東京・西荻窪にある韓国料理店「オンギ(Onggi)」は、連日大にぎわい。韓国家庭料理の心づくしのお料理はもちろん、店主・グヌさんによる韓国エンタメの
ふか~い考察も人気の理由! 人気俳優のあのドラマから、マニアックな単館系映画まで、食を切り口に深掘りしてもらいました。グヌさんによる絶品オマージュレシピもあわせてどうぞ!
「ゴハン行こうよ」シーズン1(2013年)
「BEAST(現HIGHLIGHT)のユン・ドゥジュン演じるデヨン。グルメブログを運営しているかなりの食通で、食事はすべて外食か出前。どこかミステリアスな雰囲気を持つ、謎多き男。「ゴハン行こうよ」Huluで配信中 © CJ ENM Co.,Ltd, All Rights Reserved~ 法律事務所で事務室室長として働くバツイチ・33歳のイ・スギョンは、食べることが大好きで、あるグルメブログがお気に入り。スギョンの左隣に住むク・デヨンはいつも女性と電話をしている怪しい男だが、じつはスギョンが愛読しているブログの筆者。そこに、一人暮らしが初めてというお嬢様大学生のユン・ジニが右隣に引っ越してきて……。シングルライフを送る3人が「ゴハン」を通して関係を築いていく、グルメ&ラブロマンスドラマ。デヨン役はBEAST(現HIGHLIGHT)のユン・ドゥジュン。現在、シーズン3まで放映されている。
「ゴハン行こうよ」は、韓国版「孤独のグルメ」⁉
主人公のスギョンは33歳、バツイチ独女。プライドが高く、常に他人を意識するが、おいしい食べ物に目がない。
こんにちは。韓国料理店「オンギ」店主のカン・グヌです。
僕はドラマや映画についてあれこれ考察するのが趣味なんですが、今回は「ゴハン行こうよ」について考えてみました!
「ゴハン行こうよ」は、食べることが大好きな一人暮らしの男女が織りなす、いわゆる
モッパンドラマ。「モッパン」とは、食事風景を見せる動画のこと。人気グルメブロガーのデヨンが、毎回うんちくを語りながら、おいしそうに料理をたいらげます。
じつは
グルメドラマって韓国では珍しいジャンル。僕が推測するに、バラエティ番組やファンサイト限定の動画で、芸能人たちのリアルな「モッパン」がよく配信されているから、あえてフィクションで見たいとは思わないのかもしれません。このドラマも日本の深夜ドラマみたいな、マイナーな枠で放送されていて、大ヒットというより
「コアなファンに長く愛されたドラマ」というイメージです。

独身×グルメというと日本のドラマ
「孤独のグルメ」ですが(韓国でも人気あります!)、一人で食に没頭する五郎さんとは違い、「ゴハン行こうよ」は三角関係あり、サスペンスありと、にぎやかで、また違ったおもしろさがありますよ。そもそも韓国の外食は2人前からが基本。だれかと食べる前提なんです。
オフ会が盛んで、恋人を見つける人も

ドラマでスギョンが夢中になっているグルメブログですが、韓国では2004年ごろからNAVERなどのポータルサイトができて、ブロガーも急増しました。
韓国はネット上の同好会が活発で、サイクリングから映画観賞まであらゆるジャンルがあり、何か新しい趣味を始めようと思ったら、まずは同好会に入るというのがお決まりです。グルメ同好会ももちろんあって、「今日はスンドゥブの店」などと決めて、おいしい店の情報を共有しあっては、大勢で食べに行きます。出会いの場にもなっていて、人数の多い同好会ではトラブル防止のため、電話番号交換禁止というルールがあるほど!
前回お話しした「
梨泰院クラス」の影響で、現在グルメ情報はブログからインスタグラムへ移行しました。
食べるためではなく、撮るための食が求められるようになり、おいしさはやや二の次になったように思います。でも「ゴハン行こうよ」のデヨンがブログにアップするのは、おいしく食べ終わったあとのからのお皿。シーズン1は2013年放映のドラマですが、ただただおいしさを堪能する姿に、料理人としてはホッとします。
ジャージャー麺は、じつはヤンチャな食べ物⁉

