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【編集マツコの 週末には、映画を。Vol.38】「家族を想うとき」

2019.12.12


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。大手シネコンはもちろん、ミニシアター系の映画館でも、ここ2~3年で急速にネット予約のシステムの導入が増えました。いやほんと便利。こうやってどんどん人と話さなくなっていくな~なんて思ったりもしますが、時間ギリギリにしか行けないときも「席まだあるかな~?汗」と不安にならなくて済むし、映画が見やすくなるのはいいことですよね。ネット予約なし、席は完全自由席! の緊張感も、きっと無くなると懐かしいと思うのでしょうが……。

さて、システムがどんどん便利になっていく陰で、恐ろしいことが起こっているケースもあるんだなと、今回取り上げる『家族を想うとき』を見て思いました。
世界中で起こっている「新しい働き方」の闇を、ある家族の姿を通して描いた今作。
「働き方改革」「多様な働き方」という響きのよい言葉だけが独り歩きしないよう、多くの人に見てほしい映画です!


ケン・ローチ監督、ものすごく怒ってますね。映画の1分1秒から怒りが伝わってきます。
2016年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを獲った前作『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、ある衝撃的なシーンが話題になりました。
それは、シングルマザーの女性がフードバンクに立ち寄った際、空腹のあまり目の前にある缶詰を開けておもむろに口へと運んでしまう場面。
その行動を恥じて涙を流しながらも、食べ物を口へ運ぶのを止められない彼女の姿には、適切な人へ適切な形で援助が届かないイギリスの福祉制度への怒りが込められていました。
前作のリサーチ中に「ある人々」に出会った監督は、一度(二度?)した引退表明を覆し、今作の製作を決心したそう。
閉店詐欺っぽいですが(笑)、素晴らしい映画を作ってくれるならいいですね。

ある人々というのは、宅配業者のドライバーたち。過熱する通販業界の裏で犠牲になっている彼らにスポットを当て、新しい形で始まった搾取のシステムを暴いています。
リッキー(クリス・ヒッチェン)は、フランチャイズの宅配ドライバーとして独立。フランチャイズというのはいわゆる「個人事業主」のことで、会社には所属せずシステムだけ利用して働くスタイルのことです。
頑張ったぶんだけ稼ぐことができ、しかも会社に縛られない自由もある。これだけ聞くと今の時代に合った理想的な働き方に聞こえますが、果たして最低賃金は? 保険は? 労災は……?


リッキーの妻アビー(デビー・ハニーウッド)は、パートタイムで働く介護福祉士。
夫が、宅配の仕事で必要な車を購入するために、彼女の車を売ってお金を作る案に当初は反対しましたが、頑張って働けば2年後にマイホームを買えるというリッキーの言葉を信じることに。
10年前のリーマンショックで苦汁を味わった2人にとって、マイホームはどうしても叶えたい夢なのです。

「搾取の形が前よりも巧妙になっている」と、ケン・ローチ監督と同じく社会問題を題材にすることの多い作家の桐野夏生さんが以前おっしゃっていました。
良い条件に思えた待遇は「限界まで休みなく、しかも効率よく」働いた場合のみ実現するもので、ノルマを達成できないとペナルティが発生する。
気が付いたときには遅く、辞めようにも生活があるからそれもままならない。
リッキーが就いたこの宅配業というのも曲者で、配達先の相手が常に在宅しているとは限らず、今の時代本人のサイン無しでは宅配完了とならないケースが多いのです。
駐禁の問題もあるし、皮算用していた配達数をリッキーはなかなかこなせません。
アビーはアビーで、ただでさえ時間外の対応が多い介護業なのに、移動がバス頼みになってしまったため、子どもたちと接する時間がどんどん無くなってしまうのです。


正直、前作に比べると衝撃が少ないな~と最初思ってしまいました。でも、この感想が危険なのかも。
前作は主人公が病気で働けなくなった59歳の男性、そしてシングルマザーの女性と知り合うストーリーということもあって、分かりやすい「弱者」に見ている側は感情移入できました。

今作では、息子が学校で問題を起こしたり、娘は家族の絆を取り戻そうと奮闘するもなかなかうまくいかなかったり、少しずつ家族が壊れていく様子がとっても切ない。
でも見ようによっては、単にこの家族の人間関係がうまくいっていないだけにも見えてしまうんですよね。
リッキーのちょっと短気なキャラクター設定も功を奏して(?)いて、この人が自分の父親だったらちょっと嫌だなとか思っちゃったんですが(笑)。
これは決してパーソナルな問題ではなく、家族のために一生懸命働いているのに、その仕事が家族を壊す原因になっている。
そこが怖いんですよね。


最初、この邦題に違和感がありました。なんかほのぼのしていて、映画の雰囲気と合っていない……??
と思っていましたが、それぞれが家族を大切にしているのにうまくいかない歯がゆさ、そもそも「家族を想うとき」なんてないよ! と言いたくなってしまうような状況を皮肉にもうまく言い当てているような。
原題は「Sorry We Missed You」。これ、宅配業者の人が置いていく不在通知票に書いてある表現で、「残念ながらご不在でした」という意味らしいです。
血眼になって荷物を届けるリッキーを見ていると、本当に残念だよと思ってしまう……。

イギリスの映画ですけど、日本にとっても全然他人事じゃない!
タイムリーに、先日日本でも個人事業主の宅配ドライバーたちが一方的な報酬の引き下げに対してデモを行っていました。
リッキーのように家族を支える立場の人、これから家族を作る人、いや、そういうことに関係なく色々な人に見てほしいと思いました。


「家族を想うとき」  12月13日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
©Joss Barratt, Sixteen Films 2019

【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和

次回12/20(金)は「THE UPSIDE/最強のふたり」です。お楽しみに!

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