超高齢社会を迎え、「人生100年時代」といわれる現代。だからこそ、考えだしたら不安でたまらない、家族や自分の老後の生活。各分野のスペシャリストが、そんなあなたの不安にそっと寄り添います。 今回のお悩み/健康 年齢を重ねるたびに、小さなことで落ち込んだり、クヨクヨすることが増えました。 年をとるごとに、どんどんメンタルが弱くなってきている気がします。たとえば、仕事で上司から言われたイヤミとか、夫や子ども、友人から言われた何気ないひと言に傷ついたり、クヨクヨ悩んでしまうことが増えました。若いころは一晩寝たら忘れたり、友達と飲みに行って愚痴を吐いたらすっきりしたり、あまり根に持たないタイプだったのに、最近は「なんであんな言い方をされなければいけないのか」とか、「私の言い方が悪かったのか」など、休みの日までずっと考えてしまい、切り替えがうまくできません。(49歳・女性) 荻上チキさんの回答 若いころとは違う思考やセルフケアのスキルを身につけて、新たな〈心の態勢づくり〉を。 お悩み回答者 荻上チキさん 若いころはだれかと飲みに行くとか、遊びに出かけるとか、体力と時間を使って発散できていたことが、年齢とともにだんだんむずかしくなってきます。加齢による体力の衰えはもちろん、子育て中の女性は、友人や他者との接触が減少してしまう傾向があるそうです。つまり、昔のほうがメンタルが強かったのではなく、〈発散チャンネル〉が今より多かったわけです。「なんであんなこと言われたんだろう」と頭の中で反芻(はんすう)したり、「私が悪かったのかな」と反省しても、そこから得られるポジティブな解答はひとつもありません。それよりも、体力も自分のための時間も減少していくなかで、どのように心のストレスを発散するか、戦略的に考えていくことが大切。そのために必要なのが、「心理教育」です。ひと言でいうと、「心の健康のための予防的教育」なのですが、これを機に、自分の心を客観的にモニタリングする方法やセルフケアのスキルを学んでみてはどうでしょう? 具体的には、「認知行動療法」※1や「スキーマ療法」※2に関する本を読んでみたり、実際にカウンセリングを受けてみるのがおすすめです。日本ではこの「心理教育」がおろそかにされているため、メンタルヘルスに対する意識がとても低いんですよね。人生には段階があって、若いころの思考のままでは立ち行かなくなることがあります。いったん立ち止まり、今の年齢にふさわしい思考やスキルを身につけていきましょう。 ※1 認知行動療法 現実の受け止め方や思考のクセ=「認知」に働きかけて、心のストレスを軽減していく心理療法(セラピー)。うつ病などのさまざまな心の病に対する有効性が医学的にも立証されている。 ※2 スキーマ療法 アメリカの心理学者、ジェフリー・ヤング博士が考案した心理療法。認知行動療法の発展型ともいわれており、生きづらさの根底にあるもの=「スキーマ」に焦点を当て、「心の体質」の改善を図るのが目的。 荻上チキさん 評論家。1981年、兵庫県生まれ。一般社団法人「社会調査支援機構チキラボ」所長。NPO法人「ストップいじめ! ナビ」代表。TBSラジオ「荻上チキ・Session」(月~金曜)メインパーソナリティ。最新刊『社会問題のつくり方』(翔泳社)をはじめ著書多数。 虻川美穂子さんの回答を見る「老後の4K」のお悩みをすべて見る(『オレンジページ』2024年7月2日号より)