ととのいそうにないことも、サウナに入って、万事トトノイマシタ/清水みさと連載

「やりたい・やれます・やります」の三段活用
やらなきゃいけないことがありすぎて、てんてこ舞いになった。フリーランスをいいことに、己の好奇心のままあらゆることに首を突っ込みすぎた結果、四方八方から締め切りが差し迫っている。

ていうか、「てんてこまい」と打ったら、予測変換で「てんてこ舞い」と出てきたけれど、「まい」って「舞い」なんだ。
わたしは今、てんてこの舞を踊ってますってことですか。それはそれでちょっと楽しそうではあるけれど、しかしながら現実は「舞い」というより、「撒い」である。必殺てんてこ撒き散らし。
やりたい! やれます! やります!
とんでもない三段活用を活用しちゃったと思った。
ああ、もうなんにも浮かばない。書かなきゃいけないことも(連載)、覚えなきゃいけないことも(台本)、送らなきゃいけないことも(諸連絡)、山ほどあるのに、まったくもって終わらない。
世の中の人たちはみんな、すごいなぁと思う。
わたしよりもはるかに忙しい人はたくさんいるのに、こうなってくると、わたしの容量がちっちゃいか、あきらめが早いか、はたまた集中力が乏しすぎるか(多分全部)。

で、今わたしは何にいちばんてんてこ舞ってるのかというと、そう、この連載である。
「本日もトトノイマシタ!」と言いながら、てんてこしているのである。
何を書こうか考えたとき、なんでもトトノエられてしまうハッピー野郎のわたしにとって、この連載はあまりに自由度が高く、自由すぎるがあまり何を書けばいいかわからなくなった。
わたしは、そっとパソコンを閉じ、熱いコーヒーを飲み干した。猫舌じゃないから熱いものもぐびぐび飲める。

なんなら、熱いものを熱いうちに飲んで、「熱ッ」って言いながら涙がにじむのが好きだったりする。炭酸水の一気飲みでもなるやつですね。
はい、そうです。お察しの通り、あーでもないこーでもないを考えすぎて、なーんにもやれてない。せめてコーヒーがぬるくなるまでがんばれよって感じだけど、だめだ、今日は無理っぽい。
こういうときはサウナ一択、逃げ一択。
わたしを守れるのはいつだってわたしなんだからって、言い訳するのも忘れないちゃっかり者こそわたしである。皮肉なもんで何もできてなくても、いつだってサウナだけははかどっちゃう。あっという間に3セット目の外気浴。
あぁ、気持ちいい。めちゃくちゃ気持ちいい。
特にいいアイディアが浮かんだわけでもないのに、とにかく気持ちがよかった。ガチガチに固まった心にサウナという柔軟剤。わたしの心がふわふわほぐれて、ほんのりすきまが生まれたのがわかった。

春のやわらかで爽やかな空気に、熱と湿度が帯び始め、夏ばんでいる気がした。
汗ばんでるみたいに言っちゃったけど、だって本当にそんな感じだし、空は広くて、青くて、丸くて、あぁわたしって地球にいるんだなぁとか思った。
まぁいっか。このまんまを書いちゃおうかな。
何もやれていないことを、何も進んでないことを、「トトノイマシタ!」の懐の深さを信じて、書けないよーってことを書いてみるのはどうだろう。
わたしはととのいイスから立ち上がり、半乾きの髪の毛と、発汗しすぎてカピカピになった体で、サウナ施設を飛び出した。
15分足らずでおいとましたさっきのカフェに出戻って、同じようにホットコーヒーを注文し、今これを書いている。ここまで書いてマグカップに手をのばすと、コーヒーが冷たくなっていた。ホットコーヒーの面影が消えて、がんばったあかしだけがここにある。
書けなかったから、書けたんだ。
だめなことなんて一つもないんだねとひとりごちながら、今日もばっちり、トトノイマシタ!
PS.「ととのう」っていい言葉
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PROFILE
清水みさと(しみず・みさと)
1992年、奈良県生まれ。タレント、女優。サウナ好きとして知られ、サウナ・スパプロフェッショナル、サウナ・スパ健康アドバイザーの資格を持つ。日本最大のサウナ検索サイト「サウナイキタイ」のモデル、フィンランドサウナアンバサダー、ラジオ「清水みさとの、サウナいこ?」(JFN21局/Spotify)のパーソナリティとしても活躍中。
Instagram @misatoshimizu35
初の著書『ご自愛サウナライフ』(KADOKAWA)が好評発売中!

文・写真/清水みさと バナー・プロフィール画像/大辻隆広