親に孫を見せられなかった後悔が拭えない。50歳で不妊治療を終了/伊藤東凌さんの回答
だからこそ、考えだしたら不安でたまらない、家族や自分の老後の生活。
各分野のスペシャリストが、そんなあなたの不安にそっと寄り添います。
今回のお悩み/孤独
子どものいない人生。
どう受け入れ、生きていけばいい?

夫56歳、私は50歳になったばかり。長く不妊治療をしていましたが、子どもを授かることができず、50歳を機に完全にあきらめることにしました。私は治療と仕事との両立がむずかしかったため、一度仕事を辞め、今はパート勤めをしています。夫婦仲はいいので、今後は二人で楽しく生きていこうと思う反面、友達や知り合いの子どもの成長を見るたびにうらやましく感じたり、親に孫を見せられなかった罪悪感のようなものから抜け出せません。子どものいない人生をどう受け入れ、どう生きていけばいいのでしょうか?
(50歳・女性)
伊藤東凌さんの回答
〈血縁の呪い〉からみずからを解放しましょう。「里親」になって、新しい親子関係を築く方法も。


伊藤東凌さん
「女性は子どもを産むべき」「孫の顔を見せなければ」という考えは、かつての家制度がつくり出した〈呪い〉のようなもの。気づかぬうちに自分で自分に呪いをかけていませんか? いったん「血縁」という概念をわきに置いてみましょう。そのうえで、子どもを育てたいという気持ちがあるなら、方法はいろいろあります。親子の形は決して血縁だけに限りません。これからは、血縁関係にとらわれない、新しいつながりが増えていくと考えています。
たとえば「里親制度」※1。児童養護施設や乳児院では、虐待や親の病気などさまざまな理由によって親と暮らせない子どもがたくさんいます。こうした子どもたちを自宅に迎え入れて養育するのが、「里親」です。法律上、実子とする「養子縁組制度」とは違い、里親であれば、週末だけ、夜だけ、夏休みだけ子どもを預かることもできます。里親不足※2は社会的な問題にもなっていますから、興味があるなら、ぜひチャレンジしていただきたい。
ほかにも、地域の子どもたちを支援するサービスや自治体の活動に参加することも、立派な〈子育て〉です。子どもがいる・いないにかかわらず、未来を生きる子どもの支援に携わるのはとても意義のあること。
そして、そのような活動をしているあなたのことをご両親は誇りに思うことでしょう。孫の顔を見せられなくても、50歳になるまで元気に生きてきた、それだけで充分、親孝行です。そのことも忘れてはいけません。
※1 里親(養育里親)制度
さまざまな理由で親と暮らせない子どもを自宅で預かり育てること。家庭的な環境に身を置くことで、安心感や信頼感を獲得するのが目的。養子縁組とは違い、里親と子どもの間に法的な親子関係はなく、実親が親権を維持する。里親手当をはじめ、一般生活費や医療費、教育費などの支給がある。
※2 里親不足
厚生労働省によると、社会的養護が必要な子どもは、全国に約4万2000人。そのうち約9割が児童養護施設や乳児院で暮らしている。これは、先進諸国のなかでも圧倒的に多く、里親等の委託率はオーストラリアが約92%、アメリカが約82%なのに対し、日本は約24%にとどまっている。
臨済宗建仁寺派「両足院」副住職
1980 年生まれ。坐禅と瞑想の指導、アート展の企画など活動は多岐にわたる。最新刊は『忘我思考』(日経BP)。メディアプラットフォームnoteにて「医師と僧侶のカケコミ相談室」をスタート。音声メディアVoicyにて「とうりょうさんの寺子屋ラジオ」を配信中。
取材・文/太田順子 イラスト/松元まり子