オレンジページメンバーズを対象に、災害時に困ったこと、大変だったことについてアンケートを実施したところ、多くの声が寄せられました。いつどこで発生するかわからない災害だからこそ、明日はわが身という気持ちで準備することが大切。そこで、そのなかから5つの声をピックアップし、防災の専門家に備えておくべき事や物、対処方法などを教えてもらいました。
辻直美さん国際災害レスキューナース。阪神・淡路大震災を経験したことを機に災害医療に目覚める。被災地での過酷な状況における自身の体験をもとに、本当に使える防災術を講義や講演、メディアなどで精力的に発信中。著書に『レスキューナースが教えるプチプラ防災』(扶桑社)など。 和田隆昌さん災害危機管理アドバイザー。NPO法人「防災・防犯ネットワーク」理事。防災士。アウトドア雑誌編集者の経歴を生かし、実践的で取り入れやすい防災対策や、災害用の専門ツールだけでなく、登山やアウトドアグッズの活用法を提案。著書に『中高年のための 「読む防災」』(ワニブックス)など。
災害時に大量の水を手に持って運ぶのは正直とても難しいことです。そこで私がおすすめしているのが、リュックと45リットルのゴミ袋を活用して貯水タンクを作る方法です。リュックの中を空にして、口を大きく広げたら、そこに45リットルのゴミ袋を2枚重ねてセット。リュックを覆うように、ゴミ袋はしっかりと広げましょう。リュックの5~8割を目安に水を入れて、まずは内側の袋の口を玉結びに。外側の袋の口も玉結びにすれば、水が漏れだす心配もありません。(辻 直美さん) 在宅避難をする場合、もちろんふだんからペットボトルの水を備蓄しておくことがマストですが、 給水車から水をもらう状況になった際に便利なのが、車輪つきのショッピングカートです。被災時には体力もなくなっているので、大量の水を手に持ったり、リュックに入れて背負って運ぶのは非常に困難。カート以外にも、台車など車輪がついていて動かしやすいものがあると安心です。ただ、これは戸建て住宅やマンションの1階に住んでいるかたに当てはまる話。集合住宅の2階以上に住んでいる場合、階段の上り下りはとても大変です。特に、タワーマンションの高層階に住んでいるかたは、停電でエレベーターが動かなくなることを想定して水を備蓄しておく必要があります。(和田隆昌さん)
どんどん性能がアップし、軽量化が進んでいるモバイルバッテリー。最近は2万mAh(ミリアンペア)のものでも1500~2000円程度とお手軽価格で、そのうえ軽い! スマホが4回フル充電できるぐらいの容量なので、購入の際には、最低2万mAh(ミリアンペア)以上のものを選びましょう。また、100%充電しても、時間がたつと放電してしまうので、2台持ちをして、1台は外出時に使い、もう1台は家で充電というように、ローテーションで使うのがおすすめです。大切なのは、万が一のとき、人にバッテリーを貸してくださいと言わずにすむこと。災害時こそ、自分のことは自分でまかなうことが大事です。誰かをあてにするのではなく、自分で自分のことを守りましょう。(辻 直美さん)
私たちは日ごろ室内全体を明るくして暮らすことに慣れているので、急に懐中電灯一つだけの明かりで生活するとなると気持ちがふさいでしまうものです。急な停電時でも足もとを照らす明かりがあると安心できるので、保安灯を廊下や各部屋のコンセントにいくつか設置しておきましょう。保安灯とは平時はコンセントに差して充電しておき、停電時になると自動でライトがともるタイプの照明。コンセントから取り外せばそのまま懐中電灯代わりにも使えます。360度、周囲を照らしてくれるランタンも必須アイテム。また、家の中でも外でも使えるソーラータイプのライトも1000円台で購入することができ、最近とても売れているそう。ふだん使いもできるし非常時にも光がとれるものだと、災害用に「備える」という心のハードルは低くなると思いますよ。(和田隆昌さん)
災害時の避難所で多く発生している症例が誤嚥性肺炎。これは口の中の細菌が肺に入って炎症を引き起こしてしまう病気です。汚れた手から口内に雑菌が入ること、歯みがきをしない、口をゆすがない、ということが原因となるので、手と口を清潔に保つことが大事。水が充分にない場合は、水なしで歯みがきをして、最後に少量の水を使い1回口をゆすぐだけでも効果はあります。また、緑茶のストックがあるなら、それをひと口含み、くちゅくちゅしてからそのまま飲み込みます。数時間に1回程度、ほんの少量でOK。(和田隆昌さん) ハブラシがない場合でも、口内を清潔に保つ方法はあります。ペットボトルのキャップに水を入れたら、キャップに口をつけずに水を口に含み、10秒キープ。口をつけると雑菌が入るので注意して。10秒たったら飲み込みましょう。これだけでも、口の中がスッキリします。すすぎいらずのマウスウォッシュを利用するのもおすすめ。また、女性の場合、肌のお手入れが欠かせないと思いますが、水がないと洗顔できず困りますよね。私は毎朝の洗顔はやめて、拭き取り化粧水+コットンでケアするようにしています。それが当たり前になっていれば、災害時に暗い気持ちにはなりません。いつもと同じことをするというのがとても大事。(辻 直美さん)
子どもを安心させるには、まず親が取り乱さないことが重要。子どもは親を見ています。親も子どもも心を落ち着かせるために、私が提案しているのが「333の法則」。ふだんから、3秒、3分、30分で気持ちを切り替えたり、気持ちを上げられるものを持っておきましょう。3秒は香りを「かぐ」。自分の好きな香りでOK。アロマオイルや柔軟剤の香り、子どもの場合はお母さんのにおいも好きです。3分は「さわる」。ぬいぐるみ、柔らかいタオル、お母さんの耳たぶやおなかなど、さわって落ち着くものに触れます。「歌う」でもOK。家族みんなが知っている歌を歌いましょう。30分は「見る」。お気に入りの絵本、家族や推しの写真などを見ることで落ち着きます。家族で同じ色のミニタオルや靴下など、おそろいのものを持っておくのもおすすめです。「ママとおそろいのタオル持っているから大丈夫だよ」とつながっている感覚を与えると、子どもは自然と落ち着くものですよ。(辻 直美さん)小さな子どもの場合、同世代の子どもと遊ばせたり、いっしょに遊ぶ時間をふだんよりも長く持ったり、スキンシップを保つことが大切です。また、深刻な話を子どもの前ではしない、停電が解消してテレビが見られるようになっても被災地の映像を見せないなどの配慮も必要。大人の対処法としては、個人差があるとは思いますが、避難所や地域の手伝いをすると自分の役割を見つけられて気分がまぎれることも。お弁当や飲み物を配る役を率先して引き受けたり、高齢のかたには、「子どもに折り紙を教えてあげてください」とお願いするなど。毎日自分がやるべきことや役割が与えられると気を張っていられるものです。(和田隆昌さん) 監修/辻 直美 和田隆昌 取材・文/佐々木紀子 イラスト/松元まり子