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  2. 岸本葉子の 年をとるって、こんなこと?
暮らしの中でふと感じる「これってトシかも?」。困りごとや心配ごとだけでなく、大人ならではの楽しみも。おねえさん世代の岸本さんが送るリアルな「体験レポート」です。
4月22日 ときならぬ大掃除
食洗機を買って
 私はショックを受けている。心配にもなっている。ことの起こりは新しい食洗機を買って。
 細かな部分がよくできていることに感心する。例えば排水ホース。
 流しへ垂らし、洗うとき出る水を捨てるものだが、先の方に吸盤がセットされている。使わないときはホースを引き上げ、本体の側面にくっつけておける。調理のときホースがじゃまにならず、ホースにもごみがひっかからずに、たいへん便利。
 ここまでで読者の皆さまには、すでに予想がついたでしょう。そう、ホースを上に向けたまま、食洗機を運転してしまったのです。
もっとすべきことがある
 家で仕事をしていた日。書きかけのものがあった私は、食べ終わった器をセットしスタートさせて、すぐに仕事を再開する。一段落し、キッチンへお茶を淹れにいくと、調理台がなんだか濡れている。
「私ったら、よく拭かなかったのね。心に余裕がないとだめね」。仕事が少しは進んだ安堵から、優雅に苦笑し、はっとする。もしかして?!
 果たして水は、ガスこんろの方まで広がっている。お茶の缶を放り出し、拭きにかかった。
 おそろしい。上階だったら下の階に漏れて、たいへんな騒ぎになったのでは。でも床の水は意外と少なくすんでいる。
「いまの食洗機はさすが、節水できるのね」。感心してから、またもはっとし、調理台下の引き出し、収納の扉を開けると、すべてから水が滴った。
 鍋のひとつひとつに水が溜まり、ラップもホイルもフリーザーバッグも水浸し。巻かれた隙間にまで水が入っている。もったいないからゆすいで乾かして使おうかと思ったが、ただの水ではない。排水であることを考えて断念。ゆすいでも食べ物のかすが残り、これからの季節、腐敗して衛生上問題かもと。よりによってその日のメニューはカレーでした。
ホースの向きを確認して
 引き出しを全部外し、洗って干し、扉式の収納も中味を全部出して拭く。ときならぬ大掃除になってしまった。
 この頃信じられないようなミスが、ほんと多くてショック。仕事のことで頭がいっぱいだったせいにしたいが、それにしても……。テレビの認知症予防特集で報じていた脳を鍛えるエクササイズ。受けられるところがあるのだろうか。
 それは今後の課題として、少なくとも食洗機については、これだけの失態を演じたのだから、もう同じミスをしないと思いたい。スタートの前に必ず、ホースの向きを確認しよう。あるいは、ふだんから流しに垂らしたままでいいかも。じゃまになったって、ホースが汚れたって。
 調理台下の収納がきれいになったのだけは、気をよくしています。


岸本さんの本 『ちょっと早めの老い支度』
『ちょっと早めの老い支度』
50代が近づいたとき、老後の準備を考え始めたという著者が、どんなときに老いを意識し、どんな支度を始めたかを率直に綴ったエッセイ。
1961年神奈川県生まれ。エッセイスト。保険会社に勤務後、中国・北京に留学。自らの闘病体験を綴った、『がんから始まる』(文春文庫)が大きな反響を呼ぶ。著書は、『ちょっと早めの老い支度』(小社)、『ためない心の整理術 』(佼成出版社)、『「和」のある暮らししています』(角川文庫)など多数。共著に、『ひとりの老後は大丈夫?』(清流出版)がある。 岸本葉子公式サイト>>
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イラスト/松尾ミユキ 人物写真/安部まゆみ