東京・西荻窪にある韓国料理店「Onggi(オンギ)」は、連日大にぎわい。韓国家庭料理の心づくしのお料理はもちろん、店主・グヌさんによる韓国エンタメのふか～い考察も人気の理由！ 人気俳優のあのドラマから、マニアックな単館系映画まで、食を切り口に深掘りしてもらいました。これを読めば、推し作品がもっと味わい深くなること間違いなし！ グヌさんによる絶品オマージュレシピもあわせてめしあがれ！
「梨泰院（イテウォン）クラス」（2020年、Netflix）
「愛の不時着」とあわせて、韓国ドラマ再ブームの火つけ役となったドラマ。主人公のセロイ（パク・ソジュン）は父を死に追いやった外食産業「長家（チャンガ）」グループの御曹司グンウォン（アン・ボヒョン）と、それを隠蔽したグンウォンの父・会長に復讐するため、７年の歳月をかけて、梨泰院に居酒屋「タンバム」を開店。さまざまな妨害に遭いながらも、インフルエンサー・イソ（キム・ダミ）ら仲間とともに、飲食業界の下剋上をめざす。～Netflixシリーズ「梨泰院クラス」独占配信中～
イソのまねをして「ネオ居酒屋」がブームに
はじめまして！ 韓国料理店「Onggi（オンギ）」店主のカン・グヌです。
僕はドラマや映画についてあれこれ考察するのが趣味なんですが、今回は「梨泰院クラス」について考えてみました！
「梨泰院クラス」はもともと「Webtoon（ウェブトゥーン）」と呼ばれるWEB漫画が原作。韓国でドラマ化が発表されると、
セロイ（パク・ソジュン）もイソ（キム・ダミ）もビジュアルの再現度が高く、脚本も漫画原作者が担当することから、そのシンクロ率の高さで公開前から期待が集まっていました。
公開後は知っての通りの大ブーム！
飲食店を開き、イソにあこがれてSNSを駆使して集客する若者が一気に増えました。彼らが開くのは「ネオ居酒屋」。レトロポップな内装で、多国籍料理や見た目重視の料理を出します。
じつは、
少し前まで韓国では洋食を出す店は珍しい存在。潮目になったのはやはりドラマ。2010年の「パスタ～恋が出来るまで～」という、コン・ヒョジンとイ・ソンギュンのイタリア料理店を舞台にしたラブコメが人気となり、シェフにあこがれる若者が増えていったんです。
セロイの復讐にはアメリカの影響が⁉
外食産業が活発になるのはいいことですが、流行のサイクルが早く、次々と新しいものに手を出すところは飲食店店主としてはちょっと疑問。
僕が思うに、これは第二次世界大戦後、アメリカの資本主義が韓国に流入した影響です。何かひとつブームになったら、わぁっとフランチャイズ化して、食が投資の対象になっていく。とても資本主義的なんですよね。
「梨泰院クラス」でも、セロイたちがめざすのは、最高のスンドゥブを出すお店にすることではなく、フランチャイズ化して、長家グループを買収すること。そういう意味でも、
韓国のリアルな食を描けている作品です。
スンドゥブで浮上する「セロイの父は釜山出身⁉」説
そんななか、「梨泰院クラス」の
目玉メニューがスンドゥブというのはちょっと意外でした。僕がまだ高校生のころは、
100人入る大衆食堂で200円で売られているような、若者や市場で働く人のおなかを満たすメニューだったからです。作中では、「タンバム」のスンドゥブは、セロイが
父から受け継いだ「メジュカル」がかくし味という設定。
メジュカルとは、日本でいうみそ玉こうじを粉にした物のこと。蒸した大豆を成形して、こうじ菌を増やしたもので、入れると味に深みが出ます。
この描写を見て、
ひょっとしてセロイのお父さんは釜山出身？ と考えました。僕も釜山出身なのですが、その地域を代表する袋麺「安城湯麺（アンソンタンミョン）」には、このメジュカルの風味が入っているんですよ。日本でも地域によって、みそ派、しょうゆ派と分かれると思うのですが、韓国も同じなんです。ドラマ「恋のスケッチ～応答せよ1988～」でも描かれていますが、
各地の若者が大学や軍隊で集まると、お互いの食べ方や、味つけの違いで盛り上がります。
梨泰院と東京・西荻窪には共通点が
