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柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~
人気作家・柚木麻子さんが昭和の料理研究家・小林カツ代さんを語る食エッセイ。映画「ジュリー&ジュリア」ばりに往年のカツ代さんレシピを作り、奮闘します。コロナ禍ですっかり料理嫌いになった柚木さんが、辿り着く先はーー?

【柚木麻子連載】うるせぇよ。不安を煽るSNS育児広告は資本論と小林カツ代でねじ伏せる

柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~

第40回  【柚木麻子連載】うるせぇよ。不安を煽るSNS育児広告は資本論と小林カツ代でねじ伏せる

夏休み折り返し地点。
毎日お弁当に凍らせたゼリーを添え、信じられない量のそうめんととうもろこしを茹で、麦茶をわんこそばの勢いで作り続けている。
子どもをタブレットからひきはがしながら、何か夏ならではの有意義な体験をさせなければ、忘れられない思い出を作らなければ、と焦る一方で、Instagramのアルゴリズムは私の弱みにつけこんで、教育系サービスだの子どもをおちつかせ、体質を改善するグミだの、いろんな商品を買わせようとする。
昔なら焦って飛びついた可能性もあるが、今私はヒーヒー言いながらマルクス『資本論』を読んでいるため、こういった、余裕がない子育て世代を恐喝して荒稼ぎする資本家たちは、理論でねじ伏せるくらいの気概はある。
が、悔しいことに連中が「今、あなたこうなってませんか?」と上品な善人ヅラでかかげてくるイメージ映像やイラストが、グチャグチャの部屋、ひっくりかえってゲームしている子ども、家事に追われる親は、うちをピタリと言い当てていて、腹立たしい。
そんな中、我が家で子どもたちのお泊まり会をやることになった。大したものは用意できないし、しないが、やれることはやりたい。こんな時に私が開くのは決まって小林カツ代さんの『ママがせんせい 食べてほしいもの・守ってほしいこと』(女子栄養大学出版部)だ。
この連載でも取り上げた、カツ代さんが幼きケンタロウさんとまりこさんと一緒に、さまざまな料理を作る毎日がまとまった名著だ。
Instagramの広告主の掲げる「子どもにとってのいい夏休み」には、コンプレックスもあり、うるせえよ、としか思わないが、カツ代さんが提案する、たとえば旬の野菜を食べようとかお箸の持ち方とか、平和について話そうとか、私は全く完璧にはできていないにもかかわらず、素直な気持ちになって、やってみようと思えるのが不思議。
このあたりはまだうまく言語にできていないが、カツ代さんにはなんとなく「物を買わせよう」とか「派手に説教してびっくりさせ、読者を依存させよう」という態度がないせいではないだろうかーー。
いや、カツ代さんは大阪の商人の娘だけあり、エプロンを開発したり、CMに出たりと、資本主義構造の中の勝者なのだが、なんとなく「あるものでやろう。なければないでいいよ」といつも言われている気がしてならないーー。
焦って走り出したくなる私に向かって、今、手持ちカードで何かできないか、なだめてくれる気がする。カツ代さんが活躍していた時代には、高度成長期もふくまれていて、今よりも子どもを人質にとった恐喝ビジネスは横行していたはずだ。彼女の存在にほっとした親は多いだろう。
そんなことを考えながら、カツ代さんが紹介するジュースで作るアイスキャンディーに子どもたちとチャレンジした。
みんなでワイワイ作って、写真をとる暇もなく、すぐになくなってしまった。 ちなみに、私がよかれと思って作った、手作りポテトチップは、「市販の『のりしお』の方がうまい」と言われ、誰も食べてくれなかった。

今回紹介したカツ代さんレシピ

※「ママがせんせい 食べてほしいもの・守ってほしいこと」(1983年・女子栄養大学出版部)より一部引用

「いろんなアイスキャンデー作ろうよ」

『アイスキャンデー』のレシピ

『アイスキャンデー』のレシピはこちら(アイスキャンデーとぶん回しおにぎりも!
次回は9/26(土)更新! お楽しみに。
柚木麻子(ゆずき あさこ)
2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。著書に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『とりあえずお湯わかせ』『あいにくあんたのためじゃない』など多数。
毎月第4土曜日更新・過去の連載はこちら

文・写真/柚木麻子 イラスト/澁谷玲子 プロフィール写真/イナガキジュンヤ  取材協力/(株)小林カツ代キッチンスタジオ、本田明子

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