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柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~
人気作家・柚木麻子さんが昭和の料理研究家・小林カツ代さんを語る食エッセイ。映画「ジュリー&ジュリア」ばりに往年のカツ代さんレシピを作り、奮闘します。コロナ禍ですっかり料理嫌いになった柚木さんが、辿り着く先はーー?

このコロッケ、飲める…カツ代レシピで『大人のお子様ランチ』作ってみた/柚木麻子連載

2025.05.24

このコロッケ、飲める…小林カツ代レシピで『大人のお子様ランチ』を。

第25回  このコロッケ、もはや飲み物。カツ代レシピで『大人のお子様ランチ』を作ってみた


のっけから関係ない話で始めるが、この間大阪旅行中に、カツ代さんも大好きだと書いていた黒門市場を初めて訪れた。すると、カツ代さんのサインが飾ってある練り物屋さん「萬彩」を発見。
揚げたての玉ねぎ入りのさつま揚げがふわふわで甘く香ばしく、思い返すだけで今すぐ新幹線の予約をとりたくなることを、覚書しておく。
 
さて、本題だ。私の読者は私がともさかりえさんのファンだと全員知っているかもしれないが改めて。
小学生の時に見たNHKドラマ『コラ!なんばしよっと』の転校生役で大好きになったので、かれこれ30年くらい、つまり生きているうち半分以上の間、ともさかりえさんを好きなことになる。現在はインスタもフォローしているし、アメブロ時代のブログも出力しているくらい好きだ。ともさかさんのおかげで出会った作品や人や知識は、私の宝物である。
実は小林カツ代さんレシピに出会うきっかけを作ってくれたのも、ともさかさんである。2010年代、ともさかさんは小さなお子さんがいる日々の食卓をブログに綴っていて、その中でコロッケの作り方を紹介していた。それが小林カツ代さんのものだったのである。私はともさかさんのこういうところが大好きだ。洒脱でスタイリッシュでありながら、地に足がついていて、いちいちチョイスが堅実で真面目。そのコロッケの作り方には、ジャガイモに練乳を加えるとあった。

「えっ、コロッケに練乳!?」
と驚いたのだが、真似してみると、確かにお肉屋さんのコロッケそっくりのプロの味わいになる。以来コロッケを揚げる時、冷蔵庫に練乳がある場合は足すようにしていた。カツ代さん本の原典を当たったわけではなく、あくまでともさかさんを経由した情報である。

さて時は変わって、先週の日曜日。若者含めた大人4人と小さい子どもがうちにくることになり、前回の昭和のフルコースとは打って変わって、大人のお子様ランチのようなお腹が満たされる万人受けするメニューにする必要が出てきた。

そこで、定番カツ代さんレシピからコロッケ、手作りのミートソースによるなすのラザニア、おにぎりで迎えることをひらめく(キャベツの千切りは苦手なので、お客様に頼んだ)。全部カツ代さんを象徴すると言っていいレシピで、幼き日のケンタロウさんとまり子さんの好物でもある。コロッケとなすラザニアは前から一度作ってみたかったのだ。
前回の辻静雄レシピとはいい意味で大違い。コロッケやミートソースは、仮に爆発したり焦げ付いたりしてもある程度味がなんとかなって失敗しようがないところがあるので、緊張しなくて済む。
分量の2倍にあたるジャガイモ1キロを八百屋さんで興奮しながら購入する。前日の夜、ジャガイモの皮を剥き、茹で、めん棒で潰した。この工程はすごく楽しい。我が家は少人数編成なので、大人数の料理を作るのは、テンションが死ぬほど上がる。潰したジャガイモに大さじ2杯分の練乳を絞る時が、特にときめいた。かつて人生でこんなに練乳を絞ったことがあっただろうか。
挽肉、玉ねぎを炒めたものを加えたジャガイモを丸め、小麦粉、卵液、パン粉をまぶした。
手を動かしながら、急に思い出したのだが、私の亡き父親のことだ。父は料理好きで、人を招待したり、大勢の飲み会が好きで、その場ではものすごく愛想が良く、人気者でいかにも視野が広そうに振る舞うのだが、その分、母には当たりがきつく保守的な女性観をもつ、独特の二面性がある人だった。

