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柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~
人気作家・柚木麻子さんが昭和の料理研究家・小林カツ代さんを語る食エッセイ。映画「ジュリー&ジュリア」ばりに往年のカツ代さんレシピを作り、奮闘します。コロナ禍ですっかり料理嫌いになった柚木さんが、辿り着く先はーー?

【柚木麻子連載】俳優から政治家まで時の女が勢ぞろい。小林カツ代が集結させた「神楽坂女声合唱団」秘話に迫る。

2024.11.23

小林カツ代さんの「チキンマカロニグラタン」のレシピ

第19回 時の女が勢ぞろい。小林カツ代が集結させた「神楽坂女声合唱団」に迫る。


いきなり関係ないような話から始まるが、今、私は有名声楽家で歌唱指導者の菅井秀憲先生から歌を習っている。
この文章が公開される頃にはもう終えているが、世田谷文学館のイベントで、友達兼バックダンサー担当の朝井リョウ(作家)とでか美ちゃん(タレント)とハロプロ曲を3曲歌って踊るためだ。
16ビートを刻む柚木さん。豪華すぎるバックダンサー・朝井さん、でか美さんのダンスはキレッキレ。

そう聞いたら、大抵の人が世田谷文学館から依頼されただろうと思うだろうが、それは違う。私の方から世田谷文学館にやらせてくれ、と図々しくアピールしたという方が正しい。じつはこの1年間、私の呼びかけで朝井、でか美ちゃんに協力してもらい、小規模なのど自慢大会に出続けているのだが、私の歌が上手くないせいで、必ず予選で敗退している。そんな私に世田谷文学館さんが同情してくれたので、図々しくイベントの場で歌わせてもらえないかと頼み、自らスポットライトを当たりにいった。ちなみにこの顛末を綴ったZINEや私物もその場で売り、売り上げは全てガザ支援に寄付する予定である。

さて、やっとカツ代さんの話題である。カツ代さんも私と同じく歌が上手くなかった。しかし、大勢の人の前で歌おうとした人間である。今回はいよいよ「神楽坂女声合唱団」の結成秘話を探っていこうと思う。

吉岡さん、吉田さん、竹中さん。皆の目線の先には手際よく料理をする、本田さんの姿が。

取材当日のこの日、お馴染み、一番弟子の本田明子さんの事務所で、カツ代さんの味を再現してもらいつつ、合唱団メンバーの吉田いち子さんと竹中はる美さん、作曲家の吉岡しげ美さんから、当時のお話を伺うことになった。旧知の間柄なのに、吉田さんと吉岡さんはカツ代さんの肉じゃがとポテトサラダを食べたことがないらしく(代表作とも言えるじゃがいも料理を、カツ代さんはありきたりとみなし、友達にはあえて作らない傾向がある)、そちらをリクエスト。ちなみに寒くなったので私はマカロニグラタン、竹中さんは忘れられないカツ代さんの味としてかきフライを、とのことだった。結構なメニュー数なのに、どんどん調理を進める本田さんの隣でみなさん、思い出話が盛り上がる。

合唱団結成のきっかけは1995年に起きた阪神・淡路大震災。被災地に駆けつけ、残された動物たちの悲惨な姿を見たカツ代さんは、すぐにボランティア活動を開始する。「何をするにもお金が必要」との気付きを得て、カツ代さんはギャラを全額寄付する目的で、断り続けてきたCMに初めて出演する。これは私もよく覚えている。「熟カレー」というグリコのカレールーで、カツ代さんはアイコニックなワンショルダーの黒いエプロンを身につけていた。

