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柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~
人気作家・柚木麻子さんが昭和の料理研究家・小林カツ代さんを語る食エッセイ。映画「ジュリー&ジュリア」ばりに往年のカツ代さんレシピを作り、奮闘します。コロナ禍ですっかり料理嫌いになった柚木さんが、辿り着く先はーー?

【柚木麻子連載】小林カツ代の神髄はメリハリ。「張る日」に作るカツ代の伝説レシピ「ちらしずし」

2024.02.24

鶏のから揚げとちらし寿司

第10回「小林カツ代の神髄はメリハリ。〈張る日〉に作るカツ代のちらしずし」

第9回 【柚木麻子連載】作り始めて12年目のおせちが、史上最高の美味しさに。カツ代レシピで学んだこと

連載も10回目。「柚木さんも最近また料理が好きになってきたんじゃないの?」と思う方もいるかもしれないが、クリスマスと正月のビッグイベントが終わってからは、なんだかまた色々面倒臭くなってきた。
節分も今年は恵方巻きを作らず回転寿司でかんぴょう巻きをつまみ、バレンタインも牛乳と板チョコをレンチンして、マシュマロやバナナ、カステラをディップしてよしとする。
昨日ママ友が遊びにきたときはサルヴァトーレのピザをデリバリーした。「人が作ったものは美味しいなあ」と、みんな熱狂した。あと、関係ないが、皿洗いをなかなかしない夫が、最近皿ばかりかカレー鍋をピカピカに洗っていて感動したのを、ここに付け加えておく。

さて、おせちの回にちょっと触れたのだが、カツ代さんの真髄とは「メリハリ」ではないか。最近やっとわかってきた。カツ代さんは、イベントと普通の日にはっきりと差をつけて、ここぞというタイミングでご馳走を作り、家族を楽しませていた。この力の入れどころの見極めこそが、大阪の裕福な卸問屋やテレビ業界で育まれた魂なのかもしれない。カツ代さんというと、手軽で美味しいレシピのイメージだが、プライベートの彼女は手の込んだ時間がかかる料理も好んでいた。なにしろ、お嬢様育ちで、美食家で、海外文化が好きで、知的好奇心でいっぱいの人なのだ。でも、仕事ではあまり、そういう料理を求められなかったらしい。私だったら「ああ、ハイハイ。今日もコスパとタイパの話ばっかり。殺伐とした業界。私の役割ってなんなんだろうなあ」とふて腐れそうなものだが、カツ代さんはそこを逆手に取り、むしろ、みんなをより一層魅了していたらしい。

「すごく美味しいけれど、時間や手間がかかるので一年に数回しか作らない料理も。だからいつまでも人気があるのです。この本のためにスタジオではじめて作った料理がいっぱいあって、うちのスタッフたち、うまいうまいと食べつつ、
『わァ、こんな手のかかったもの、先生、うちでコソコソ作って食べていたんだァ、ずるーい』ですって。めったに作らないからこそ、夫や子供はドイツシチューのソース一滴までポテトだんごでこそげとり、キッシュロレーヌのほろほろ落ちるカケラ一片も『おっと大変』と口に運ぶ。ね?いいでしょ」
『小林カツ代さんちのおいしいごはん』P6(講談社)より。

そういえば、カツ代さんのレシピを開くと、手軽な料理に混じって、けっこう難しい料理がシレッと紛れていることがよくある。その緩急が、他にはない本としての魅力になっている。料理に限らず、カツ代さんは楽しいトークの合間に反戦メッセージや教養を織り込んだり、愉快なエッセイの中で、夜明けの美しい風景や死生観を描いたりする。この狙っているわけじゃないのに、笑いにもエモにも知性にも行き来できる、絶対に人を飽きさせないテンポ、めっちゃモテたのも納得な人間としての奥行き。だから本人も楽しそうで、スタミナが持続する、ああ、私も真似たい!

