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柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~
人気作家・柚木麻子さんが昭和の料理研究家・小林カツ代さんを語る食エッセイ。映画「ジュリー&ジュリア」ばりに往年のカツ代さんレシピを作り、奮闘します。コロナ禍ですっかり料理嫌いになった柚木さんが、辿り着く先はーー?

【柚木麻子連載】ばけばけの聖地松江へ!佐野史郎ゆかりの喫茶店や絶品しじみ汁を巡る旅

柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~

第41回  【柚木麻子連載】ばけばけの聖地松江へ!佐野史郎ゆかりの喫茶店や絶品しじみ汁を巡る旅

夏の終わり、島根県松江を訪れた。ご縁あって今井書店本店でサイン会をさせていただくことになったのである。おりしも、私が朝ドラ「ばけばけ」をきっかけに松江に詳しくなっていたのと、出演者である松江出身の佐野史郎さんゆかりのお店・喫茶MGの存在を知って行きたくなっていたこと、さらに子どもが、出雲のヤマタノオロチ退治伝説に夢中になるなどが重なり、家族旅行も兼ねることになった。
さて、出雲空港に降り立ってすぐ、お友達のご夫妻に、名店「八雲庵」をご案内いただき、麺の色の濃さに比例して、味わいもしっかりした出雲そばをごちそうになる。
この時、添えられていた熱いしじみ汁が、日本海側の湿度が高い熱気と日頃のクーラー疲れを溶かしていくような、旨みと滋味だった。
この夏は、冷たい汁かけご飯や麺ばかり食べていたので、熱いお汁、しかもしじみは久しぶりで、なんというか、景色が変わるようなハッとする体験だった。
「ばけばけ」でも主役のトキさんは両親としじみをとって生計をたてているくらいのこの地の名物で、島根滞在中、私はほぼ毎食、しじみのすまし汁ないし、味噌汁をとることになる。
宿泊したビジネスホテルの朝食バイキングで、旅館・松平閣で地元の名産をごちそうになった時、読者さんに教えていただいた地元回転寿司「北海道」で、そして飛行機に乗る直前に駆け込んだ出雲そば屋でも……。
そのどれもが、じんわりと旨みが広がり、体の隅々にまでミネラルが行き渡る感覚があった。飲んでも飲んでも味に飽きることがなく、その度に元気がでてくる。
松江のビジホ
北海道
街の中心にある宍道湖はいつもおだやかな水面で、見つめていると身体がゆらゆらと夏の光の中に浮かんでいるような気分になる。あの湖でとれたしじみ、と聞くと美味しさもひとしおだ。
東京に帰ると、すっかり涼しくなっていて、私はこれからはしじみ汁を頻繁に作る、と決める。おいしいだけではない。なにしろ鉄分、亜鉛、カルシウム、マグネシウムまでふくまれている良質のタンパク質だ。しかし、なぜ私がこれまでそうしじみに対して積極的でなかったかというと、それは砂抜きという面倒な作業のせいである。実をいうと私はゼラチンと砂抜き、が二大苦手調理である。レシピ通りにやっているのに、ゼリーはいつまでたってもかたまらず、塩水の中で貝がぴたりと閉じたまま時間だけが過ぎていく。そんなことが1回とか2回とかではなく、ままある。
しじみ汁を頻繁に飲みたいが、失敗は避けたい。そんな時はさっそくカツ代レシピに頼る。カツ代さんはしじみが好きらしく、汁物だけではなく、エスニック風の炒め物や麺まであってどれにも惹かれる。一番シンプルな味噌汁レシピによれば、砂抜きにかかる時間にはふれられておらず、「しじみは塩をまぶして、殻をこすり合わせて洗い、よく水洗いしたあと、しつこくヒタヒタの水につけて砂抜きをする/しじみをもう一度、水がきれいになるまでよくよく洗ってから鍋に入れる」
砂抜きの時間がふくまれているかふくまれていないのかは明記されてないが、調理時間は10分とある。うーん、なんかこれ、もしかすると1時間以内くらいでいいのではないか、というカンが働き、塩で洗って水につけただけのしじみで、いきなり味噌汁を作った。最後にコショウで臭みをとるのがカツ代流である。
自作のしじみ汁
思ったよりはるかに簡単な上、なにしろだしをとる必要がなく、ジャリジャリもない。松江にくらべれば旨みの可動域は狭いかもしれないが、それでもあのミネラルが行き渡るような快感はある。あたたまるし、心なしか体調も整い、すっかり秋の身体に生まれ変わった気分だ。 砂抜きには自信がないがしじみに関しては難しく考えず、松江でそうだったように、毎日気軽にしじみ汁を飲んでいきたいと思っている。
カツ代レシピ

今回紹介したカツ代さんレシピ

※「KATSUYOレシピ」より一部引用

「しじみの美味しいエキスで体もすっきり!」

『しじみのみそ汁』のレシピ

材料と作り方(2人分)
しじみ……150~200g
水……2カップ
味噌……大さじ1~2
コショウ……少々

作り方
(1)
しじみは塩をまぶして、殻をこすり合わせて洗い、よく水洗いしたあと、しつこくヒタヒタの水につけて砂抜きをする。
(2)しじみをもう一度、水がきれいになるまでよくよく洗ってから鍋に入れる。
(3)(2)に分量の水を加えて中火にかけ、途中、アクが出たら取り除く。
バターはとろ火にかけて溶かしておく。耐熱容器なら、予熱中のオーブンに入れて溶かしてもいい。
(4)貝の口が開いたら、味噌を溶き入れ、味をみて調える。フツフツしたら火を止め、コショウをほんの少々ふる。

point
しじみは真水で、あさりは塩水で砂抜きをします。小さめの器にきゅうくつな状態で入れた方がよく砂をはきます。
あさりと同様、仕上げのコショウはほんの一振りで貝類独特のくさみを解消
次回は10/24(土)更新! お楽しみに。
柚木麻子(ゆずき あさこ)
2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。著書に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『とりあえずお湯わかせ』『あいにくあんたのためじゃない』など多数。
毎月第4土曜日更新・過去の連載はこちら

文・写真/柚木麻子 イラスト/澁谷玲子 プロフィール写真/イナガキジュンヤ  取材協力/(株)小林カツ代キッチンスタジオ、本田明子

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