AIレシピ検索
柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~
人気作家・柚木麻子さんが昭和の料理研究家・小林カツ代さんを語る食エッセイ。映画「ジュリー&ジュリア」ばりに往年のカツ代さんレシピを作り、奮闘します。コロナ禍ですっかり料理嫌いになった柚木さんが、辿り着く先はーー?

【柚木麻子連載】ホルトハウス房子と小林カツ代。お花見に2人のレジェンドの筍レシピを作ってみた。

柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~

第36回  【柚木麻子連載】ホルトハウス房子と小林カツ代。お花見に2人のレジェンドの筍レシピを作ってみた。

この春は同じ公園でお花見を2回した。1回目はホルトハウス房子さん著『日本のごはん、私のごはん』(文化出版局)からお花見弁当を作りママ友や子どもたちと、2回目は同じく房子さん著『くだもので作るお菓子』(女子栄養大学出版部)から、有名なオールドファッションドストロベリーショートケーキを中心に、イギリス式のピクニックを友人たちと。
ホルトハウス房子さんといえば、アメリカ人男性との結婚をきっかけに世界のさまざまな場所で暮らし、1970年代の日本に海外の食を著作を通じて伝えた、カツ代さんとはまたちがった角度のレジェンドだ。まだ見ぬ異国の文化をあこがれとともに、しかし一切妥協はせず、贅沢な材料をふんだんに使い、きっちり教えてくれるのだが、その工程は本格的なぶん、コスパタイパになれた私には目が眩むほど面倒だ。
今回のお花見弁当は、乾物をそれぞれ違ったやり方で炊いたり、普通のレシピでは考えられないほど桜の塩漬けを使うので、それが買えず探し回ったりと、いろいろ大変だったのだが、フキと筍のカツオ煮が、一番手間がかかった。当然のことながらフキも下茹でし、筍もたっぷりのヌカとともに茹でる。苦労した割に皮を剥くとどんどん小さくなり、がっかりした。なんとかフキと煮付けたはいいが、フキは火を通しすぎると溶けてしまうらしく、その大半が消滅……。
しかし、できあがったお弁当は苦労のかいがあり、ママ友から大絶賛。それに、私自身、圧倒的に豊かで正しい房子さんのレシピに四苦八苦するのが好きだったりするし、作ると必ずよかったと思うからやめられないのである。
しかし、春の筍はおいしいし、スーパーでもまだまだ安価で出回っている。自分の手で味付けした春の味はまた食べたいが、あんなに大変な思いはそうできない……。そんな時にハッと思い出したのが、つい最近、帯文を担当させていただいた本田明子さん著『伝説の家庭料理家 小林カツ代のロジック』(日本経済新聞出版)である。おなじみカツ代さんのレシピ130点をなぜそういう工程でなにがおいしさを決めるのか、論理的に紐解いた名著。
中でも筍の茹で方は目から鱗だった。なにしろヌカを使わなくていい。米の研ぎ汁かひとつかみのお米があればオッケー。筍の穂先を切って縦半分に包丁を入れ、先に皮を剥くだけ剥いて、普段使いの鍋に簡単に入るくらい小さくしてしまう。それを研ぎ汁かお米と一緒に1〜2時間煮て、水にさらせば完成。ホルトハウス房子さんに比べるとエッというくらい簡単だし、なにしろ苦労して炊いたヌカまみれの筍がどんどん縮んでしまう悔しさがないのがありがたい。
おかげでスーパーで、普通だったら躊躇してしまうような巨大筍を景気よく購入することができた。出刃包丁で縦半分にしてどんどん皮を剥く。小さくなってしまっても、先にゴールがみえているとなんてことはない。ひとつかみのお米と一緒にいってらっしゃい感覚で、煮始める。白いお湯の中でかすかに動く筍は、ひたすら気楽そうに見える。
一晩水につけ、翌日レシピ通りに、昆布、油揚げ、しょうゆ、酒とともに炊き込みご飯にしたら、工程からは考えられないような、上品な味わいになった。薄い色のご飯に柔らかな筍のほのかな山の香りがたまらない。
1週間のうちに、ホルトハウス房子さんと小林カツ代さん両方の筍レシピを試した。
今後リピートするならだんぜんカツ代さんなのだが、ひたすら遠回りでその遠回りさえ楽しむような房子さんの工程も、まるで春の訪れを讃える儀式のようで振り返ってみると楽しかったし、あの経験によってカツ代さんの凄さもより深く理解できた気がする。
なんにせよ、旬の素材に気後れしないというのは、人間としての強みになったのでは、と思っている。

今回紹介したカツ代さんレシピ

伝説の家庭料理家 小林カツ代のロジック」(日本経済新聞出版)より一部引用

竹の子は「皮ごとゆでる」って、そうかなぁ?