ネットで調べて初めて知ったがメリハリは「減り張り」と書くらしい。
「緩めること、と張ること。抑揚があること」とある。

私に一番足りないものは、これだ、と崩れ落ちそうになる。というのも、昔から、私は緩めると緩めっぱなし、張り切ると倒れるまで張る。スイッチが入るまでやたらと時間がかかるのに、ノってくると寝ないでやってしまう。過剰なのだ。30代くらいまでは体力でなんとかなっていたが、最近はどうにもならなくなり、ずっとダラダラして、たまに超張り切って、すぐに疲れて泣きながら全部放り出す、を繰り返している。この性分を完全に治すのは無理かもしれないが、「頑張るときは、ここぞという最良の瞬間を見極める」だったらできそうな気がする、今からでもカツ代さん流スイッチの呼吸を掴みたい。

そんなことを考えていたら、出産を控えた友達が我が家に遊びに来ることになった。つわりも落ち着き、今は禁じている食べ物は特になく、食欲はあるとのこと。自分のその時期のことを考えたら、毎日毎日、寿司を食べたくて仕方がなかったことを思い出した(私の出産はもう7年前で、当時私の通院していた病院では、妊娠中も授乳中も生の魚介類は御法度とされていたが、もしかするとまた事情は違ってきているかもしれない)。
病院のすぐそばの甘味処で食べた、食材全部に火が通った、野菜ばかりの蒸し寿司がとても有り難かったのが蘇る。

よし、ここは久しぶりに「張る」日だ。

そこで「『うまい!』は時代を超える『小林カツ代の伝説のレシピ』(小林カツ代・本田明子 家の光協会)を手に取る。1万を超えるカツ代さんのレシピから本田さんが厳選したものをさらにわかりやすくして紹介している中から、前から気になっていた「ちらしずし」を作ることにした。
「ここぞという日にちょっと腕まくり 家族の思い出の味に」と紹介された見開き2ページにわたる工程は、この本では最長で、少ない素材で味も彩りもバシッと決まるミニマムなレシピが並ぶ中、異色である。

前日から、妊娠時や授乳時のことを思い出しながら、かんぴょうとしいたけを甘辛く煮て、高野豆腐を含め煮する。にんじんとれんこんの酢煮を作る。当日、酢飯をあおぎ、茹で海老、錦糸卵も作る。手間はかかるが、一個一個確実に積み重ね、クライマックスで一つにまとまっていくカタルシスがたまらない。酢飯に具材をさっくり混ぜていると、乾物と野菜ばかりで、結構お金がかかっていないことに気づく。
そういえば『こんなとき、こんな料理、こんなお菓子で』(大和書房)によれば、カツ代さんにとってちらしずしは「ふところが寒い日のとっておき」らしい。「すし」とついているだけで同じ材料でも確かに「炊き込みご飯」よりも、豪華に思えるからいい、と書いていた。

この出来る範囲で最大の効果を狙うバランス感覚がいかにもカツ代さん。ちなみに、大阪では錦糸卵以外を全部混ぜこむ寿司を「ばらずし」と呼ぶらしく、カツ代さんのお祖父様が作る小芋入りのばらずしは絶品だったそうだ。
さて友達は「気にしない」と言っていたが、一応、海老は混ぜずに別添えとした。栄養バランスを考え、同じ本から、「鶏のから揚げ」と「温野菜のディップサラダ」も作る。 肝心の友達はたくさん食べてくれたが、食事よりも色々と相談したかったらしく、出産にまつわるあれこれを質問された。私の時のことを思い出して、「こればっかりは人によるんだよなー」と、乳腺炎やらかかとや髪や爪がボロボロになった話、それをどんな風にケアしたか、認可保育園にどのようにして入ったか、などを話したのである。何より、本やドラマや映画は、母親になっても楽しめる、という私の話が、彼女を一番ホッとさせたようだ。