そして1999年、男性著名人らが始めたチャリティ目的の「六本木男声合唱団」にカツ代さんはインスパイアを受ける。エンドレスに寄付を続けるためには、定期的に開催できる合唱が一番いい、と考える。
名づけには色々悩んだらしいが「男性が六本木なら、こっちはチャーミングな女性らしい神楽坂で行く」と思いついたら、即行動のカツ代さんは、電話やら声かけやらで、政治家から俳優まで時の女の人気者を大集結させる。
このくだり、かなりざっくりしていて、カツ代さんの『少年ジャンプ』みが滲み出るエピソードばかりだ。倍賞千恵子さんに至っては、全く面識のないまま、たまたま空港で見かけたところをカツ代さんから勧誘したそう。千恵子さんに『結構です』と返され、カツ代さんは断られたと思い、一瞬、がっかりした。じつは『結構』とは『お受けする』という意味だとわかり、大喜び! 故・土井たか子さん、福島瑞穂さん、辻元清美さんも所属していたという。

2000年5月に「神楽坂女声合唱団」を結成、カツ代さん自ら団長を務める。「先生呼びは禁止! なぜならみんな『先生』だから」が合言葉。1回目、恵比寿のウェスティンホテル東京でのクリスマスチャリティディナーショーの謳い文句が痺れる。

「20世紀最後のクリスマスの思い出に、おそらく日本で最も忙しい女たちの歌声を聴きにいらっしゃいませんか」。
ちなみにメンバーのコシノジュンコさんが衣装を担当。デザイン画を見せてもらったのだが、流星のような煌めく銀のドレスが麗しい。コシノ家が連れてきた「もちださん」なる男性は、スタイリストとして、メンバーー人一人を綺麗にしてくれた。

ステージは大成功。売り上げは全て絶滅寸前の野生動物や被災地に残された動物の支援に役立てられたのである。さらに、結局戦争で苦しむのは女の人、とカツ代さんは断言し、合唱団がavexから出したCDの収益金は全てアフガニスタンの女性支援団体に寄付した。

「でも、発足時はカツ代ちゃんは歌上手くなかったよねえ」
「うんうん、土井たか子さんは上手くて、独唱パートまであったけど」
と、みなさん。
カツ代さんは日舞を続けてきたせいでリズム感はあるが、いわゆる透き通った声ではなかったそうだ。でも、いい歌の先生をつければなんとかなる、とすぐ考えるところに私は共感する。辻先生という名コーチがメンバーたちを指導したそうだ。

カツ代さんがコーラス活動に夢中になると、皺寄せは全て弟子である本田さんたちが受けることになる。大変だったのよ、と、玉ねぎを刻みながら、本田さんは懐かしそうにぼやく。個性豊かな団員たちをまとめることは相当難しかったようだ。希望のポジションがそれぞれでぶつかりあいも多く、おおらかなカツ代さんでさえストレスをためていたらしい。ちょっと安心するエピソードである。ちなみに安藤和津さんは和を重んじ、個性豊かなメンバーの中和剤だった。

吉田さん曰く、2000年代は「女の時代」がやっと始まったが、実際はバックラッシュが酷かったらしい。
実はこのチャリティも有閑マダムのブルジョア趣味、とかなり叩かれていたのだという。私の記憶の中で、カツ代さんは政治的発言はがっつりするけれど、全く攻撃されない稀有な人で、あのキャラクターとか保守派にもウケがいい「家庭料理」のイメージのせいかな、と考えていたのだが、実際は見えないところで割と批判されていたらしい。動物愛護目的だからというところで、ギリギリ許された感はあるという。カツ代さんはその辺の塩梅が狙っているわけではないのに上手で、コーラスの集まりにはあまり顔をださず、チャリティ以外の目的で声をかけてくる人には近づかず、派手なことよりも、常に弱いものに寄り添う姿勢は崩さなかったから、突っ込まれにくかったのかもしれない。
さて、本田さんが次々に料理を並べてくれた。大根の尻尾に切り込みを入れて作った「ささら」でよく洗ってぬめりとアクをとったかきはサクサクに揚がり、添えられたピクルス入りタルタルはごくごく飲めそう。だまにならないホワイトソースのマカロニとえびのグラタンはあまりにも優しい味に、なんだか涙が出そうになった。
ご飯党の吉岡さんのために、本田さんは「にんじんご飯」も用意していた。グラタンの残りに入れるこのご飯、甘くて香り高くて、病みつきになる味だ。以前も作ってもらったのだが、肉じゃがとポテトサラダをこうしてあらためて食べてみると、自分の味と全然違う。どうしてこの味にならないんだろうなあ。
本田さんの料理を食べるといつもそうなのだが、限界まで食べてしまい、外に出ると身体が重くて上手く歩けなくなる。そして、もう一度食べたいなあ、と1週間くらい考え続ける羽目になる。
大変なこともあったのかもしれないけれど、思い切り歌って、仲間と集い、こんな美味しいご飯を女同士で食べる毎日は、どんなに充実していたんだろう。
さて、カツ代さんが社会活動に目覚めたきっかけは、実はこの合唱団結成より前、もっというと以前触れたアメリカ留学より、さらに前にあるという。
続きは次回!

