悩みとは生きている証拠。だれもが大なり小なり抱えているお悩みに、マダム・サルディンヌこと
猫沢エミさんが真摯に、時に愉快にお答えします。
今月の迷えるお悩み
53歳の主婦です。子どもはいません。なんとなくの友達はいますが、何でも話せるような親友がいないのです。 ちっぽけなプライドが高い自分のせいなのですが、なんと寂しいことだろうと50を過ぎて思います。
はー(50~59歳女性・専業主婦・神奈川県)
こんにちは。あなたのお悩みの友、マダム・サルディンヌです。
まず、はーさんがご自分のお悩みをしっかり言葉にできたこと、そして、50代というご年齢で気づけたことがなによりよかったなと、私は思いました。というのも、はーさんは亡くなった私の母の、まさに晩年の姿を思い起こさせるからです。
年齢を重ねるごとに意固地になった、母の姿
私の母は、年を重ねるごとに家族以外の人をどんどん信用しなくなり、最終的には以前親友だった友人すらも関係を断ち、亡くなる原因となった腎臓がんを患ってからは、とにかく過去に少しでも関係のあった人には町ですれ違うのもイヤになってしまいました。そんな姿を見て、若いころは社交的だった彼女をこんなふうに変えてしまったものは何なのか? を、真剣に考えました。まず、原因のひとつは母だけの問題ではなく、一家の借金問題を母一人でなんとかしようとして、方々から借金を繰り返したため、狭い田舎町でいろんな噂を立てられるのを恐れ、近しい人たちとの関係を断ってしまったことです。お恥ずかしい話ですが、私の先代たちは金銭感覚ゼロの没落富裕層で、両親の晩年は常にお金の問題に悩まされるという寂しいものでした。
そんな母も元来ちっぽけなプライドが高く、それを上回るプライドの高さだけで自分をかたくなに守ってきた父の悪影響が追い打ちをかけました。
では、母の〝プライドが高い〟原因とは何だったのか? そもそも若いころから裏づけのない野心家でもあった母は、嫁ぎ先である私の実家が当時は裕福だったため、それだけで自分は成功したような勘違いをしてしまったことにあるのではないかと思います。これが母自身で苦労して手に入れた人生ならば、きっと苦労の過程でさまざまな人に出会い、失敗を繰り返すうちに自分も含めて人間は不完全なものであるから、他者に対しても同じような共感や理解を持つことができたのではと想像するのです。
自信とは自分を信じてあげること
かねてから私には座右の銘がありまして
〝自信とは、人に見せびらかすためにあるものではなく、人生のどん底で自分などだれも見てくれないときも、自身を見捨てず、最後まで自分を信じてあげること〟というものです。自信というと、一般的には「あの人は自信家だ」というふうに、表層的に自信があるように見えることをさすことが多いですが、これまでの人生で出会った自信家に見える人たちのほとんどが、裏返せば真の自信がないため、無意識にだれかの上に立とうとしてみたり、人を社会的な地位や肩書で判断してだれが上で、だれが下、といったぐあいにタテに並べて見たりする人たちでした。
そうした人たちの共通点は、自分の考えが常に正しく、相反する答えが返ってこようものならば、心のシャッターを一瞬で閉めてしまうような許容範囲の狭さでした。
人を許せないということは、自分自身の中に自分を許せない部分があるということです。
プライドを捨てる、小さな一歩
私の両親にも多分にあったであろう
〝自分への許せなさが他者に向かう〟という負の連鎖を断ち切る必要があります。それに効果的なのは、専業主婦という現在のはーさんのシチュエーションを、ちょっと変えてみること。まず、短期でかまいませんからアルバイトかパートの職、しかもできるだけご自身の趣味や発想からは遠い仕事を選んでみてください。そこにはさまざまな年代の、これまではーさんの人生で出会わなかったような別ジャンルの人たちがいて、同じ仕事をする仲間として時間をともにすることになります。そのなかには、もしかしたら言葉も通じない外国人の同僚がいるかもしれないし、気の合わない同僚もきっといるでしょう。
でも、その
〝違いに触れること〟が大切なのです。
どんな人にも必ず「おお!」と目をみはるような素晴らしい部分があり、その発見を繰り返していくことで、人間はみな、平原にぽつんぽつんと立っているようなヨコ並びであって、決してタテではないと気づけると思うのです。これはまさに、私が30代の終わりごろまで持っていた、ちっぽけなプライドを捨てるのに大いに役立った方法で実践ずみです。
出会いがあなたを変えてくれる
