「私より若い人のほうが全然賢い」と柚木さん。若い友人たちが柚木さんの料理を食べているのを見るのが「四葉さんと同じでたのしいんです」――物語の登場人物と柚木さんがかぶります。そういう同世代をどんどん増やしたい!一方で、これちょっといやな話なんですけど……たまにオールドメディアの男性から「やっぱりシスターフッド、はやってますよね! 女性が手を取り合えば日本はよくなります!」とか言われて。「は? なんでこっちの手弁当要求されてんの」ってときがあるんですよね。
シスターフッドものはたしかにはやっていて、作品を作っている人も読んでいる人も真心があるのに、現状を変えたくない人たちにとってはめちゃくちゃ耳ざわりのいいコンテンツにもなってるんですよ。だからそういう人がこの話を「おばさんと若い子のシスターフッドいいよね、癒やされる~」って読んでるときに、「あれ? ちょっとなんか違うぞ? ざらつくぞ?」みたいに思わせたいという意地悪な気持ちがあります(笑)。そういう人がいちばん嫌いなのが、ミャーコという登場人物だと思うんで。
――ミャーコさん! かつては女子高のスターだった四葉の幼なじみですね。自分勝手でずるくて、絶対友達になりたくないタイプ。でも不思議な魅力があるという。ミャーコは若くもなく神秘的でもない、ずるいレズビアン。シスターフッドの物語だとセクシャルマイノリティはヒロインの背中を押す聡明な人物であることが多いんですが、ヒロインに背中を押してもらううえに得することばかり考えて生きているミャーコは、シスターフッドを搾取する側からしたらいやな存在ですよね。
少数派が手を取り合って歴史を変えてきたのはすごくいいことですが、少数派に完璧な行動を求めるのはどうなのかな? 性犯罪ひとつとっても、いまだに被害者ばかりが言葉を要求されて、加害者は守られるじゃないですか。被害者みんなが告発できる勇気を持っているわけじゃない。傷を受けたんだから、発言に矛盾があったり、途中で離脱することもあって当たり前。舞さんと四葉さんは一瞬近づくけど、友達にはなりません。舞さんの境遇に、ミャーコは無関心ですし。舞さんが山戸家に感謝しすぎず、別々の道をいく展開には、そういったことを常々考えたからだとおもいます。
ミャーコのキャラは、女子高時代人気があった同級生たちに、なんと柚木さん本人の感じを足して考えたのだとか。「だらしない感じが私です(笑)」 ――物語中の登場人物の距離感も印象的でした。四葉と真央の親密な関係が、次の章ではあっさりと離れて、何年も連絡を取っていなかったり。逆に再会も描かれます。コロナのせいで人間関係が変わってしまって、知り合いと疎遠になった人ってたくさんいると思うんですよ。
だからこれを読んでくれた人に伝えたいのは、そういう人に連絡を取ってみませんかということ。こんな社会だから、ちょっと連絡を取ることが、人によってはもすごく大きな救いになることもありますから。――確かに……。私の場合、クラファン支援のお願いの連絡にどう返そうか迷っているうち、連絡を取らなくなってしまった人もいます。わかる。でもそれってどっちも悪くないし、そこはミャーコくらいずうずうしくなってもらって。「あのクラファンどした? まあ私は支援してないけど」くらいに。あとは、これを読んでいるあなたが連絡を取った人にすげなくされたりブロックされたりしても、それは提案者・柚木のせいですので!
とりあえず連絡を取るのがライフハックです。日本がすごくいい社会だったら、こんなことは言わないんですけど。
――最終章では近未来の日本社会が描かれますが、これがまたリアルでした。真央が出会う佐々木さんが、真央以上に苦労している若者で。ラストは伏せますが、不思議と救いを感じます。あまりデストピアにはしたくなかったんですけど、未来はハッピーだよっていうのも違う気がして。救われないようで救いがある、それはタイトルの『オール・ノット』にもかかっているんです。〈All Knot〉はパールネックレスの珠の間に結び目を作ることで、切れてもバラバラにならない技法のこと。
そして〈All Not〉は「全部だめ」という意味のほかに「全部だめとはかぎらない」という意味もある。私はこの話はハッピーエンドだと思って書きました。若い世代にも、なにか希望を感じてもらえたらうれしいです。
〈PROFILE〉
柚木麻子さん
2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。著書に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『とりあえずお湯わかせ』『オール・ノット』など多数。
今度の柚木麻子は何か違う。これがシスターフッドの新しい現在地!
友達も、恋人も、将来の希望なんてもっとない。貧困にあえぐ苦学生の真央が出会ったのは、かつて栄華を誇った山戸家の生き残り・四葉。「ちゃんとした人にはたった一回の失敗も許されないなんて、そんなのおかしい」彼女に託された一つの宝石箱が、真央の人生を変えていく。