皮をむいてゆでたほうが楽チン

最初に皮をむいてしまうカツ代式なら、竹の子がぐんと扱いやすくなります。
「まず竹の子に包丁で縦にスパッと切り目を入れ、皮をクリクリとむき、最後の1~2枚は残します。最後の皮はゆで上がってからむくと、竹の子の形をくずさずにきれいにむけます」
まず竹の子全体がつかる鍋に、たっぷりの水と竹の子を入れる。
「米ぬかや赤唐辛子をエグミ取りのために加えるといいのですが、ぬかが手に入らなかったら、米のとぎ汁でゆでるか、ちょっともったいないけど、米をひと握り加えても」
鍋を火にかけ、煮立ったらふたをして弱火にして小さい竹の子なら1時間、大きければ2時間ほど煮る。
「途中でゆで汁が少なくなったら、何度でも水を足し、弱火で気長に煮るのがコツ。竹串を刺してみてススーッと通るようになったら、火を止め、ゆで汁につけたまま冷やします。完全に冷めたら竹の子を取り出し、たっぷりの水につけます
ときどき水を替え、気温の高い日やすぐに使わないときは、水につけたまま冷蔵庫へ。冷たい水にひと晩さらすと最高の味に。風味と香りを損なわないためには、保存法に注意。
「密閉容器に入れ、つけてある水は毎日替えること。3~4日以内に使い切るのがおすすめです」

「昆布だしで炊くと、旬の竹の子の香りが活きる」

『竹の子の炊き込みご飯』のレシピ

材料(米2合分)
米 2合
新ゆで竹の子 小1本(200g)
油揚げ 1枚(40g)
A[酒大さじ1 薄口しょうゆ大さじ1]
昆布 5cm角1枚
木の芽(あれば) 適量

作り方
米は普通に水加減する。
ゆで竹の子は食べやすく刻む。油揚げは湯で洗ってキュッと絞り、粗みじんに刻む。
①の米の水を大さじ2(調味料分)取り除き、Aの調味料を混ぜる。昆布をざっと水洗いしてのせ、竹の子と油揚げを加えて表面を平らにし、すぐに炊飯する。
炊けたら昆布を出し、底から全体を混ぜる。器に盛り、あれば木の芽を散らす。

memo
季節に一度は作りたい炊き込みご飯。濃いかつおだしは新竹の子の香りと風味を損ねるので、昆布だしがおすすめ。

「炊き込みご飯とはひと味違い、竹の子がシャキシャキ」

『竹の子と鶏肉の混ぜご飯』のレシピ

材料と作り方(米1合分)
温かいご飯 1合分
新ゆで竹の子 小約1/2本(100g)
鶏もも肉 100g
ごま油 小さじ1
A[水大さじ2 しょうゆ大さじ1 みりん小さじ1 酒大さじ1]


米は普通に炊く。
ゆで竹の子は食べよい大きさの薄いいちょう切りにする。鶏肉は黄色い脂肪を取り、1cm角のコロコロに切る。
小鍋にごま油を熟して鶏肉を炒め、火を止めてAを加える。再び火をつけてフツフツしてきたら竹の子も加え、中火で汁気が少なくなるまで煮る。
炊きたての温かいご飯に③を煮汁ごと加え、底のほうから全体をむらなく混ぜる。

memo
食べるときに、いりごまをふってもおいしい。炊き込みご飯よりも気軽に失敗なく作れます。
次回は5/23(土)更新! お楽しみに。
柚木麻子(ゆずき あさこ)
2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。著書に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『とりあえずお湯わかせ』『あいにくあんたのためじゃない』など多数。
毎月第4土曜日更新・過去の連載はこちら

文・写真/柚木麻子 イラスト/澁谷玲子 プロフィール写真/イナガキジュンヤ  取材協力/(株)小林カツ代キッチンスタジオ、本田明子、山田冨起子

暮らしに関する新着レシピ