2023.10.20
JR千葉駅から徒歩8分ほど。昼夜ともに多くの人が行き交う繁華街の富士見本通り沿いにある、蔦が絡まる趣ある建物。まるでそこだけ時間が止まったような独特の味わいが漂う。
実際、周囲の店は数年単位で入れ替わる中、「珈琲専科 ヨーロピアン」は、昭和53年から40年以上、変わらぬ佇まいで続いている。黒い木枠のガラス扉を開くと広がる、琥珀色の空間。山小屋を思わせる店内を、ヨーロッパ製のランプの灯が優しく包み込む。
街ゆく人を眺めながら過ごせる窓辺のテーブル席も居心地がいいけれど、マスター・吉田正美さんとの会話を楽しむためカウンター席へ。目の前でコーヒーを淹れる姿が見られるのも、喫茶店好きには嬉しい限りだ。
店名に“珈琲専科”と冠すだけあって、コーヒーの種類は、ストレート、ブレンド、ヴァリエーション合わせて40種類以上。
「初めて来店した方とは、会話の中から好みを掴んでお出しすることもあります。コーヒーだけを提供するのではなく、心地よさを感じながら過ごしてほしい」と吉田さん。
そこで私は、“ここでしか味わえない味”を希望。そうして勧めていただいたのが、ウォータードリッパーで30時間かけて抽出する水出しの「ダッチコーヒー」。
じっくり時間をかけることで、水が豆の旨味をたっぷり吸い込み、濃厚ながらもまろやかな風味に仕上がるそう。ほんのり甘いクリームと層をなすグラス入りのダッチコーヒーは、吉田さんにとっても一番の自信作。季節を問わず、遠方からこのコーヒーを味わうためにやってくる人もいるほどの名物だ。
クリームと2層になった水出しの「ダッチコーヒー」(800円)は吉田さん自慢の味わい。
コーヒーのお供も自慢の味
コーヒーはもちろん、ものを作ること自体が好きだったという吉田さん。地元の千葉や東京の喫茶店で修行に励み、30歳で実家近くに自分の店を持つ夢を叶えた。
「店名の“ヨーロピアン”は、ヨーロッパ風の濃いコーヒーを出す店という意味でつけました。そこからイメージして外観や内装も考えて。絵を飾ったり、ノリタケのカップとソーサーを揃えたり。
創業までの経緯や日頃の話を聞きながら、2杯目の注文はサイフォンで淹れる「ヨーロピアンブレンド」を。苦味と酸味のバランスがよく、一緒に頼んだ口溶けのいい自家製「レアチーズケーキ」とも好相性。
ブレンドコーヒーと自家製のレアチーズケーキを合わせた「レアチーズケーキセット」(880円)。マーマレードソースも吉田さんの手作り。
「うちはね、『厚切りハムトースト』も人気なんですよ」と、吉田さんと二人三脚で店を切り盛りする妻・裕子さん。メニューには他にも、ハンバーグステーキやハムエッグのセットなど、軽食も豊富に並んでいる。
この日は「千葉市美術館」観賞後のおやつどきに店を訪ねたが、次回はランチを兼ねて食事も堪能してみたい。
甲斐みのり
文筆家。昭和51年静岡県生まれ。旅や散歩や手土産、クラシック建築やホテル、暮らしなどを主な題材に、書籍や雑誌に執筆。著書に『歩いて、食べる 京都のおいしい名建築さんぽ』(エクスナレッジ)など多数。10月16日に『愛しの純喫茶』がオレンジページより刊行予定。
Instagram:@minori_loule X(Twitter):@minori_loule
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