今回の小林カツ代さんと本田明子さんのレシピ

※「KATSUYOレシピ」より一部引用

「絶対に失敗しない、10分で作れるホワイトソース。コツは薄力粉だけなく玉ねぎなどと炒めること、火にかけず冷たい牛乳を少しずつ加えること。小林家の定番は粉チーズでしたが、ケンタロウ君のリクエストでとけるチーズで作ったことも。具はちょっと豪勢に、鶏肉とえびを半々にするのもおすすめ」(本田さん)


『チキンマカロニグラタン』のレシピ 

材料(4人分)
マカロニ……120g
鶏むね肉……1枚(約200g・むきえびと半々にするのもおすすめ)
生マッシュルーム……100g
〈オニオン入りホワイトソース〉
 玉ねぎ……1/4個
 バター……30g
 薄力粉……大さじ4 
 牛乳……4カップ
 塩……小さじ2/3~1
 こしょう……少々
粉チーズ(またはピザ用チーズ)……大さじ4~5
パン粉……大さじ4
バター……適量

作り方
(1)たっぷりの湯を沸かして、マカロニを袋の表示時間どおりにゆでて、水けをきる。
(2)マッシュルームは縦4つに切る。玉ねぎは薄切りにする。鶏肉は大きめのひと口大のそぎ切りにする。
(3)ホワイトソースをつくる。鍋にバターと玉ねぎを入れて中火で炒め、しんなりしたらごく弱火にして薄力粉をふり入れ、2分ほどさらに炒める。
(4)いったん火を止め、牛乳1/2カップを加える。木べらで混ぜ、残りの牛乳を3回ぐらいに分け、加えて混ぜる(火を止めたまま、やさしくかき混ぜると、薄力粉が溶けていく)。
(5)薄力粉が完全に溶けたら、再び火にかける。ときどき混ぜながら、弱火で10分ほど煮る。
(6)鶏肉とマッシュルームを加え、肉に火が通ったら火を止める。味をみて塩、こしょうで味をととのえて、マカロニを混ぜる。
(7)耐熱容器の内側を水でさっとぬらし、(6)を入れ、粉チーズ、パン粉、ちぎったバターを散らす。200℃に温めたオーブンかオーブントースターで15分ほど、チーズがこんがりするまで焼く。


「かきフライはなんといっても、牡蠣を洗う、拭くといった丁寧な下ごしらえが出来上がりを左右。下ごしらえをササッとやろうとしないで、牡蠣1つ1つに気を配り5分はかけて。衣をつけるのが5分、揚げるのに3分、引き上げに1分。下ごしらえはしっかり、衣をつけてあげるという流れはテンポよく。この一連の流れをイメージしておけば、大変そうなかきフライも簡単に美味しく作れますよ」(本田さん)


