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2023.01.21
大久保佳代子さんインタビュー「よく作るのは冷蔵庫のくず野菜を使った、残飯みたいな見た目のごはん。日々のごはん作りに疲れた人に読んでほしい」
いなだしゅんすけ/1970年、鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て、円相フードサービスの設立に参加。2011年南インド料理店「エリックサウス」を開店。著書に『南インド料理店総料理長が教えるだいたい15分!本格インドカレー』(柴田書店)、『おいしいものでできている』(リトルモア)など。 Twitter
料理は自由でポジティブなもの。
そのメッセージは、
小説でもエッセイでも
伝えていきたいんです
南インド料理の人気店「エリックサウス」の総料理長であり、食を探求する書き手としても多くのファンを持つ稲田俊輔さん。昨秋、初の小説『キッチンが呼んでる!』を上梓し、話題に。
「小説を書きませんか?とお話があったとき、エッセイならまだしも無理ですよ、って言ったんです。あこがれはありましたが、小説なんて別世界、と。そしたら、小説はウソ書き放題ですよ、ってささやかれて(笑)。その言葉の魔力にうっかり乗ってしまい……」
執筆を始めてみると、登場人物たちは物語の中でリアルな生活をしているので「ウソが書けるというのはウソ、と気づいた」と笑います。
結果、稲田さんが紡ぎ出したのは、いまを生きる人の日記かエッセイを読んでいるかのような親近感のわく物語です。
「僕自身も、派手な事件はないけれど読み終えて楽しかったな、と思える小説が好きで。やる以上は自分にしか書けない作品にしたいと思ったら、自然と食のシーンが中心の物語になりましたね」
主人公は、一人暮らしを始めたばかりの〈わたし〉。買ってきた総菜も、ていねいに作った手料理も、同じようにいとおしみ、楽しむ。残りものを使った一食にも大満足。そんな姿にほっこりします。
「毎日のことだから、めんどうとか、やらされているとか、食事がネガティブな文脈で語られてしまうときもありますよね。それをいつも残念に思っていて。食べることや料理って、本来はポジティブで楽しいことのはず。食材も〈使いきらなきゃ〉っていう義務感じゃなく、残っているもので〈何作ろうかな?〉ってワクワクしたら楽しくなる。料理の自由さやおもしろさを、主人公の暮らしを通じて伝えたかったんです」
登場する料理やアレンジは、すべて稲田さんが実際に食べたり、作ったりするお気に入り。
「レシピって精緻に分量を伝えるか、まったく数値にこだわらないかのどちらか。レシピ本では数値をきっちり示す手法をとってきたんですが、今回は逆にアバウトでも作れるよ、という伝え方をしてみたくて。工程はねちっこいほどに書いたので、レシピとしてそのままたどってもらえたらおいしくでき上がります」
味が淡泊なもの、香味野菜、肉または魚。この3つの具材で構成するシンプルな鍋(写真は豆腐、春菊、鶏肉)。「半年前、最初から最後まで一定しておいしい汁にするには、具は3品がベストだと発見し、ハマりました。鍋というより、お吸いものに近いイメージで、だしの味にこだわります。具材はできるだけ汁をにごらせないものにするのがポイントです!」。
ごはんを食べるときは、思う存分ごはんの話をしたい。こよなく食を愛する〈わたし〉の一人暮らし1日目から27日目まで。コンビニのひと品から凝った手料理まで、喜々として食を語る〈わたし〉に魅了される物語。日々をハッピーな気持ちで過ごすには、想像力やユーモアが大切と気づかされます。レシピも多彩に織り込まれた、渾身の小説デビュー作。
稲田俊輔/1650円/小学館
(『オレンジページ』2023年2月2日号より)
撮影/鈴木康史 取材・文/待本里菜
・2022年12月現在の情報です。・価格は、特に記載のない限り消費税込みの価格です。改定される場合もありますので、ご了承ください。
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