超高齢社会を迎え、「人生100年時代」といわれる現代。だからこそ、考えだしたら不安でたまらない、家族や自分の老後の生活。各分野のスペシャリストが、そんなあなたの不安にそっと寄り添います。 今回のお悩み/介護 何度も同じ話や質問をしてくる認知症の母。つい感情的になり、言い返してしまいます。 認知症の母(82歳)と同居しているのですが、話しだすと止まらず、キッチンやトイレにまでついてきてずっと話しかけてきます。何度も同じ話を繰り返すので相づちを打つ気にもならず、ぐったり。また、こちらが言ったこともすぐに忘れるので、5分とおかず、同じことをまたきいてきたり。認知症による症状だとはわかりつつも、「さっき言ったでしょ」「今、忙しいの!」ときつく言い返してしまいます。イライラせずに接することができればいいのですが……。怒ってしまったあとで反省する毎日です。(56歳・女性) 稲垣えみ子さんの回答 親は、自身の「老後の姿」を身をもって教えてくれる存在。自分と〈重ねてみる〉視点を持つことが大事。 お悩み回答者 稲垣えみ子さん 私の母も生前、認知症を患っていましたが、それまで自分の親が認知症になるなんて考えてもみなかったんですよね。だから母が認知症になったときは、とてもショックでしたし、「前できていたことがどんどんできなくなっていく」母を見て、人間というのはこんなふうに老いていくのかと、はじめて現実を突きつけられました。それと同時に、親というのは、いずれ自分が行く道、予想される未来を教えてくれる存在なんだと強く思ったんです。「人生100年時代」といわれていますが、長生きをすればするほど認知症の有病率※1は高くなります。認知症にならなかったとしても、これまで当たり前にできていたことがどんどんできなくなっていくでしょう。つまり、母の身に起きたことは、いつか自分の身にも起こりうることなのです。そんなふうに、自分と親を〈重ねてみる〉視点を持つと、イライラしてしまったときも、立ち止まって考えられるようになるかもしれません。自分が同じ病になったらどんな気持ちになるのか。なぜ何度も同じことを言うのか。もしかしたら、忘れてしまうことに不安や恐怖を感じているかもしれない……。「失っていくこと」「できないこと」には負の感情ばかり抱きがちですが、それではこれから待ち受ける自分の老後も暗くなってしまいます。。「できないこと」にも何か意味があるはず。今のお母さまを受け入れることは、自分の老後を受け入れることにもつながると思います。 ※1 認知症の年齢別有病率 厚生労働省の調査によると、高齢になるにつれ認知症の割合は増加し、80代後半で男性の約36%、女性の約49%、90歳を過ぎると男性の約42%、女性の約72%が認知症であることが明らかになっている。 稲垣えみ子さん フリーランサー。1965 年生まれ。一橋大学卒業後、朝日新聞社に入社。論説委員、編 集委員などを務め、50 歳で退社。以後、夫なし・冷蔵庫なし・ガス契約なし・定職なしのフリーランス生活を送る。最新刊は『家事か地獄か最期まですっくと生き抜く唯一の選択』(マガジンハウス)。 虻川美穂子さんの回答を見る「老後の4K」のお悩みをすべて見る(『オレンジページ』2023年9月2日号より)