『オレンジページ』でおなじみの料理家さんにご登場いただき、これまでに発表したなかでも「われながらこれは傑作!」「これはプライベートでもよく作る」というご自慢のレシピについて語っていただくこの企画。市瀬悦子さんにお話をうかがう3回目は、マッサマンカレー。カレーの新しい扉が開くレシピのお話です。
前回のお話:大根を揚げてみたら、すっごくおいしかった件。『フライド大根』のレシピ【市瀬悦子さんの傑作】
今回の傑作レシピ
『マッサマンカレー』
味わってみて、考えた
アメリカの情報サイトで〈世界で最もおいしい食べ物〉として掲載されたことから、一躍注目を浴びたマッサマンカレー。タイカレーの一種で、辛さ控えめなやさしい味わいです。
「編集部からご依頼をいただいたとき、じつは少しだけ迷ったんです。というのも、スパイスカレーはふだんからよく作るのですが、マッサマンは作ったことがなくて。でもやっぱり作ってみたい気持ちがあったので、お引き受けして研究しました」と市瀬さん。
東南アジア料理のお店に足を運んだり(2021年当時は、マッサマンを出すお店もまだ少なかったそう)、レトルト商品を買ってみたり……。まずはとにかく食べてみて、味の輪郭をつかんだところで、いざ試作。
家族やアシスタントさんに食べてもらうと、1回目の試作でいきなり『これ、おいしいね!』と好評だったとか。
「ココナッツミルクにナンプラーで塩けを加えて、えびのうまみやピーナッツの風味をプラスして。お店で食べながら、レトルトのパッケージの材料表示を見ながら、何がマッサマンのおいしさを作っているのかをじっくり考えました」
ココナッツミルクと+α
味の柱になっているのは、ココナッツミルクです。
「ココナッツミルクって味が決まりやすくて、いろいろなものを入れて煮るだけでもおいしくなるんです。スパイスカレーの場合は、スパイスをいろいろ使ったり、玉ねぎをじっくり炒めたりする必要があるけれど、そのステップを踏まなくていいのもこのカレーのうれしいところですね」
そして、しょうがとレモン汁を少しだけ。これが、ココナッツミルクやナッツのまろやかなこくを引き立てます。
「レトルトのマッサマンを食べたとき、悪くないけどなんだかメリハリに欠けるなあと思ったんです。なので、ココナッツミルクにしょうがやレモン汁をちょっとだけ加えて、味をキリッとひきしめました。しょうがの量は好みで増減してOKです」
カレー粉のほかにパプリカパウダーが入っているところにも注目。パプリカパウダーは、唐辛子の一種で辛みのない「パプリカ」を粉状にしたものです。
「パプリカパウダーを入れるのは、風味とほろ苦さと赤い色のため。入れることでちょっと複雑な味わいになるんです。色も、カレー粉だけだともう少し薄い黄色になるけれど、パプリカを入れると赤みが増して華やかになります」
辛いものが苦手でも、子どもでも安心
「人気の味を作ってみよう!」という企画だったため、ふだんのオレぺと違って材料の制限が少なかったことも印象的、と市瀬さん。
「『この材料を使うのはNG』とか『材料の数をできるだけ少なく』といった縛りがなくて、のびのびやりました(笑)。でも、結果的には、それほど珍しい材料は使っていないんですよ。エスニック系の食材はココナッツミルク、ナンプラー、パプリカパウダー、あとはカレー粉ぐらいです」
専用のペーストなどを買わなくても、人気の味が家庭で簡単に再現できるとあって、ページは評判に。食べごたえある具材もおいしさのポイントです。
「それは、試作の前に食べたレトルトの具が少なくて残念な気持ちになったから。せっかく自分で作るなら、鶏肉もじゃがいももごろごろ入れちゃおう! と思ったんです(笑)」
変わった材料やスパイスを使うこともなく、親しみのある材料で作れるのに、味はしっかりエスニック。辛いものが苦手な人や子どもでも安心して食べられるから、ホームパーティなど人が集まるときにもぴったりです。「世界一のおいしさってなんだろう?」と、食べながらの会話もきっと盛り上がるはず!
市瀬悦子さん
大学卒業後、食品メーカーの営業職を経て料理の世界へ。料理研究家のアシスタントを務めたのち独立し、「おいしくて、作りやすい家庭料理」をテーマに、雑誌や書籍のほか、企業へのレシピ提供、テレビ出演など多方面で活躍中。