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【編集マツコの 週末には、映画を。Vol.20】「シークレット・スーパースター」

2019.08.15


こんにちは。ふだんは雑誌『オレンジページ』で料理ページを担当している編集マツコです。
いわゆる「泣ける映画」という宣伝があまり好きではありません。そのくせ涙もろいので、子供が頑張っている話や、美しいストーリーを見るとすぐに泣くんですけど(笑)。
自分だけじゃなくて周りのお客さんも泣いているな~と分かるときは、上映後になんとなく観客どうしの一体感を感じて嬉しくなるんです。

あえて言わせていただきます。今回のインド映画『シークレット・スーパースター』は泣けます。泣いちゃいます。
自分の夢をかなえるため、大好きな家族を守るために全力で戦う少女の姿に涙が止まらず、元気をもらえる作品でした。


「インド映画って歌って踊るんでしょー?」と思っているそこのあなた。
確かにそういう映画が多いですが、この映画は踊りません。でも歌います(笑)。歌手になりたい少女のストーリーですから。
最初のシーンから美しいんですよ。電車の中。遠足帰りの中学生(だと思う)たち。一曲歌ってよとせがまれる少女。澄んだ歌声。コンテストに出たらと声をかける少年は、どうやらこの少女インシア(ザイラー・ワシーム)のことが好きなようで……。邪悪なものがなにひとつないこの場面を見ているだけで、涙もろいマツコはノックアウトです。

このシーンが美しすぎるから、彼女が生きる家庭環境を知ると本当に悲しくなる。
なにしろお父さんは権威主義で保守的で、歌手になるなんていう夢は絶対に認めない。
それだけじゃなく、妻を奴隷とでも思っているのか、暴力をふるうこともしばしばです。それも、料理の味が薄いとか日付を間違えたとかそんな理由で。
男尊女卑の観念はインド社会に深く根付いているといいます。映画だから分かりやすくしている部分もあると思いますが、こういう家庭が少なくないのかもしれないですね。
彼が家族の中で愛情を注ぐのはインシアの弟のみ。姉弟の中で優劣がつけられているのが本当に悲しい。母親を救うためにも、自分の夢をかなえるためにも、インシアは両親の離婚を企てるのですが……。


お母さんのインシアへの愛情が見ていて歯がゆい。娘の幸せを願ってはいるけれど、夫に逆らうことはできない。自分と同様、女ということで価値を認められていない娘をかばうことができず、せめて息子が夫のような男に育たないよう気を遣うことしかできない。
お母さん、それって根本的な解決になってないよと思うのですが、彼女1人を責めても仕方がないんでしょうね。インドだけでなく、世界のいたるところに同じようなケースがあるんでしょうから。


「世の中には動かせないことがある」と考えるお母さんに対し、「何とでも動かせる」と息巻くインシア。
性格の違いか世代間のギャップか、2人の考えは正反対です。
お母さんは、父親に支配される家庭という狭い範囲の中で、最大限インシアが心地よく暮らせるよう配慮します。
その象徴とも言えるのが、へそくりで買い与えたパソコン。YouTubeでユニークな動画を楽しむ中、インシアは自分が歌う動画をアップすることを思いつくのですが、「お父さんにバレたらどうするの」とお母さんに止められてしまいます。
ですが、投げやりになるインシアに対して打開策を提案するのもお母さんでした。イスラム教徒の女性用衣装・ブルカを着て歌えば、正体がバレないはず!

邦画やヨーロッパ映画だと、動画をアップしたところですぐに話題になるわけもなく……という展開になりそうですが、インド映画は違います。すぐ話題になります(笑)。
自らを「シークレット・スーパースター」と名乗るインシアの動画には、インド中どころか世界中からメッセージが。こういう遠回しではない展開も、インド映画の魅力なんですよねえ。
こういう奇跡を信じたくなる。
体格のいいインシアの歌声は力強く、でも少し悲しさも感じられて、彼女が歌う『私は誰』という曲もいいのです。


映画大国で知られるインドですが、日本に入ってくる作品はほんのわずか。
その多くに出演しているのが、この映画でも落ち目の音楽プロデューサー・シャクティを演じるアーミル・カーンです。インドの教育問題を扱った『きっと、うまくいく』、宗教問題に切り込んだ『PK』、今作と同じく男尊女卑の観念を批判する『ダンガル きっと、強くなる』etc.
これらの作品のほとんどが、当時のインド映画の記録を塗り替えたという国民的俳優ですが、貧困問題や教育、性暴力などの社会問題を解決するための活動もしているそう。

ブルカを着て歌うインシアの姿をYouTubeで見たシャクティ。早速彼女にメッセージを送るも、インシアは彼に対して懐疑的です。
というのも、彼は離婚協議の真っただ中。浮気癖があってノリの軽いシャクティは、種類は違ってもインシアにとっては父親のように「信用できない大人の男性」なのでしょう。


ところでインシアは、朝ドラの主人公のように、非の打ちどころがない純粋可憐な少女ではありません。
お母さんのことを友達に「弱虫ですごく馬鹿」と言うのは、お母さんの行動の是非は別としてどうかなと思うし、塾での先生に対する態度もやや反抗的。
父親は成績に厳しい人なんだからしっかり勉強しておけばいいのに、成績が下がってギターを取り上げられてしまうあたり、おいおいと突っ込みたくなります。
でも、ステレオタイプではないこのキャラクターが、映画をより魅力的にしているのかも。
抑圧されているのは、大人しく従順な女性だけではないという当たり前のことに、彼女の存在によって気づかされるから。
離婚問題を抱えているシャクティなら自分たち母子を救ってくれるかもと期待し、インシアは彼にコンタクトを取り始めます。
彼と接しているうちに、自分がシャクティの表面的な部分しか見ていなかったことに気が付き、チャラい態度の裏に隠れた優しさに触れるのです。


ここからの展開は、とりあえずハンカチのご用意をおすすめします(笑)。
久々に映画で嗚咽しそうになったわ……。

冒頭でインシアに「コンテストに出てみれば」とすすめる少年・チンタンとの恋模様も、全体のストーリーにに彩りを添えています。
「夢がなきゃ生きてても死んでても一緒」と言う、このパワフルな少女にいつの間にか心を奪われてしまうはず!

あ! インド映画は上映時間が長いのも特徴です。この作品も2時間30分。劇場によっては休憩があるかもしれませんが、念のためちゃんとトイレに行っておいてくださいね~~。


「シークレット・スーパースター」 ヒューマントラストシネマ渋谷他全国公開中
配給:フィルムランド、カラーバード
© AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

【編集マツコの 週末には、映画を。】
年間150本以上を観賞する映画好きの料理編集者が、おすすめの映画を毎週1本紹介します。
文/編集部・小松正和

次回8/23(金)は「ドッグマン」です。お楽しみに!

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