角田さんの揚げ鍋失敗談から、天ぷらの話へ。ハナコさん、なにやら天ぷらには思い出があるそうで……。角田光代さん(以下 角):天ぷらの思い出話、ぜひぜひ。おききしたいです。ツレヅレハナコさん(以下 ハ):子どものころ、揚げものっていうとわが家では天ぷらだったんです。角:コロッケやえびフライではなく? 画面中央から時計まわりに「シナモン風味のメンチカツ」「うずら卵と生ハムの揚げワンタン バジル風味」「青のり風味と桜えび風味のチーズゼッポリーニ」は、レシピ公開中! ハ:はい。両親が二人とも働いていて、よく天ぷらを揚げて、置いておいてくれました。しかも「にんじんと玉ねぎのかき揚げ」がメインでした。空の紙箱に新聞紙を敷いたところへ入れていくんです。お中元とかで余った空き箱ってありませんでした? 角:わかります! ビールやジュースが入っている箱ですね。ハ:母がそこにどんどん揚げたてを入れていくのを、つまみ食いするのが好きでした。先に母が揚げ終えていて、さめたのが置いてあることもあって。しなっとした天ぷらを食べると思い出します。いつも多めに揚げるので、翌日のお弁当になるんです。べちゃっとした天丼。それはそれで妙においしかったんですよね。 週3回ペースで半年間使い込まれた、ハナコさんの揚げ鍋。早くもマットな質感から、鉄ならではの味わいが出てきました。 角:うわー、そういう家の味ってありますよね。ハナコさんが初めて作った揚げものって……。ハ:はい、天ぷらです(笑)。角:ご著書の『ツレヅレハナコの揚げもの天国』(PHP研究所)にも書かれていましたが、ご実家には、天ぷらをあえて多めに揚げるという習慣があったんですね。いいお話だなぁ。 「おうちでもっと揚げものを楽しんで欲しい!」というハナコさんの思いが詰まった一冊。レシピだけでなく、道具や油の処理など「揚げる」作業そのものの考え方についても提案されている。 ハ:角田さんの初めての揚げものってなんですか?角:前回お話ししたように26歳から料理を始めたわけですが、そのころにコロッケを作った記憶があります。 ハ:どうしてコロッケを? 揚げもののなかでもすごく手間がかかる部類に入るものじゃないですか。角:そうですよね。それまでいっさい料理をしていなかったから、わかっていなかったのかもしれません。でも「コロッケは家で作るのがおいしい」って思い込んでいたんです。だから、揚げものをするならコロッケだ、と。ハ:確かに、自分で作れば揚げたてが食べられますからねぇ。カリッとしてほくほくのコロッケは、ほんとうにおいしいですもんね。角:ですよねぇ。そのころは、いきなり「ごぼうの八幡巻き」とかに挑戦していました(笑)ハ:角田さん、すごい……。料理を始めて、そこからスタートするなんて(笑)。(つづく)\ハナコさんちの揚げものホムパレシピ/ 前回の「はじめての揚げもの」の話はこちら>>> profileツレヅレハナコさん旅と酒をこよなく愛する文筆家・料理研究家。雑誌や書籍、WEB、料理講座などで活躍中。週に2~3日は家で揚げものを作るほどの揚げものLOVERで、初心者でも失敗しない揚げ方に定評がある。著書に『ツレヅレハナコの揚げもの天国』(PHP研究所)、『まいにち酒ごはん日記』(幻冬舎)など。角田光代さん1990(平成2)年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。2005 年『対岸の彼女』で直木賞、2007 年『八日目の蟬』で中央公論文芸賞、2014 年『私のなかの彼女』で河合隼雄物語賞ほか、多くの賞を受賞。源氏物語の現代語訳という大仕事を経て、5年ぶりに長編『タラント』(中央公論新社)を出版。