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柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~
人気作家・柚木麻子さんが昭和の料理研究家・小林カツ代さんを語る食エッセイ。映画「ジュリー&ジュリア」ばりに往年のカツ代さんレシピを作り、奮闘します。コロナ禍ですっかり料理嫌いになった柚木さんが、辿り着く先はーー?

「虎に翼」ヒットに思う。小林カツ代とフェミニズムを繋ぐ考察「フライド・グリーントマト」【柚木麻子連載】

2024.06.22

「フライドグリーントマト」「ミモザサラダ」「鯛と生ハムちらし」

第14回 「虎に翼」ヒットに思う。小林カツ代とフェミニズム「フライド・グリーントマト」

これまでの連載から、小林カツ代は非常に進んだジェンダー観を持ち「虎に翼」が大ヒットしている2024年の価値観に照らし合わせても、行動力あるフェミニストだったことが読み解ける。ただ、エッセイは誰にでもわかるやわらかな日本語で書かれていることが多く、フェミニズム用語が登場していたことは今のところない。

しかし、私は「うっわ、これは……!」と身を乗り出す証拠(?)を見つけたのである。

最近、小林カツ代レシピサイトに有料登録しているおかげで、星の数ほどあるレシピを、食材や用途に合わせてピンポイント検索して、日々の献立作りに役立てている。例えばひき肉で検索すると、233件。カツ代さんがエスニックにハマっていた時期、ケンタロウさんがまだ子どもでしょっちゅうハンバーグやミートローフを作っていた時期と、いろんな年代を横断できるのが面白い。

このところ揚げ物がうまく作れるようになったので「フライ」で検索したら、とうとう見つけてしまったのである。「フライド・グリーントマト」を!

日本で手に入りにくい、青くて硬いトマトをわざわざ手に入れて、フライにする人間なんて、100パーセント、あの映画を見たに決まっている。
そう、91年の傑作フェミニズム映画「フライド・グリーン・トマト」を!

最近まで配信がなく、レンタル落ちDVDを買うくらいしか観る方法がなかったので、説明させていただくと、キャシー・ベイツ演じる自分に自信がない主婦が、あるシニア女性が語る、かつて封建的なアメリカ南部で生き抜いた2人の女性の大冒険に胸を躍らせ、やがて自分の生き方さえ変えていく。
キーアイテムとなるのが、南部料理の定番とも言える青いトマトの揚げ物である。当時かなりヒットしていて、母親の購読する『ぴあ』や『CREA』の映画情報を読み漁る小学生だった私も、この映画が絶賛されていたのを覚えている。

洋画好き、新しいもの好きなカツ代さんが、この映画に触発され、今でいう「再現レシピ」を作っていたとしてもなんの不思議もない。

実はこの映画には思い出がある。私は、小学校高学年の頃、マンションの隣に住む華やかな20代のお姉さんに可愛がってもらっていた。お姉さんが鍵を忘れて、うちで過ごしたこともある。長い髪を明るい茶色のソバージュにして、青みピンクの口紅をつけ、身体の線が出るコンサバなワンピースがよく似合っていた。トレンディドラマで見る主人公みたいな格好が、彼女を本当に特別に見せていた。そんなお姉さんから「フライド・グリーン・トマト」のVHSを「絶対に好きだと思う」とプレゼントしてもらったことがあり、私はずっと取って置いた。しかし、それは見たのは大人になってからだ。お姉さんはそれからしばらくして引っ越してしまうのだが、感想を言えなかったことは、ささやかな後悔である。

何故か。

90年代は、とにかく洋画が吹き替えで地上波でバンバン流れていた時代で、とりわけスティーブン・キング原作のものは人気だった記憶がある。そんな中、私はあの「ミザリー」を見てしまったのである。「ミザリー」はキャシー・ベイツ演じる猟奇的な看護師が、偶然知り合った、推しの作家を家に閉じ込めて、自分好みの物語を描かせようとする激こわスリラーだ。スティーブン・キング映画でよく見る、何も知らない善良な警官がとんでもない目に遭う場面があるのだが、それが当時大好きだった映画「赤毛のアン」でマシューを演じていたリチャード・ファーンズワースだったため、小学生の私の中でキャシーベイツは長らく、冷酷非道なシリアルキラーだった。「フライド・グリーン・トマト」のジャケ写の、女性に囲まれている笑顔のキャシー・ベイツを見ても、どうせ豹変して殺しにくるんだろ? としか思えなかった。

ちなみに、今見ると「ミザリー」は暴力はいただけないけど、二次創作を作者本人にやらせようとする強火オタと思えば、おおいに共感できるキャラクターだ。私があの看護師の推しならきっと仲良くなれるんだけどな、と思う。