ドラマの第1話で、引っ越してきたジニにデヨンがジャージャー麺の出前をおごるシーンがあります。これは
韓国の引っ越しあるある。
24時間電話一本で届けてくれるジャージャー麺は、引っ越し当日のまだキッチンが使えないときに便利なんです。お店側もそれを目当てにマンションのあちこちにビラを貼っています。
ジャージャー麺屋は出前でバイクに乗れることもあり、よくヤンキーの若者たちが住み込みで働いています。マ・ドンソク主演の映画「スタートアップ!」は、2人の不良少年がドンソクが店主を務めるジャージャー麺屋に働きに来て……という成長物語。日本の「クローズZERO」のようなヤンキーバトル映画「風 wish」(日本未公開)にも、30人くらいの不良がジャージャー麺を食べるシーンがあります。
取調室のシーンにも韓国ではカツ丼ではなくジャージャー麺が登場。“ヤンチャな男たちの食べ物”といった感じでしょうか。
韓国・日本・中国が溶け込んだ一皿
じつは、ジャージャー麺は
韓国・日本・中国のつながりを表す食べ物でもあります。1876年の日朝修好条規後、1883年に朝鮮はインチョン港を開港します。そこに船の荷下ろしなどで働きに来た華僑たちが食べていたのが、ジャージャー麺。やがて韓国各地に広がりました。韓国では、必ず「タッカン」をつけますが、これは
日本から来たたくあんのこと。今では中国ではこの料理は姿を消し、韓国料理として定着しています。面白いですよね。
懐かしさがこみ上げる甘みそ味
僕にとって
初めての外食がジャージャー麺でした。小学生当時、山に住んでいた僕の家は出前圏外。ある日、お母さんが食べてきなさいと、50円ほどを持たせて送り出してくれたのです。お金を握りしめながら行くと、店の200m手前からもう、油とたれのいいにおい! よだれをたらしながら歩きました。
山にあったというグヌさんのご実家。西荻onggiインスタグラムよりジャージャー麺屋は出前が主体なので、だいたい店内は汚くて狭い。その中で、たくあんに酢をかけてポリポリ食べては、ジャージャー麺ができるのをドキドキ、ワクワク待っていたのを覚えています。その後、大きくなって軍隊に入り、休暇明けに決まって食べたのもジャージャー麺。その店でいちばん高いものを大盛りで食べ、元気をつけて、また軍隊へ戻っていきました。
「ゴハン行こうよ」では、食事によって登場人物たちがストレスを発散したり、仲直りしたりします。
食事の持つそんな力を、オンギに来るお客さんにもお渡しできたらなと思います。
グヌさんの韓国エンタメ★オマージュレシピ
ジャージャー麺~ドラマ「ゴハン行こうよ」シーズン1より~

今回はお店でもよく出す、オンギ流ジャージャー麺の作り方をご紹介。チュンジャン(春醤)という、ジャージャー麺用の甘みそを使います。これは甜面醤(テンメンジャン)にカラメルシロップなどを入れて熟成させたもの。ネットでも買えるので、ぜひ本場の味を試してみて。
材料(作りやすい分量、4人分)
豚こま切れ肉……300g
〈下味〉
塩……ひとつまみ
しょうゆ……小さじ1
にんにくのすりおろし…小さじ2
しょうが汁…大さじ1と1/3
チュンジャン……100g
玉ねぎ……2個(約400g)
〈煮汁〉
砂糖……小さじ2
鶏ガラスープの素(顆粒)……小さじ1と2/3
オイスターソース……小さじ1
水…270ml
〈水溶き片栗粉〉
片栗粉……大さじ2(約20g)
水……大さじ2と2/3(約40ml)
中華生麺(中太)……4玉
きゅうりのせん切り……1本分
たくあん、サラダ油……各適宜
これを使うと本場味に!「チュンジャン(春醤)」
小麦粉、大豆、塩などでつくられる甘みそ。水分が多く真っ黒で、甘みのある味わいです。韓国のジャージャー麺はこのチュンジャンを使う甘い味なのが特徴。
【下ごしらえ】ボールに下味の材料を混ぜ、豚肉を加えてもむ。1時間ほど漬ける。玉ねぎは幅1㎝のくし形に切り、さらに横に4等分に切る。煮汁の材料を混ぜる。水溶き片栗粉の材料を混ぜる。
作り方
(1)材料を炒める
小鍋にチュンジャンとサラダ油大さじ2を入れ、弱火でじっくり炒める。ふつふつと泡立ち、香りがたったら火を止める。深めのフライパン(あれば中華鍋)にサラダ油大さじ2を強火で熱し、玉ねぎを炒める。透き通ったら玉ねぎを取り出し、フライパンの汚れをさっと拭く。サラダ油小さじ2を中火で熱し、豚肉を色が変わるまで炒める。
(2) ジャージャー肉みそを作る

(1)のフライパンに玉ねぎとチュンジャンを加え、中火で炒める。全体がなじんだら弱火にし、煮汁を加えてよく混ぜる。煮立ったら、水溶き片栗粉をよく混ぜてから少しずつ回し入れ、とろみをつける。
(3)麺をゆでる
麺を袋の表示どおりにゆで、ざるに上げ、器に盛る。肉みそをのせ、きゅうりを添えてでき上がり。つけ合わせのたくあんもお忘れなく!
見た目は真っ黒ですが、甘く、どこか懐かしい味わい。あつあつの麺とよーく混ぜて、どうぞ!ちなみに余ったチュンジャンは、炒めものの味つけに使ったり、マヨネーズと合わせてディップにしても。肉みそは1週間ほど日もちするので、アレンジするのもおすすめです。あったかいご飯にかけたり、うどんや、韓国ではトッポギ(餅)とからめたりも。ぜひいろいろ、楽しんで!
カン・グヌさん
東京・西荻窪にある韓国小皿料理の店「Onggi」店主。日本のカルチャーに心酔し、2009年に来日。調理兵として軍役していた経験をいかし、日本の焼き肉屋や居酒屋などで働いた後、独立。「西荻の小さな韓国」をめざし、観光客向けではない韓国の家庭料理の味わいを発信。お店では「〇〇の最終回について語り合う会」など、韓国エンタメの座談会を開くことも。インスタグラム:@nishiogi_onggi
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