『かきフライ』のレシピ

材料(4人分)
かき(大粒・加熱用)…… 300g
〈衣〉
 小麦粉… …適量
 溶き卵…… 1個分
 パン粉… …適量
揚げ油…… 適量
〈付け合わせ〉
 サラダ菜など… …6枚
 レモン、タルタルソース(下記参照)……各適宜
〈タルタルソース〉
 玉葱(みじん切り)…… 小1/4個
 パセリ(みじん切り)または万能ねぎ(小口切り)…… 大さじ2
 ピクルスまたはらっきょう(みじん切り)…… 大さじ2
 ゆで卵… 1個
 マヨネーズ…… 大さじ山4
 牛乳…… 大さじ2
 レモン汁……大さじ1

作り方
(1)かきはボウルに入れ、切り口に格子状に切り目を入れた大根のしっぽで軽くかき混ぜる。
POINT 「大根のささら」
牡蠣の下ごしらえで大根のしっぽを利用した、いい方法がある。大根のしっぽのほう、5~6cmほど切り、切り口に格子状に深い切り目を入れ、大根のささら、もしくはホウキみたいなものを作る。これでボウルに入ったカキをくりりくりりと優しくかき回すと黒っぽいアクがたくさん出てくる。ため水で数回洗う。これを2~3回、くりかえすと水がきれいになる瞬間がある。ここで洗うのも、大根ささらくりくりりもおしまい。あとは水けをふいて、ふつうに料理にとりかかればOK。大根のしっぽはもったいないので水洗いし、刻んでみそ汁にするとおいしく食べられる(カツ代さん)。

(2)
水がきれいになるまで、ため水で何回か洗い、水けをよくふく。
POINT ここで水けをよく拭いておかないと、揚げる際に衣がはがれたり、油がはねる原因になります。キッチンペーパーで、ひだも丁寧に拭き取って。 

(3)
かきに小麦粉を丁寧にまんべんなくまぶす。
POINT ざっとではなく、牡蠣ひとつひとつを丁寧に手でとり、ひだも広げてまんべんなくつけて。小麦粉がうまくついていないと卵が流れ、パン粉がつかず、パンクしてしまいます。しっかり衣がついているかチェックしましょう。

(4)
溶き卵にくぐらせ、パン粉をやさしくしっかりとつける。かきが小さい場合は2個くっつけて衣をつけると立派なかきフライに!
(5)揚げ油を中温に熱し、かきが重ならないように次々と入れてツネ色にこんがりと揚げる。
(6)器に盛り、付け合わせを添え、タルタルソースやウスターソースなど、好みの味で食べる。
(7)タルタルソースを作る。ボウルにゆで卵を入れ、フォークの背で細かくつぶす。包丁で刻んでもいい。他の材料も加えて混ぜる。

「グラタンに残ったホワイトソースをからめて食べてほしいから、あえてやさしめの味に。後から黒こしょうをガリッとひいたり、バターを落としたりして、味変してもおいしいですよ」(本田さん)


『にんじんご飯』のレシピ 

材料(作りやすい分量)
米……2合(360ml)
にんじん……小1本
塩……2つまみ
オリーブオイル……小さじ1/4
好みで粗びき黒こしょう、バター……各適宜

作り方
(1)米はといでざるに上げる。炊飯器に入れ、2合の目盛りまで水を注ぎ、10分ほど浸水させる。
(2)にんじんはよく洗う。小さめのボールに皮つきのまますりおろし、オイルと塩を加えて混ぜる。(1)に加えて平らにならし、普通に炊く。
(3)炊き上がったら、ご飯を底からさっくりと混ぜる。器に盛り、好みで粗びき黒こしょうやバターで味変しても!

次回は12/28(土)更新! お楽しみに。
柚木麻子(ゆずき あさこ)
2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。著書に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『とりあえずお湯わかせ』『あいにくあんたのためじゃない』など多数。 毎月第4土曜日更新・過去の連載はこちら

文・写真/柚木麻子 イラスト/澁谷玲子 プロフィール写真/イナガキジュンヤ  取材協力/(株)小林カツ代キッチンスタジオ、本田明子

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