物語の書き方はもちろん仕事のやり方にも、メリハリが大事だなあと思ったりする。
最近、喋る仕事やエッセイの依頼がふえ、「小説より、気軽に聞ける喋りやエッセイをもっとやって欲しい」という声もあり、一瞬そうなのかーとは思うが、もし、私の喋りやエッセイが面白いとしたら、それはやはりウンウン唸って書いている小説あってこそなのかなと思ったりする。どっちか一方だけだと、私の場合はメリハリに欠けるとも思うのだ。
ひとまずは、張りどころの感覚を掴むため次回は、制作時間がなんと最低5日かかるらしい、カツ代さん自慢の「ドイツシチュー」を作ってみようと目論んでいる。

今回の小林カツ代さんレシピ

※『「うまい!」は時代を超える 小林カツ代の伝説レシピ』(家の光協会)より引用

家族の記念日に手作りしたい。一つ一つの素材を調理して最後に混ぜ合わせます。

『ちらし寿司』のレシピ 

材料[4人分]
〈すしめし〉
 米……2合
 酒……大さじ2
 昆布……5cm
〈すし酢〉(市販のすし酢でもよい)
 米酢……70ml
 砂糖……大さじ1
 塩……小さじ1
〈かんぴょうとしいたけの甘辛煮〉
 かんぴょう……50cm×2本
 塩……小さじ1
 干ししいたけ……10~12枚
 A(しいたけのもどし汁2カップ 酒、砂糖、しょうゆ……各大さじ2)
〈高野豆腐の含め煮〉
 高野豆腐(調味料つきのもの)……2枚
〈にんじんとれんこんの酢煮〉
 にんじん……100g
 れんこん……100g
 B(水2カップ 酢大さじ2 塩小さじ1/2)
〈ゆでえび〉
 えび……12尾
 酢……少々
〈錦糸卵〉
 卵……3個
 塩……少々
 サラダ油……少々
〈刻みみつば〉
 みつば(細かく刻む)……1カップ分

作り方
すしめし
(1)米は洗い、分量の酒を加えてふつうに水加減し、昆布をサッと洗って加えて炊く。
昆布を取り出す。
(2)大きいボウルにきつく絞ったぬれぶきんを敷いて、アツアツのご飯を移し、混ぜたすし酢を上から回しかける。すぐに上側を切るように混ぜ、すし酢をなじませる。
(3)ご飯を裏返すようにぬれぶきんを抜き取り、全体を切るように混ぜる。真ん中をへこませるように広げて冷ます。

かんぴょうとしいたけの甘辛煮
(1)かんぴょうは塩をふってよくもみ、よく水洗いしたあと、鍋に入れ、たっぷりの水を加えて15分ほどやわらかくゆでる。
(2)干ししいたけはぬるま湯でやわらかく戻し、軸を取って水けを絞る。鍋にA、しいたけ、かんぴょうを入れ、中火で汁けがなくなるまで煮る。
(3)粗熱が取れたら、しいたけは半分に切って細切り、かんぴょうは1cm長さに切る。

高野豆腐の含め煮
高野豆腐は袋の表示通りに調理して、粗熱が取れたら、汁けをきって1cm角に切る。

にんじんとれんこんの酢煮
(1)にんじんは2cm長さの細切りにする。れんこんは縦6~8等分に切って細切りにする。
(2)鍋に、B、にんじん、れんこんを入れ、強めの中火で5分煮る。冷めたら汁けをきる。

ゆでえび
酢を入れた熱湯でえびをゆで、殻をむいて尾と背ワタを除き1cm角に切る。

錦糸卵
卵は溶いて塩を入れ、油を熱したフライパンに薄く流して焼く。5枚ほど焼ける。焼き上がったらせん切りにする。

あとは合わせるだけ! 
具がすべて冷めたら、すしめしにかんぴょうとしいたけの甘辛煮、高野豆腐の含め煮、にんじんとれんこんの酢煮、ゆでえびを加え、さっくりと混ぜる。最後にみつばを混ぜる。器に盛って錦糸卵をのせ、好みで紅しょうがを添える。

カツ代ロジック
すしめしを作るとき、飯台がない場合はボウルにきつく絞ったぬれぶきんを敷いて、ご飯を移します。ぬれぶきんが適度に水分を吸ってべたついたすしめしになるのを防ぎます。ぬれぶきんを抜くときにご飯を裏返し、下側だった部分も切るように混ぜて、すし酢をなじませます。