話は元に戻るが、とにかく私はカツ代レシピの「フライド・グリーントマト」を作ってみることにした。仕事で、フェミニズム出版社兼書店の「エトセトラブックス」さんにいく予定があったので、「フェミニズムお弁当をお持ちします」と社員の皆さんにお伝えし、その際、「フライド・グリーントマト」を作る、と言ったら、全員あの映画のタイトルを知っていて「あれが食べられるのか」と熱狂している。
インターネットで見つけた専門店でも、青トマトというとプチトマトしか見つからない。できるだけ硬そうなものを探したが、クール便で届いたトマトは熟れている粒がほとんどで、硬いものはごく一部だった。それでも、貴重な数粒をレシピ通りに小麦粉、卵、パン粉をまぶし、揚げていく。それだとお弁当箱がスカスカなので、KATSUYOレシピによる「ちくわのチーズフライ」と、たまたま家にあったアスパラも揚げて、空間を埋める。

フェミニズム出版社兼書店にちなんで、ピンクの食材ばかりを使った今井真実さん『いい日だった、と眠れるように~私のための私のごはん~』(左右社)から「鯛と生ハムちらし」、それと売上の一部がウクライナに寄付される、平野顕子さん『キャプション家に伝わる日々のごはん  ウクライナの家庭料理』(PARCO出版)から、国際女性デーの日に食べる「ミモザサラダ」を作り、一緒に持っていく。映えるメニューなので、みんな大喜びして、たくさん食べてくれた。ことにフライド・グリーントマトは「これがあの映画の」と喜ばれ、一瞬でなくなってしまった。
余談だが、最近、キャシー・ベイツは「神さま聞いてる?これが私の生きる道⁉」というこれも児童向けフェミニズム映画で、孫を猫可愛がりするおばあちゃんを好演している。この原作となるジュディ・ブルームの『神さま、わたしマーガレットです』は、小学生時代の私の愛読書で、ブラジャーや初潮を心待ちにするマーガレットは、日本の児童書にはまず見かけないキャラクターで引き込まれた。これが時代を経て丁寧に実写化されたことも、当時はシリアルキラーだったキャシー・ベイツが出演していることも、なんだか感慨深いものがあった。演技派の称号を欲しいままにしながら、スリラーにもフェミニズム映画にも出て、「タイタニック」みたいなメジャーな超大作でも印象を残し、年齢を経たら、「アメリカン・ホラー・ストーリー」みたいな攻めた連ドラで悪役を熱演し、そうかと思うと良質な児童書原作にもさらりと出演。 

改めて振り返ると、この常に第一線のメジャー感、リーチの広さ、そこに見えかくれする先見性やジェンダー的な視点、カツ代さんに通じるものがあるし、私の目標とするところで、ハッとする
今度こそ、大きな熟れていない青いトマトを手に入れて、映画通りの「フライド・グリーン・トマト」を作ってみたいと思う。

~編集部追記~
後日、カツ代さんの一番弟子の料理家・本田明子さんからこんなお返事が。
「フライドグリーントマトに気がついてくださり、ほんとうれしいです。この映画、師匠と2回観ました。懐かしく、なんだかうるっ。〈八月の鯨〉もそのあと観た記憶が。カツ代ちゃん、ちなみにヒッチコックの映画も大好きでした」
柚木さんの考察、恐るべしです。

今回の小林カツ代さんレシピ

※「KATSUYOレシピ~小林カツ代の家庭料理~」より引用

懐かしき、よき時代のアメリカの野菜料理です。

『フライド・グリーントマト』のレシピ 

材料[2人分]
緑の未完熟トマト……1個
塩……少々
小麦粉……大さじ2
溶き卵……適量
パン粉……適量
オリーブ油……適量

作り方
(1)緑のトマトはへたを切り落とし、4等分の輪切りにする。お尻にあたる皮部分は、切りとす。この方が粉が付きやすい。
(2)片側に塩少々をふり、小麦粉をしっかりめに全体につける。
(3)溶き卵を絡める。
(4)パン粉をしっかり、まぶす。
(5)フライパンにオリーブ油1cmほど、入れて中火にかけ、(3)のトマトを並べる。両面焼く。
(6)カリッとしたら、ペーパーにとって、余分な油をとる。そのまま食べてもいいしケチャップや、チリーパウダーなど振って食べても、スパイシーで美味しい。

カツ代ロジック
できるだけ未完熟のトマトで作ります。完熟は実の水分が多いのでこの料理には向きません。

懐かしい昭和メニューのひとつ。一度食べると、また食べたくなる!

『ちくわのチーズフライ』のレシピ

材料[4人分]
ちくわ……1袋(4~5本)
プロセスチーズ1cm厚さ……4~5枚
揚げ油……適量

【フライ衣】
小麦粉……適量
溶き卵……1個分
パン粉……適量

作り方
(1)チーズはちくわの穴に入る太さに切り、ちくわの穴に詰める。
(2)小麦粉、溶き卵、パン粉の順にしっかり【フライ衣】をつける。
(3)中温(170~180度)の揚げ油で、全体がこんがりと色づくまで揚げる。

カツ代ロジック
ちくわは太ちくわではなく、1袋に4~5本入った細いちくわを使います。

次回は7/27(土)更新! お楽しみに。
柚木麻子(ゆずき あさこ)
2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。著書に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『とりあえずお湯わかせ』など多数。 毎月第4土曜日更新・過去の連載はこちら

文・写真/柚木麻子 イラスト/澁谷玲子 プロフィール写真/イナガキジュンヤ  取材協力/(株)小林カツ代キッチンスタジオ、本田明子

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