店を始める数年前、ヨーロッパの料理本を毎日のように翻訳しながら眺めるのが習慣だった時期がありました。そしていつも目に留まるのは魚料理でした。
脱ムニエル
これまで魚の西洋料理といえば、ムニエル一択! という感じでちょっと古くさいイメージ。でもページに登場する魚料理はもっと気のきいた雰囲気がありながらも、とてもシンプル、素直においしそう! とときめくのです。
そんな料理を作りたくて、市場に通うようになります。
切り身ではなく、自分でさばいて食べきれるもの、となるとさばがちょうどよく、頻繁に買うようになりました。洋書の中に登場するさば料理は、私にとってはこれまたいちだんと新鮮で、クリームシチューのように牛乳と煮込む料理や、日本でいう南蛮漬け=エスカベッシュもあじではなく、さばで作ることを知ります。
それからトルコの名物料理にはさばサンドなんてものもある。しめさばかみそ煮、塩焼きくらいしか思いつかなかったなか、さばが思いのほか、外国風に見えてきたのでした。
レモンとみりんという下処理
トルコのさばサンドにはレモン汁を滴るほどかけるのですが、これがとてもおいしかった。
ただ、強い酸味が前面にくるというよりは、もう少しさばらしさを味わいたい。そんなことから、仕上げに絞るのではなく、先にマリネしてから焼くことに。なじみ深い甘みと保水性、風味を加えるべく、みりんもプラス。
このレモンとみりんの下処理は私の魚料理にはたびたび出てくる便利な調理法となりました。
そしてソーセージにマスタードをつけるようなイメージで、マスタードを塗ってみると……これがとっても合うのです。
こうして「さばのマスタードグリル」はでき上がりました。
「さばのマスタードグリル」のレシピ
材料(2人分)
さば(三枚におろしたもの)……1/2尾分(約250g)
塩……小さじ1/3
レモン汁……1/2個分
みりん……大さじ1
粒マスタード……小さじ2
オリーブオイル……大さじ1と1/2
にんにく……1かけ
紫玉ねぎ(なければ玉ねぎ)……幅3mmの半月切り2枚
作り方
(1)さばは骨があれば除き、横半分に切る。塩をまぶし、20分ほど冷蔵庫に置く。水けを拭き、レモン汁、みりんを順にかけてそのつどなじませる。粒マスタードを全体に塗る。にんにくはつぶす。
(2)オーブンを200℃に温める。天板にオーブン用シートを敷き、さばを皮目を上にして並べる。さばににんにく、紫玉ねぎをのせ、オリーブオイルを全体に回しかける。
(3) 200℃のオーブンで、こんがり焼き色がつき、中に火が通るまで15分ほど焼く。
「ブルグル」のレシピ
いちばん上の写真でさばの隣にちらっと写っているつけ合わせは「ブルグル」。トルコの国民食で、デュラム小麦を湯通ししてひき割りにしたものだそうです。ほかにはないプチッとした食感で、最近店でもつけ合わせとして活躍中。
〈簡単な作り方〉ブルグルを袋の表示どおりにゆでる。ブロッコリーやれんこん、なすなど好みの野菜をにんにくとオリーブオイルで炒め、湯をきったブルグルを加えて、塩で味をととのえる。好みでクミンパウダーをふっても。できたての温かいうちはもちろん、さめて味がなじんだ頃もおいしいですよ。
今回はコリアンダーシードやドライトマトのオイル漬けもいっしょに炒めましたが、ドライトマトをアンチョビーに替えたり、レモン味やナンプラー味にアレンジするのもおすすめです。
ブルグルにもぜひ挑戦してみてくださいね。次回は12/6(金)公開です。
撮影よもやま話
あるフランスのファッションブランドオーナーの女性が「窓のない区間では店はつくらないの」と言っていたのを聞いたことがあります。デパートなどの商業施設内に店を出店する際のひとつの明確な基準です。自然光を店内にとり入れる、外の景色と室内のしつらいをつなげていくことのほうが人通りの多さよりも大切だという考え方です。
調理室のキッチンの東側に小さな窓が4つあって(私たちの物件選びでも窓ははずせない条件でした)、毎日朝日を感じたり、調理中に外の景色に目を向けられるのはちょっとしたぜいたくでもあります。見える景色はもっぱら大きなトラックやフォークリフト、ターレの往来ですが(子どもの頃によく手にした『はたらくじどうしゃ』という絵本みたいです)、運転手がなじみの顔なら目が合えば窓越しに手を振ったり。
今日は「店のテーブル」。キッチンの小さな窓からさし込む光を存分に使ってすべてのカットを撮影しました。(文/池田講平)
調理室池田2018年12月に川崎市にある中央卸売市場北部市場内に開店。アンティークショップ・アートギャラリーを兼ねた、市場には珍しいスタイルのカフェ。早朝から働く人がコーヒーを片手に手軽に食べられるようにと作った焼き菓子や、ツナメルト、フリットといった市場で仕入れる新鮮な魚介類を使ったランチが人気。
公式HP 公式インスタグラム
神奈川県川崎市宮前区水沢1-1-1 川崎市中央卸売市場北部市場 関連棟 45
営業日/月・火・木・金・土曜
営業時間/7:00~13:30
(ラストオーダーは13:00、土曜日のみ14:00)
ランチタイムは 11:45~ 休みは市場に準ずる(原則、水・日曜と祝日)
※一般のかたの市場への入場は8時から。来店の際は必ず上記HPかインスタグラムを確認してください。