甲斐みのりさんは、大きな仕事をひと山超えたときや友人とおしゃべりするときには決まってお気に入りの純喫茶に訪れるそう。ここでは、旅の途中で甲斐さんが立ち寄ったおすすめの純喫茶をご紹介します。
>>前回の【甲斐みのりさんが訪れる純喫茶】横浜の老舗喫茶店「コーヒーの大学院」はこちら
秋田県秋田市
レトロカフェ「異人館」
秋田県庁舎や秋田市庁舎に近接する秋田市八橋運動公園は、秋田市のほぼ中央に位置している。敷地内には、陸上競技場、野球場、体育館など、スポーツのための施設がさまざまあり、試合や大会がおこなわれるイベント時には、 祭りのように賑わうこともあるという。
しかしながら普段はゆったり穏やかな雰囲気で、緑豊かな公園内を、ジョギングしたり散歩したり、地元の人たちがマイペースに過ごすのどかな光景が見られる。
そんな市民が憩う公園の東側にのびるけやき通り沿いにあるのが、白亜の洋館に蔦が絡まる「レトロ カフェ異人館」。
昭和54年の創業以来40年ほど、先代である兄弟の経営者が店を切り盛りしてきたが、二人ともお年を召したことにより、秋田市内で美容室を営む小野正文さん・鉄平さん親子が受け継ぐことに。
できるだけ元の店の内装や家具、長年愛されてきたメニューを残しながら、令和元年の夏にリニューアルオープンを果たした。
色鮮やかなステンドグラスや年代ものの時計は昔のままだが、コンセント付きのカウンター席を増設するなど、今の時代に合わせた改装もおこなった。それでも、以前と変わらぬ心地いい空間を作ろうと、壁にトランペットなどの楽器を飾ったり、ジャズを流すようになったのは、津軽三味線の名手としても知られる正文さんの計らいだ。
長年通い続ける常連も多いそうで「今朝も、若い頃にここでお見合いをして結婚して、もうすぐ県外に引っ越すことになったから、最後に思い出の場所へという方が来てくださって」と鉄平さん。
夏は緑の蔦が茂り、秋の紅葉シーズンは葉が赤く色付く。冬はすっぽり雪のベールに覆われることも。季節ごと異なる表情を見せてくれる建物の中で、窓から差し込む光を感じながら過ごす時間は、通い慣れた人にとっても格別なものがあるのだろう。
客の目の前で「カフェ・オ・レ」(680円)を注ぐ小野鉄平さん。牛乳は乳脂肪分3.5%以上のものを使用している。
先代からレシピを受け継ぐフレンチトースト定番メニューのコーヒー「異人館ブレンド」は、苦味が強い豆をサイフォンで淹れることでまろやかな味わいに仕上がる。その異人館ブレンドと乳脂肪分の高い牛乳を、別々のポットを使って一つのカップに同時に注ぐ「カフェ・オ・レ」は、“天井落とし”という異名を持つパフォーマンスが名物。着席している客の目線より高い位置から注ぐことでカップの表面に泡が立ち、蓋になって風味を逃さない。これに、店一番人気で、創業時から引き継がれるレシピで作る「フレンチトースト」を合わせて食べた。一晩かけて厚切りの食パンを卵液に漬け込み、専用の器具で焼き上げることで、ふわふわの食感ができあがる。
運動公園での練習帰りに疲れを癒すため、このフレンチトーストを頬張るスポーツ選手が多いというのも頷ける納得の甘い味わいだ。
「 フレンチトースト」(770円)にトッピングされているのは、生クリーム、ハチミツ、 3種のベリー。好きな飲み物と合わせたセットは1100円。
Data
住所 秋田県秋田市八幡本町1-1-46
TEL 018-853-0179
JR「秋田駅」よりバスで「球技場前」下車、徒歩約1分
営業時間 9:30 ~18:00(17:30 ラストオーダー)
第3 日曜日と翌月曜日
甲斐みのり
文筆家。昭和51年静岡県生まれ。旅や散歩や手土産、クラシック建築やホテル、暮らしなどを主な題材に、書籍や雑誌に執筆。著書に『歩いて、食べる 京都のおいしい名建築さんぽ』(エクスナレッジ)など多数。10月16日に『愛しの純喫茶』がオレンジページより刊行予定。
Instagram:@minori_loule X(Twitter):@minori_loule
撮影/長谷川潤(本文)、鈴木康史(タイトル、プロフィール)、10/16発売「愛しの純喫茶・甲斐みのり著」より