あまり認めたくはないのだが、年々、父のテイストが自分に広がっている気がしてしまう。父のもてなし好きは自信のなさや孤独の裏返しでもあるんだよなー、とこの私が一番よくわかる。父を反面教師に、夫に雑務を押し付け過ぎない、人が来たら夫がみんなと喋れるようにする、と、私なりに悪い見本を避けるようにはしているが、果たしてどうなのか。
 
さて、お次はミートソースに取り掛かる。声を大にして伝えたいのだが、カツ代さんのミートソースと聞いたら、複数の野菜をたっぷりみじん切りにし、長時間煮込む家庭的なタイプのものとほとんどの人が考えるはずだ。
しかし、カツ代さんのそれは、挽肉をにんにくで炒めたら、トマトジュースでさっと煮込むだけで終わる。シンプル簡単ゆえ濁りのない「シュッ」とした味で、私の作るミートソース(セロリとにんじん、きのこたっぷり)が大の苦手な、子どもに味見させたら「美味しい!」と小躍りしている。ああ、そうなのだ。創作でも料理でもいつも反省するのだが、複数の要素を入れすぎるとロクなことがないのである。コロッケの衣に使った小麦粉、卵液のあまりに、なすをくぐらせて揚げ、ラザニアパスタとミートソース、そしてたっぷりのチーズと層にしておく。
何かさっぱりとした甘いものがあればいいかなと思い、故ムラヨシマサユキさんレシピの生いちごゼリーも仕込んでおく。今回はかなり余力があるので、カステラとミルクゼリーで3層にしておいた。
ゼリーケーキが型から離れなかったのはご愛嬌。

当日の朝はA子ちゃんと白金の植物園に行く予定があったので、軽く掃除をしてからうちを出る。この余裕も、この連載が始まってから身につけたものである。
昼過ぎに帰宅し、子どもに宿題をやらせながら、油を中華鍋に注ぎ入れる。ゲストが3人揃ってからオーブンを温め、ラザニアを放り込んだ。コロッケを揚げ、大皿に載せてどんどん出す。
「このコロッケ、飲める」と一人が言い出した。私も早速箸を取ったが、信じられないくらい歯触りと口溶けが良い。薄い衣がやぶれると、塩味のついていないとろりとした練乳入りポテトと、しっかり味づけした挽肉と玉ねぎが広がり、いいコントラストである。口に運んだ、と思ったらすぐに消えてしまうコロッケだった。残りの2人が来ると、全27個があっという間に消えてしまった。ジャガイモ2キロ分くらい作っても良かったのでは、という反省が生まれた。

実を言うと、私はラザニアというものが昔からすごく大好きというわけではない。もちろん美味しいことは美味しいが、味が単調で飽きるところがある。しかし、チーズとミートソースにはさまれた分厚い衣の揚げなすが実にみずみずしく弾け、全くダレることがないのに驚いた。さらにミートソースのキリッとした酸味がパスタや肉の重さを取り除き、咀嚼が止まらなくなる。コロッケもラザニアももう少しあれば良かった。次はもっとたくさん、と考えている。

もはや、お客様の絶賛よりも、自分の欲が優先だ。

でも、それでいいのかもしれない。
おもてなしの時は作りたいものを作って、私も一緒に食べるのが大事な気がする。父はおもてなしの時、食べている人をじっと見て、自分は何も食べなかったことをふと思い出すのだ。何よりも、カツ代さんも絶対に、自分の食べたいものを作り、お客様と一緒に楽しんでいたような気がしてならないのだ。

今回紹介したカツ代さんレシピ

※「KATSUYOレシピ」より一部引用

「ポイントは練乳。じゃが芋本来の味がましてしっとり」

『コロッケ』のレシピ 

材料(4人分)
じゃが芋……3~4個(500g)
練乳(加糖)……大さじ1
玉ねぎ(みじん切り)……小1/2個
豚ひき肉……150g
サラダ油……小さじ2
塩……小さじ1/2
こしょう……少々
【衣】
小麦粉……適量
溶き卵……1個分
パン粉……適量
【付け合わせ】
キャベツ(せん切り)……適量
トマト(くし形切り)……4切れ

