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柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~
人気作家・柚木麻子さんが昭和の料理研究家・小林カツ代さんを語る食エッセイ。映画「ジュリー&ジュリア」ばりに往年のカツ代さんレシピを作り、奮闘します。コロナ禍ですっかり料理嫌いになった柚木さんが、辿り着く先はーー?

【柚木麻子連載】40代、人生で一番体力がなくて下り坂なのに、一番抱えている課題が多すぎる。

柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~

第35回  【柚木麻子連載】40代、人生で一番体力がなくて下り坂なのに、一番抱えている課題が多すぎる。

40代半ば、人生で一番体力がなくて下り坂なのに、人生で一番抱えている課題が多岐にわたっている現実に愕然とする。この件について、親友A子ちゃんと、この間、小石川後楽園で梅を眺めながら、ベンチで語り合った。職種や環境にかかわらず、体力とやるべきことが比例しないという問題は、40代は全員少なからず直面しているのではないか。
特にこの1ヶ月は、新聞の連載小説終了目前というだけあって、何をやっても集中力が細切れで、不安に駆られているという状況だった。夜、子どもと一緒に布団に入るとそのまま気絶したように朝まで眠ってしまうので、以前のように本や映画を摂取している余裕もない。
こういった私の暮らしぶりは、すぐに何らかの形でビッグデータに取り込まれているようで、インスタグラムを開くたびに「家事や仕事に忙しい40代ワーママにうってつけの体力おばけになれるサプリ」がエッセイ漫画広告とともにひっきりなしに表示される。疲労や症状も私と似ているので、つい買ってしまいそうになるし、実際効果もあるのだろうが、このサプリを買うことで、女性の過剰労働を「モノ」を買って回す資本主義サイクルを後押ししてしまいそうなのが癪で、今のところ、我慢している。即効性はないとしても病院と日々の食事でちゃんと回していく方を選びたい。
そんなわけで、本連載はいつもワンテーマを設け、私なりに考え続け取り組んでいるのだが、今回はバタバタのまま、要所要所でカツ代さんレシピやアイデアに救われている状況をそのままお伝えしようと思う。
2月25日
寒暖差と気圧にやられて、ずっと気分がすぐれない。仕事上の心配事もあって胃が痛い。とにかくすぐに元気を出したいので、「カツ代レシピ」に試しに「元気」と、打ち込んだら、真っ先に出てきたのが「元気雑炊」。えのきとニラ入りの雑炊だ。あ、そうだった。料理する気力がない時、カツ代さんはいつも「ニラ」を薦めるのだった。何しろ下茹でも必要ない。キッチンバサミでチョキチョキ切ってそのまま食材に混ぜても、すぐに火が通る。何よりスタミナがつく。その夜、夫と子どもに揚げ物を出した後に、今度は自分用にしょうが、ねぎ、にんにくをごま油で炒めると、美味しそうである以上にがっしり頼もしい匂いが部屋中に広がり、これだけで山は越えたという気持ちになる。だし汁を加え、ざっと洗った冷やご飯、えのき、ニラを加え、最後に卵を落とした。ほぼ家にあるものだけで作ったのに雑炊というより、気温が高い異国で味わう、コクが深いスープのような味わい。飲み干したら、冷たかった身体の血が巡りだし、胃がゆっくり動き出した。タンパク質が取れるのもありがたい。
2月27日
ふと思いついて、カツ代さんは私と同じ、44歳の頃どうしていたのかなと調べてみたら、時はなんと私が生まれたのと同じ81年。
その年にカツ代さんが出したヒット作、『働く女性のキッチンライフ』をパラパラとこたつでめくってみる。主に時間管理方法について語られていて、もちろんいつも通り文体は柔らかいものの、30分で何ができるか、不必要な工程は何か、と読者に真っ直ぐ問いかけるカツ代さんから、この時代を生きる働く女性たちの緊張感が伝わってくる。噛み砕いて色々教えてくれているのに、今の私にできそうな「ミルクタイム」のみを導入することにした。カツ代さんと夫さんの夜の過ごし方で、ホットミルクとビスケットで、その日あったことなどを語らう時間なのだが、長い目で見ると、ささやかながらとても楽しい記憶になるらしい。もちろん、私と夫だと恋人同士のようなカツ代夫妻にはならず、有名人の悪口やネチネチしたいびりあいにしかならないのだが、子どもの残したビスケットにあたたかい牛乳はほっとする。カツ代さんが生きていたら今88歳か、と考えつつ、今の世をどう思うかなど、想像しながら、ホットミルクを啜る。
3月8日
今日は国際女性デーの日。そこで、ミモザサラダを作る。柔らかな春キャベツと新玉ねぎをサクサクと千切りにして、マヨネーズやレモン汁のソースに投入、ベーコンを混ぜ、ほぐしたゆで卵で飾る。今夜は映画「女性の休日」のトークイベントに呼ばれている。こうしたフェミニズムドキュメンタリーがヒットするのは嬉しいし、ミモザや女性の連帯が定着してきたのはいいことだと思う。ただし、これは自戒を込めたいが、商業と相性がいい「ミモザ」や「シスターフッド」ばかり取り沙汰され、肝心の構造の改善はなく、少数派の声がかき消される状況が続くのはいかがなものなのだろうか。私もかなり商業と相性のいい作家だし、その辺は、ゴリゴリの人気者でありながらアクティビストだったカツ代さんに相談してみたいような気がする。