つまり、人間というものは新しい出会いから遠ざかると、どんどん内にこもってしまうもので、特に50代という年代は、更年期など不安定な精神状態も手伝って、猜疑心も強くなりがちです。あの人もダメ、この人もダメ、という消去法を続けていると、最後には、晩年の私の母のように、本当にひとりぼっちになってしまう可能性がある。もう少し若い頃の私も、母のような寂しい晩年を送る可能性がありましたが、はーさんのように
「これではいけない。変えなくては」と気づき、行動に出たことで、今は友人関係に恵まれた日々を送ることができています。
そして、年を重ねると、特に同性の友達は大切だと感じます。体や心の変調について同じ視点で話ができますし、一般的に男性よりも寿命が長いと言われる女性は、晩年に何でも話せる友達がいるかいないかで、孤独の度合いも格段に違ってくると思うのです。
どうぞご安心を。
はーさんは、すでにご自身の抱える問題を言葉にする勇気をお持ちです。
その勇気をもう少し外に向けるだけ。ゴッド・ブレス・ユー♡
そんなあなたへのマダムの処方箋
前向きな気持ちをサポートする
「おおらかフレンチレシピのガトー・ヤオルト」
材料(パウンドケーキ型1台分:23×9×高さ7cm)市販のプレーンヨーグルト……1パック(約125g)
さとうきび糖……ヨーグルトのパック1杯分
菜種油……ヨーグルトのパック1杯分
薄力粉……ヨーグルトのパック3杯分
卵……3個
ベーキングパウダー……10g
バター(菜種油でもOK)……少々 *バターのほうが風味豊かになります
(下準備/注意点)オーブンは180℃に温めておく。すべての計量をヨーグルトのパックで行うので、中身をあけた後、捨てないこと。
作り方(1)ボールに卵を割り入れてよく溶いたら、ヨーグルトを加え、さとうきび糖、菜種油をヨーグルトのパックでざっくり量って(だいたいでよい)入れて、泡立て器でよく混ぜる。
(2)同様に薄力粉(ふるわなくてもよい)をパックで量って加え、ベーキングパウダーも入れたら、粉っぽさがなくなるまで再びよく混ぜる。型にバターを薄く塗り、生地を流し込んだら、型を台にトントンと打ちつけて中の空気を抜く。
(3)生地の真ん中にナイフで切り込みを入れてから、180℃に温めたオーブンの中段で35分ほど焼く。一度箸を生地の中央に挿してみて、生地がついてこなかったら焼き上がり。ついてきたら、追加で5〜10分焼く。取り出して粗熱を取り、食べやすく切る。
効能:これは、私のフランス人パートナーが教えてくれたものを、私流に少し改良したレシピです。
フランスのどの家庭でも作られている、いちばん早くて簡単で、肩のこらないパウンドケーキ。しかも材料に含まれるヨーグルトには、必須アミノ酸であるトリプトファンが含まれていて、幸せホルモンの異名をとるセロトニンの原料となってくれます。菜種油は悪玉コレステロールを低下させるオレイン酸オメガ9系脂肪酸ほか、たくさんの効能があります。
私はモヤモヤと何かが停滞しているとき、こうした〝失敗のない簡単な焼き菓子〟をよく作ります。
作れば必ずおいしくできるレシピは、弱った心に小さな達成感をくれるから。そして、
「え? こんな雑な作り方でもちゃんとできるのか⁉」(笑)と思わずにはいられない(粉さえもふるわない〈ふるってももちろんOK!〉、おおらかなフレンチレシピで作ってみると、なんだか前向きな気持ちになるのです。バターをほぼ使わないレシピなので、安心して食べられる夜のおやつとして、また朝食にもよく登場します。
通常、焼き菓子は翌日の方ほうが生地がまとまっておいしいものですが、
このケーキに関しては、まだ切り口から湯気が立つ、あつあつのうちに切り分けて、ハフハフ言いながら食べるのも最高ですよ。
ヨーグルトの効能について(明治ヨーグルトライブラリーより)
菜種油の効能(米澤製油株式会社より)
猫沢エミ(ねこざわ・えみ)
2002年渡仏。2007年より10年間、フランス文化に特化したフリーペーパー《BONZOUR JAPON》の編集長を務める。超実践型フランス語教室《にゃんフラ》主宰。著書に「ねこしき」(TAC出版)、他多数。最新刊・愛猫イオとの物語「イオビエ〜イオがくれた幸せへの切符」(TAC出版)が昨年12月に発売されたばかり。インスタグラム
@necozawaemi
猫沢さんへのお悩み相談募集中です!
猫沢エミさんへのメッセージ、質問、悩み相談は随時受付中。小さなものから大きなものまで、ジャンルは問いません。今気になっていることを、お気軽にどうぞ♡