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柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~
人気作家・柚木麻子さんが昭和の料理研究家・小林カツ代さんを語る食エッセイ。映画「ジュリー&ジュリア」ばりに往年のカツ代さんレシピを作り、奮闘します。コロナ禍ですっかり料理嫌いになった柚木さんが、辿り着く先はーー?

小林カツ代と野村沙知代の意外な交流。競演ドラマを見に川口へ小旅行【柚木麻子連載】

柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~

第39回  小林カツ代と野村沙知代の意外な交流。競演ドラマを見に川口へ小旅行【柚木麻子連載】

カツ代さんの一番弟子、本田明子さんの元に通うようになって、生前のカツ代さんが周囲の人たちにいかに愛されていたか、私はたくさんのエピソードを伺った。私のお気に入りの1つがカツ代さんと野村沙知代さんとの交流だ。厳密には、野村沙知代さんからの熱烈ラブコールを受け、いそいそと彼女に会いに行こうとするカツ代さんに気を揉んだ愛弟子さんたちの様子が、いじらしくて好きなのである。
若い読者さんのために説明すると、2017年に亡くなった野村沙知代さんは プロ野球選手にして名監督の故・野村克也氏のパートナーで、歯に衣着せぬ物言いが受けて、サッチーの愛称で90年代のバラエティ番組を席巻した。しかし、のちに学歴詐称問題が取り沙汰されたり巨額脱税で逮捕されるので、愛弟子さんたちがカツ代さんへの急接近を危ぶんだのも、正しいのである。(Netflixが細木数子さんの次にドラマ化するべきはサッチーだと個人的に思う)
横暴だがどこか憎めないキャラクターは、妻にベタ惚れだったノムさん著『女房はドーベルマン』(双葉社)からも読み解ける。人の善性を信じるカツ代さんは、『素敵な犬の絵本(『NORA: 老犬は去り行くべきか…』/順文社)をくれた』サッチーの優しい部分に惹かれたそうなので、きっと周りとは違う人物像を見ていたのかもしれない。 しかし、愛弟子さんたちが、カツ代さんを高額な宝石ショッピングに強引に連れて行くサッチーを警戒するのはもっともであり、ゆえにサッチーに誘われるままにカツ代さんが出演したドラマを、おそらく無言の意思表示のためか、誰も見なかったという話はうなずける。
1998年のお正月にNHKで放送された単発ドラマ「いい旅 いい夢 いい女」に、カツ代さんは俳優として野村沙知代さんとチョイ役で共演しているらしいのだが、ソフト化も配信もされておらず、視聴するには埼玉・川口にある NHKアーカイブス公開施設に行くしかないらしい。 ちょっと迷ったが、市川森一脚本、竹下景子、一路真輝、熊谷真実が主演と聞いて、絶対に面白いと確信し、ドライブがてら友達とともに埼玉に遠出することになった。

さて、NHKアーカイブスは入り口から「プリンプリン物語」のパネルがお出迎え、「ひょっこりひょうたん島」などの人気番組の人形が並び、歴代朝ドラにとりあげられた実在のヒロインの年表パネル展示も見応えたっぷり。 現在放送中の「風、薫る」のファイルも無料でもらえて私は大満足だった。 これまでNHKで放送された過去の映像を視聴できるブースに辿り着き、いよいよお目当ての番組を検索する。

