超高齢社会を迎え、「人生100年時代」といわれる現代。だからこそ、考えだしたら不安でたまらない、家族や自分の老後の生活。各分野のスペシャリストが、そんなあなたの不安にそっと寄り添います。 今回のお悩み/介護 遠方に住む高齢の母を自宅に呼び寄せて同居したい。でも、妻に猛反対されています。 遠方に実家があり、80歳を超える母が一人暮らしをしています。まだ一人で生活できてはいるものの、病気やけが、事故などが心配です。私としては近い将来自宅に呼び寄せて同居しようと考えています。ですが、妻は母と暮らすことに抵抗があるらしく、同居に賛成してくれません。介護が必要になったら、施設への入所も考えていますが、元気なうちは自宅でいっしょに暮らせればと思っています。妻の反対もありますし、同居はあきらめたほうがいいのか悩み中です。(60歳・男性) 荻上チキさんの回答 何事も必要なのは「調整」。当事者どうしで充分話し合うこと。コミュニケーションを大事にしてください。 お悩み回答者 荻上チキさん そもそも同居をする・しない以前に、お母さまは住み慣れた家を離れて、子世帯と同居することに納得しているのでしょうか? 多少の不自由はあっても日常生活を営んでいる親を、子世帯に呼び寄せるのは、あくまで自分の意向。高齢とはいえ、お母さまも一人の人間です。お母さまの意向によって、どうするかはまったく違ってきます。たとえお母さまが同居に賛成したとしても、新しい環境になじめず社会や地域から孤立※してしまい、子どもへの依存度が高まったり、認知症が進行して要介護度が上がってしまうリスクもあります。そういった同居のデメリット面もあらかじめ親子で共有したほうがいいと思います。奥さまの反対については、このような〈思考実験〉をしてみてください。もし妻から義理の父を介護するために「同居してほしい」と言われたらどうしますか? 同じような要求を妻側からされてもすんなり受け入れられるかどうか。もし受け入れがたいと感じるのであれば、どうして自分の要求はよくて妻側の要求は通らないのか、一度考えてみる必要があります。この問題の当事者は、相談者のかただけではありません。お母さま、奥さまがどう思っているのかをきき、対話し、そのうえで調整することが大切です。そうすれば、同居一択ではなく、実家に通って介護するとか、訪問介護サービスを利用するとか、ほかの選択肢も見えてくると思います。 ※ 高齢者における環境の変化への影響 高齢者は環境変化の影響を受けやすく、不安や混乱、孤独感から、せん妄や認知症、うつ病などが起こりやすくなる。急激な環境変化に適応できずに、心身に不調をきたすことを「リロケーションダメージ」という。 荻上チキさん 評論家。1981年、兵庫県生まれ。一般社団法人「社会調査支援機構チキラボ」所長。NPO法人「ストップいじめ! ナビ」代表。TBSラジオ「荻上チキ・Session」(月~金曜)メインパーソナリティ。最新刊『社会問題のつくり方』(翔泳社)をはじめ著書多数。 虻川美穂子さんの回答を見る「老後の4K」のお悩みをすべて見る(『オレンジページ』2024年7月17日号より)