Netflixシリーズ「梨泰院クラス」独占配信中 個人的に「梨泰院クラス」で感激したのは、セロイが自分の店のことだけでなく、
梨泰院という町全体で盛り上がろうと、そこで商売をする人々に声をかけて頑張るところ。梨泰院周辺にはもともと米軍基地があり、ゲイカルチャーや洋食など、多様性を尊重する町。
チャレンジする若者を受け入れる土壌があるんです。その懐の広さは、僕のお店「Onggi」がある西荻窪にも感じます。近所の人たちは外国人の僕を受け入れるだけでなく、何か困っていることはないかといつも気にかけてくれます。僕はひたすらおいしいものを作ることで、恩返ししたいと思っています。
グヌさんの韓国エンタメ★オマージュレシピ
スンドゥブの素・万能「タデギ」のレシピ～ドラマ「梨泰院クラス」より～
今回はだしに溶くだけで、あっという間に本格的なスンドゥブが作れる「タデギ」という万能調味料をご紹介します。保存がきくうえ、ラーメンや水炊きに、ちょいたししてもおいしいですよ。
材料（作りやすい分量、スンドゥブ約16杯分相当）
ねぎ油
ねぎの白い部分 １本分
韓国産粉唐辛子（粗びき） 50ｇ
サラダ油 1カップ
A
牛（または豚）ひき肉 150ｇ
ねぎのみじん切り １本分
にんにくのすりおろし 50ｇ
〈調味用〉
韓国産粉唐辛子（細びき） 75ｇ
天日塩（なければ塩） 大さじ１と１／4（約23g）
だし汁（昆布や煮干し、水でも） 大さじ１
しょうゆ 大さじ１と１／4(約23ｇ)
こしょう 小さじ１／3（約2g）
あれば魚醤（なければナンプラーでも） 小さじ２と１／２（約15g）
作り方
（1）ねぎ油を作る
ねぎは縦半分に切って中のしんを除き、鍋の口径に合わせて長さを切る。小鍋に入れてサラダ油を注ぎ、弱火にかける。ふつふつと煮立ち、ねぎがこんがり色づいたら火を止める（10分が目安）。熱いうちに粉唐辛子を加えてよく混ぜる。20分ほどおいて完全にさめたら、ねぎを取り出す。ボールで受けたざるにペーパータオルを敷き（コーヒーフィルターでも）、こす（でき上りは1/2カップが目安）。
（2）タデギを仕上げる
フライパンに（1）の全量とAを入れて弱めの中火にかけ、肉の色が変わるまで炒める。火を止め、５分ほどさます。調味用の材料を順に加えて混ぜ、再び弱火にかける。塩が溶けたら火を止め、完全に冷ます。
「タテギ」の保存方法
30ｇずつに小分けし、ラップで包む。冷蔵で3か月、冷凍で6カ月保存可能。
『Onggi（オンギ）風スンドゥブ』のレシピ
材料（1～2人分）と作り方
小鍋にだし180mlとタデギ1個（30ｇ）を入れ、中火にかけます。だし汁がなければ水で、代わりにあさり（殻つき・砂抜きしたもの）をたっぷり入れましょう。
煮立ったら大きめの一口大に切った絹ごし豆腐1/2丁と卵１個を入れ、卵の白身に火が通ったらでき上がり。甘みの出るシーフードミックス（冷凍）をひとつかみ入れてもおいしいですよ。刻んだにらを散らすといい感じ。炊き立ての白いご飯とともにめしあがれ。
「梨泰院クラス」のスンドゥブの味の決め手はメジュカルでしたが、今回の
味の決め手は「ねぎ油」。ラー油のような香りの油で、韓国では「コチュキルム」と呼ばれます。これを入れることで
うまみと香りがぐっと増しますよ。スッキリした辛みを楽しんで。
次回4月29日は、グルメドラマ「ゴハン行こうよ」のジャージャー麺を取り上げます。お楽しみに！
カン・グヌさん
東京・西荻窪にある韓国小皿料理の店「Onggi」店主。日本のカルチャーに心酔し、2009年に来日。調理兵として軍役していた経験をいかし、日本の焼き肉屋や居酒屋などで働いた後、独立。「西荻の小さな韓国」をめざし、観光客向けではない韓国の家庭料理の味わいを発信。お店では「〇〇の最終回について語り合う会」など、韓国エンタメの座談会を開くことも。インスタグラム：
@nishiogi_onggi
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