超高齢社会を迎え、「人生100年時代」といわれる現代。だからこそ、考えだしたら不安でたまらない、家族や自分の老後の生活。各分野のスペシャリストが、そんなあなたの不安にそっと寄り添います。 今回のお悩み/介護 父が認知症の疑いがあるのに、病院に行ってくれません。 76歳の父は、近ごろ物忘れがひどく、最近のことをすぐに忘れて、何度も同じことをきいてくるようになりました。ほかにも、物を置いた場所を忘れて、ずっと探しものをしていたり、前より怒りっぽくなったり。認知症の初期ではないかと思い、病院に行こうと言いましたが、「認知症ではないから絶対に行かない」と、本人はまったく自覚がない様子。いくら説得しても、最後には怒りだしてしまい、親子げんかに。とはいえ、うそをついたりして無理やり連れていくのもどうなんだろう……と悩んでいます。(49歳・女性) 村井理子さんの回答 まず「地域包括支援センター」に相談を。先を見据えて「介護チームづくり」を始めましょう。 お悩み回答者 村井理子さん 私は、レビー小体型認知症※1の義母を介護しているのですが、認知症の始まりというのは、本当にふわーっとしているんですよね。そこからじわじわと何かが微妙に変わっていく。身近で接している家族としては、「白黒はっきりつけたい」気持ちもわかります。でも、病院で「初期の認知症です」と診断されたところで、そこからは何も始まらないんです。家族が「認知症かな?」と思ったら、真っ先に相談してほしいのが、「地域包括支援センター」※2です。私も義母の様子がおかしいと思いはじめたとき、当然病院に行くものだと思っていました。ところが、介護施設で働いている友人が、「先に包括支援センターに行ったほうがいい」とアドバイスしてくれたんですね。実際、包括支援センターに相談したら、すぐに介護チームを組んでくれて、そこから、介護保険の申請※3をして、介護サービスを受けるまでの流れはとてもスムーズでした。病院ではなく、包括支援センターに行ってはじめて「介護」はスタートします。そして今後、初期の症状から中期、そして後期へと移行していくことを考えると、今のうちからプロによる介護体制を整えておくことは、とても大事。親子間はどうしても感情的になりやすいですから、初期の段階から第三者に入ってもらったほうが関係もこじれにくいと思います。無理やり病院に連れていくのは、本人を傷つけてしまうだけです。その前に、家族ができることはたくさんあります。 ※1 レビー小体型認知症 アルツハイマー型認知症に次いで2番目に多い認知症で、高齢者の認知症の約20%を占めている。認知症の一般的な症状である認知機能障害に加えて、体の動きに障害が表れるパーキンソン症状、抑うつや幻覚などの精神症状が出やすいのが特徴。 ※2 地域包括支援センター 全国の市区町村に設置されている、地域の高齢者とその家族を支える総合相談窓口。ケアマネジャーや社会福祉士、保健師など専門知識を持った職員が、さまざまな外部機関と連携しながら、介護サービスプランを作成。介護以外の生活全般の相談にも柔軟に応じてくれる。 ※3 介護保険申請 介護保険サービスを利用するには、市区町村の窓口や福祉事務所、地域包括支援センターへの申請と、要介護認定(または要支援認定)を受ける必要がある。申請後、自宅や施設で認定調査が行われ、主治医の意見書などをもとに要介護度(要支援度)が決定するという流れ。 村井理子さん 翻訳家・エッセイスト。滋賀県・琵琶湖畔で、夫、双子の息子、愛犬と暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。最新刊『実母と義母』(集英社)は、がんで亡くなった実母と、認知症で要介護となった義母の〈ふたりの母〉への思いをつづった家族エッセイ。 麻生要一郎さんの回答を見る「老後の4K」のお悩みをすべて見る(『オレンジページ』2023年12月17日号より)