
2020.02.29
通販番組やネットで、EMSという電気で筋肉に刺激を与える仕組みのベルトがはやりだした頃、すぐとびついた。「スレンダートーン」という商品の類似品だ。
腹に当て電源を入れるだけで、たしか100回分の腹筋運動と同等の効果があるという麻薬のようなフレーズにやられた。
スレンダートーンよりちょっと安い。貧乏性の私は、ダイエット器具は正規品が惜しくて、だいたいバッタモンに手を出してしまう。そしてすぐ飽きる。
だから正規品の実力は、いつもわからずじまいだ。
今、ウェブサイトを見ると、スレンダートーンはだいぶコンパクトになったが、初期のそれらは、チャンピオンベルトのように腹の上に大きなコントローラーがついていて、服の下に巻くと、お腹が異様に出っ張り、妙なシルエットになる。 電気の強さは1から5段階あって、「2」が限界。「5」はとんでもない振動で腰が砕けそうになった。
買ったのが夏で、これをはめてウォーキングをしたらすぐにあせもになった。腹の周りだけきれいに赤いポツポツのあせもベルト地帯に。
痒いのと、ゴム臭いのとで、1ヶ月も使わぬうちにお蔵入りした。 次に商品名は忘れたが、ジェルのついたパッドを通してEMSが流れるシックスパッド風の商品を買った。サッカーのC.ロナウドが宣伝していたあれのバッタモンだ。
これがまた、装着すると皮膚が痒い。
見た目はクリロナのとそっくり。だが、バッタモンは、ゴム生地の素材やジェルパッドの品質など、見た目にわかりにくいところで手を抜きまくっている。
うすうす予想はしていて、「ああやっぱりね」と確認するために買うようなものだ。わかっているのに「3分で腹筋100回分」という麻薬フレーズを見ると、もれなく毎回フラフラとしてしまう。
これは乾電池が切れて使わなくなった。近所のスリムなママが「使わせて」というのでさしあげた。まじめな彼女はしっかりくびれたが、このせいか、食生活の節制のおかげかはわからない。「すごいね」と言うと、「乾電池は替えたほうがいいよ」とアドバイスをもらった。痩せるためには、まず乾電池から。
巻くグッズで、買って速攻でやらかしを自覚したのは、細いベルトを腹に巻きつけて、腹筋がゆるむと自動的に中央の器具が感知してベルトが外れるというダイエットベルトだ。
自然に腹筋を使って呼吸ができるようになるので、無意識のうちに鍛えられ下腹が凹むという謳い文句だった。
届いたそれは、小学生が学校で買わされる裁縫道具の中の巻き尺のような代物だった。中央に、しょぼいプラスチックのフックが付いている。ものすごく単純な作りで、腹をだらんと緩ませると、フックが外れ、ダイエットベルトが取れる。
3800円だったが、どう見ても内職で150円くらいで作れそうだ。
買った自分に腹が立って、ペラペラの推定150円を壁に投げつけ、叫んだ。「こんなのただの紐じゃん! でぶをなめんなよっ」。巻くだけで痩せると信じた愚かな自分を棚に上げ、叩きつけられたそれは一瞬にして壊れた。
またもや懲りずに買ったベルトは、骨盤を矯正できるというもの。果たして効果のほどは……。
おおだいら・かずえ
文筆家。長野県生まれ。’94、編集プロダクションを経てライターとして独立。著書に『東京の台所』『男と女の台所』『もう、ビニール傘は買わない。』(平凡社)、『届かなかった手紙』(角川書店)、『あの人の宝物』『紙さまの話』(誠文堂新光社)、『新米母は各駅停車でだんだん本物の母になっていく』(大和書房)など。『そこに定食屋があるかぎり(ケイクス)』など連載多数。大学生長女と映画製作業の夫と3人暮らし。現在どうやら人生初のダイエット道アガリの噂あり。今後の展開にご注目を!
www.kurashi-no-gara.com
instagram : @oodaira1027
twitter : @kazueoodaira
イラスト/いいあい
記事検索