫)など多数。共著に、『ひとりの老後は大丈夫?』(清流出版)がある。 岸本葉子公式サイト>>
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イラスト/松尾ミユキ 人物写真/安部まゆみ
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