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  2. 岸本葉子の 年をとるって、こんなこと?
暮らしの中でふと感じる「これってトシかも?」。困りごとや心配ごとだけでなく、大人ならではの楽しみも。おねえさん世代の岸本さんが送るリアルな「体験レポート」です。
7月8日 直して履き続けたい靴←タイトル
足が痛いと、しまいっぱなしに
 家にモノは多いけど、使っているのは一部に過ぎない。箸でも皿でも食器戸棚から出すとき、使いいいのをとっさに選んでいて、結果としていつも同じものになる。
 靴もそう。
 若いときは見た目や気分のためならば、少々足が痛くてもがまんして履いていた。今はほんとうに、快不快に正直。ちょっとでも履くのがつらいと、履かなくなる。コンフォートシューズの履き心地を知ってしまってからは、パンプスはほとんど処分した。数年前のこと。
 久々に玄関の靴入れを点検すると、その後なお履かなくなったものがある。
 一足だけ残しておいたパンプス。改まった場所へ行くとき黒は要るなととってあったが、この前の法事にも履いていかなかったから、もう意味ないかも。
 コンフォートシューズでも、しまいっぱなしのがある。ヒールがやや高めのは、青信号の点滅につられて駆け出すとき、ぐらついたことが何度かあって、捻挫の危険を感じたのだった。自転車のペダルを踏むにも不向きだし。
 両方とも処分しよう。
修理はできません?
 ひたすら実用本位になり、履く靴の範囲はどんどん狭くなる。その代わりストライクゾーンにはまったものはとことん履き通す。
 学生靴のようなスリップオンでフラットな黒のコンフォートシューズは、黒のレギンスに合わせて来る日も来る日も履き続け、縫い目の糸がほつれてきた。甲をおおう逆Uの字の部分とへりとを継いである部分。買った店に持っていくと、修理はできないと言われてしまった。
 もう一足は同じくフラットな黒のコンフォートシューズだが、ややフォーマルめのデザイン。少女のお出かけ革靴のように、ストラップで留める。この前の法事もこれですませた。パンプスなき今、改まった場所へ履いていける貴重な靴だ。
接着剤でくっつけて
 ところがこれも酷使しすぎたのか、つま先の底のラバーがはがれてきた。フォーマルにも通用する靴で、これだけの履き心地のを店で新たに探すのはたいへん。私は考えた。
「自分で修理してしまえ」
 ゴム用の接着剤をラバーと爪先との間に注入。強度を増すため、かなり多めに。乾くまで洗濯ばさみで留めておく。
 くっつくことはくっついたが、シロウト仕事の哀しさ。継ぎ目からはみ出た接着剤が黄土色に固まり、こびりついている。こそげ落とそうとしても落ちない。再び考えた。「黒く塗ってしまえ」。
 黒の油性ペンで塗ってしまえば、周囲と同じ色。質感は少々異なるが、人の靴の爪先をそこまで注意して見る人、いないはず。
 耐久性がどれくらいあるかわからないけど、直してはできる限り履き続けるつもり。


岸本さんの本 『ちょっと早めの老い支度』
『ちょっと早めの老い支度』
50代が近づいたとき、老後の準備を考え始めたという著者が、どんなときに老いを意識し、どんな支度を始めたかを率直に綴ったエッセイ。
1961年神奈川県生まれ。エッセイスト。保険会社に勤務後、中国・北京に留学。自らの闘病体験を綴った、『がんから始まる』(文春文庫)が大きな反響を呼ぶ。著書は、『ちょっと早めの老い支度』(小社)、『ためない心の整理術 』(佼成出版社)、『「和」のある暮らししています』(角川文庫)など多数。共著に、『ひとりの老後は大丈夫?』(清流出版)がある。 岸本葉子公式サイト>>
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イラスト/松尾ミユキ 人物写真/安部まゆみ