大人も子どもも大好きなから揚げ。カラリと揚げる秘訣を教えます。ふうわり揚げは揚げる直前に衣をからめてふうわりと。

『鶏のから揚げ』のレシピ

材料[4人分]
鶏もも肉……2枚(500~600g)
しょうゆ……大さじ1と1/2
酒……小さじ1/2
A(にんにく(すりおろす)少々 しょうが汁小さじ1/2 ごま油小さじ1/2)
片栗粉……1/3カップ
揚げ油……適量

作り方
(1)鶏肉は黄色い脂を除き、大きめの一口大に切ってボウルに入れる。Aを加え、手でもみ込むようによく混ぜる。さらにかたくり粉を加えて全体に混ぜる。
(2)(1)の鶏肉を手でぎゅっと握って衣を落ち着かせ、皮を広げる(皮を広げて揚げ油に入れると、皮がカリッとおいしく揚がる。)。揚げ油を170℃に熱し、皮側を下にして入れる。すぐいじらず、油の温度を保ちながら、衣が落ち着き、皮がこんがり揚がってきたら裏返す。
(3)中まで火が通り、全体がこんがりとしてカリッとしたら、油をよくきって引き上げる。

★好みで、カレー粉、粗びき黒こしょう、粉ざんしょうなどを添えても楽しい。

カツ代ロジック
中温(170℃)の揚げ油に入れたら衣が落ち着くまで2~3分、じっといじらずに待つこと、これ鉄則。こんがり揚がってきたら裏返して、そのあと、それぞれの肉を菜箸で持ち上げ、なるべく空気に触れさせることでカリッと仕上げます。

野菜ってそれぞれの形も美しいけれど切ってもアート。素材をフルに生かしたこんな一皿は料理の基本ともいえますね。

『温野菜のディップサラダ』のレシピ

材料[4人分]
いずれかの好みの野菜(にんじん……適量 大根……適量 れんこん……適量 ブロッコリー……適量 カリフラワー……適量)
〈オーロラソース〉
 マヨネーズ……大さじ2
 トマトケチャップ……大さじ1
 牛乳……大さじ1~2
〈クリームチーズソース〉
 クリームチーズ……50g
 牛乳……大さじ2
 レモン汁……小さじ1
 こしょう……少々
〈ヨーグルトソース〉
 プレーンヨーグルト(無糖)……1/2カップ
 セロリの葉(みじん切り)……適量
 マスタード……小さじ1/2


作り方
(1)にんじんは1cm厚さの輪切りにする。大根は1cm厚さの半月切りにする。れんこんは1cm厚さの輪切りにし、大きければ半分に切る。
(2)ブロッコリーとカリフラワーは小房に切り分ける。ブロッコリーの葉の部分は厚く皮をむき、やわらかい部分は食べやすい大きさに切る。
(3)(1)、(2)の野菜を少々加えた熱湯に入れ、それぞれほどよいかたさにゆでる。ゆでた野菜は、ざるにとって水けをきり、形よく器に盛る。
(4)それぞれのソースの材料を混ぜ合わせてなめらかなディップにし、(3)に添える。

カツ代ロジック
カリフラワーとブロッコリーは色は違えど扱い方はほとんど同じ。同じ鍋に入れて一緒にゆでても問題はありません。また、ブロッコリーはゆでる湯の量で少々味が異なります。ごく少なめの湯で蒸しゆでに近いゆで方だと緑の味が濃く仕上がり、たっぷりの湯でゆでるとさっぱりします。お好きな湯の量でゆでてください。

次回は3/23(土)更新! お楽しみに。
柚木麻子(ゆずき あさこ)
2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。著書に『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『とりあえずお湯わかせ』『オール・ノット』『マリはすてきじゃない魔女』など多数。 毎月第4土曜日更新・過去の連載はこちら

文・写真/柚木麻子 イラスト/澁谷玲子 プロフィール写真/イナガキジュンヤ  取材協力/(株)小林カツ代キッチンスタジオ、本田明子

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