再生をクリックして数分で、カツ代さんは画面に現れた。ヒロインの1人・聖美(竹下景子)が出演する人生相談番組のコメンテーター役で、卓上ネームプレートには「屯カツ代」と記されている。
トンカツ代ーー! カツ代さんのアクターネームだ! 明るい茶色のショートヘアに上質そうなニット、真っ赤な口紅を塗ったカツ代さんは場を掌握する華やかさがある。その隣には志茂田景樹さん、野村沙知代さんも並んでいる。それぞれ「服田過激」「野球沙知代」と名打たれている。 以前カツ代さんはエッセイで「トンカツ代という名前でテレビにでたことがある」と書いていたが、この作品だったのか。
さて、聖美はもともと牧子(一路真輝)、千秋(熊谷真実)とともにキャンディーズのパクリユニット・クッキーズとしてアイドル活動をしていたが、今は引退し、専業主婦。佐藤B作演じる夫の不倫でなにもかも失いかけていて、テレビの人生相談で今後の身の振り方を決めようとしているのだ。
カツ代さん演じる屯カツ代は、普段の彼女とは別人で「あなたどうしたいんですか? 旦那さんに謝ったら?」と意地悪だ。しかし、たまたまテレビを見ていた牧子と千秋が聖美に連絡をとったことから、3人は北海道旅行をすることになる。クッキーズの元ファンを名乗る謎の音楽プロデューサー(かまやつひろし)やあやしいホステス(樹木希林)に出会い、再デビューをそそのかされ、強引に新曲の短冊CDを作らされる。ほとんど詐欺まがいの手腕にひっかかり、CD製作にかかった費用を返すために、3人はやぶれかぶれで北海道ツアーをひらめき、様々なスナックやホテルで何十年かぶりに歌うことになる。この3人の関係は模範的なシスターフッドというわけではない。旅する羽目になるのも、そもそもある人物の思惑によるものだ。1人がいない時は残り2人が悪口を言うし、現役時代も不仲だったようだ。それでも誰かが辛い目に遭えば協力しあい、なによりステージに立った時の団結力がすごい。当時、30代〜40代半ばの俳優3人が全員役にハマっている。牧子に横恋慕する、いつもカウボーイの扮装をした香田晋を、3人で無理やり気球に乗せて空に放つ場面に、謎の感動を覚えた。
北海道の名所がたくさんでてくる素晴らしいロードムービーで、エキストラ協力してくれる地元の皆さんのいつもちょっと照れて笑っちゃっている感じもいい。苦いけれど誰も罰されず、歌う喜びに満ちた結末含め、私は深く満足した。古さを感じないし、今放送したらバズるのではないかと思う。
今、本田明子さんに「入り口はサッチーの勧誘かもしれないけど、ドラマ自体は名作で、カツ代さんをなんら損なうものではない」ということを、声を大にしてお伝えしたい。

そんなことを考えながら、帰宅したその夜は、カツ代レシピで見つけた、ロースとんかつを子どもに揚げてみた。うちの子はとんかつ1枚で信じられない量のお米を食べる。みんなに好かれるとんかつを、そのままアクターネームに選んだカツ代さんは、ひょっとすると俳優業に邁進しても成功したのではないか、という予感がするのである。

今回紹介したカツ代さんレシピ

※「KATSUYOレシピ」より一部引用

「やっぱりとんかつでしょう!!」

『ロースとんかつ』のレシピ

材料と作り方(4人分)
豚ロース肉(とんかつ用)……4枚(1枚80~100g)
塩・コショウ……各少々
揚げ油……適量

【衣】
小麦粉……適量
溶き卵……1個分

パン粉……適量

=付け合わせ=
キャベツ(千切り)……適量
トマト……適量

作り方
(1)

豚ロース肉はところどころ包丁を入れてスジ切りをし、塩、コショウをふる。
(2)肉に小麦粉、溶き卵、パン粉の順に衣をつける。
(3)揚げ油を中温に熱し、肉を入れ、衣の表面がしっかりしてきたら裏返す。ときどき箸で肉を持ち上げて空気に触れさせながら、キツネ色になるまでカラリと揚げる。
(4)
揚げたてを2cm幅位にザクザクと切り、付け合わせを添えて皿に盛る。
好みのソース、辛子で食べる。

POINT
・肉を空気にふれさせながら、じっくりカラリと揚げるのがコツ。
・パン粉には乾燥タイプと生パン粉があります。画像は乾燥パン粉。それぞれ食感の違いがあります。どちらが好きなタイプか、色々お試しください。前者はカリッと、後者を使うと少し固めにサックリ揚がります。
・中温は170度くらいのこと。
次回は8/25(土)更新! お楽しみに。
柚木麻子(ゆずき あさこ)
2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。著書に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『とりあえずお湯わかせ』『あいにくあんたのためじゃない』など多数。
毎月第4土曜日更新・過去の連載はこちら

文・写真/柚木麻子 イラスト/澁谷玲子 プロフィール写真/イナガキジュンヤ  取材協力/(株)小林カツ代キッチンスタジオ、本田明子、山田冨起子

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