好みのソース……適量

作り方
(1)じゃが芋は大きめに切り、鍋に入れてヒタヒタの水を加え、フタをして柔らかくゆでる。
(2)ゆで汁が残っていたら、水けをきり、再び火にかけて、余分な水分をとばす。
(3)熱いうちにマッシャーなどでつぶし、練乳を加えて、粘らないようによく混ぜる。
(4)フライパンにサラダ油を熱し、玉ねぎとひき肉を火が通るまでしっかり炒め、塩、こしょうを加え混ぜる。
(5)(4)を火から下ろし、(3)の芋を加えてじゃが芋の粘りを出さないように手早く混ぜ合わせる。
(6)全体を広げて平らにならして冷まし、放射状に8~12等分にする。
(7)水をつけた手で俵型にまとめ、乾かない様にぬれブキンをかけて完全に冷まし、小麦粉、溶き卵、パン粉の順に衣をつける。
(8)揚げ油を中温(170℃)に熱し(7)を入れていく。衣がしっかりしてきたら、ときどき返して、中まで熱くなるようにゆっくり揚げる。
(9)器に盛り付け、キャベツ、トマトを添えて、好みのソースで食べる。
POINT 揚げたときに破裂しないよう、タネをまとめるときにまずはキュッと握ってタネの中の空気を抜きます。後はしっかり冷ましてから、衣をつけて揚げると大丈夫。

「味は極上、簡単ミートソース」

『本格ミートソース』のレシピ 

材料(4人分)
牛挽き肉……300g
塩……小さじ1
砂糖……小さじ1
小麦粉……大さじ1
サラダ油……大さじ1
【A】
トマトジュース(有塩)……2.5カップ
水……1カップ
固形ブイヨン……1/2個
ローリエ……1枚
胡椒……適量

作り方
(1)鍋にサラダ油とにんにくを入れて弱火で炒める。
(2)よい香りがしてきたら、牛挽き肉、塩、砂糖を加えて中火で炒める。
(3)肉の色が変わったら小麦粉を振り入れて炒める。
(4)弱火で1~2分よく炒める。
(5)
【A】の材料も加えて、鍋底をこそげる様に木べらで混ぜる。
(6)フツフツしたら弱火にして、焦げないように時々鍋底から混ぜながら30~40分煮る。味をみて塩、胡椒(分量外)で調える。
POINT スパゲティ、グラタン、パイ。色んな洋食メニューに対応。トマトジュースとトマト水煮缶と、両方使ってもいい。

「これはカツ代印の伝統的なイベントメニュー!」

『なすラザニア』のレシピ 

材料(つくりやすい分量)
ラザニアパスタ……150~200g
本格ミートソース……2カップ
なす……2本
小麦粉……適量
溶き卵……1個分
揚げ油……適量
ピザチーズ……100g

作り方
(1)ラザニアは表示通りにゆで、ザッと水をかけて冷ます。
(2)なすは皮ごと縦に1cmの厚さに切り、海水くらいの塩水(分量外)に入れ、5~10分おいて水けをふく。
(3)なすに小麦粉を薄くまぶして、溶き卵をからめ、低めの中温(160℃~170℃)に熱した揚げ油で揚げる。出てきたアクは時々丁寧に取り除く。
(4)耐熱容器の中を水でぬらし、ミートソース、ラザニア、なす、チーズ、ミートソースの順で重ねていく。
(5)最後はラザニアにミートソースをかけ、チーズを散らす。
(6)200℃のオーブンで20~30分、表面がこんがりとなるまで焼く。途中焦げてきたら170℃に落とす。
POINT ラザニアのゆで汁は少しとっておいて、ラザニアがくっついて剥がれにくいようなら、ゆで汁をかけてほぐすとよいです。

次回は6/28(土)更新! お楽しみに。
柚木麻子(ゆずき あさこ)
2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。著書に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『とりあえずお湯わかせ』『あいにくあんたのためじゃない』など多数。 毎月第4土曜日更新・過去の連載はこちら

文・写真/柚木麻子 イラスト/澁谷玲子 プロフィール写真/イナガキジュンヤ  取材協力/(株)小林カツ代キッチンスタジオ、本田明子

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