今回紹介したカツ代さんレシピ

※「KATSUYOレシピ」より一部引用

「ニラと薬味いっぱいのさらさら雑炊で元気印!」

『元気雑炊』のレシピ

材料(2人分)
ニラ……1/2わ(50g)
えのき茸……1/2袋(50g)
ご飯……茶碗に軽く2杯(200g)
長葱(みじん切り)……5cm
にんにく(みじん切り)……少々
ごま油……小さじ2
出し汁……3カップ
塩……小さじ1/2
胡椒……少々
卵……2個
細葱(小口切り)……適量

作り方
(1)
ニラは細かく刻む。えのき茸は長さを3等分に切る。
(2)ご飯はザッと洗ってぬめりをとり、ザルにあけて水けをきる。
(3)鍋にごま油、長葱、にんにく、生姜を入れて、弱火でいい香りがするまで炒めて出し汁を加え、強火にする。
(4)フツフツしたら塩、胡椒で味を調えて、ご飯を入れる。
(5)再びフツフツしたら、えのき茸とニラを加えて卵を割り落とし、フタをして卵が好みのかたさになるまで火を通す。
(6)器に盛り、細葱を散らして食べる。

POINT
ご飯を入れてからは、あまり煮過ぎない方が余計な粘りが出ずにサラッとおいしい。

「まるでミモザの花のよう・・・そんなところから名がつきました。今日は全国的に嬉しき晴?!こんなひと皿で、ランチタイム♪」

『ミモザサラダ』のレシピ

材料(4人分)
キャベツ……1/4個(250g)
玉葱……小1/4個
茹で卵……1個
ベーコン……2枚

【ドレッシング】塩……小さじ1/4
マヨネーズ……大さじ2
レモン汁……小さじ2
植物油(オリーブ油、米油など)……小さじ2
胡椒……少々

作り方
(1)

キャベツはせん切りにする。玉葱は薄切り。茹で卵はホークの背か、マッシャーでつぶす。
(2)
ベーコンは5mm幅に刻み、油少々で炒め、紙の上に置いて、余分な脂をとりカリッとさせる。
(3)ボウルにドレッシングの材料を混ぜ、玉葱、キャベツの順に加えて和える。
(4)③にベーコンと半量の茹で卵を加えてササっと和え、器に盛りつけ、残りの茹で卵を散らす。

POINT
♪新キャベツで作るときは水分が多いので、ふわふわっと混ぜてね。乱暴に混ぜると水気が出てしまい美味しくなくなる原因になります。
♪玉葱の辛いのが苦手な人はセロリ10cmのせん切りを代わりに入れるといい。
♪ベーコンはものによってはカリッとしないタイプもあるので、その辺は気にしない。
次回は4/25(土)更新! お楽しみに。
柚木麻子(ゆずき あさこ)
2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。著書に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『とりあえずお湯わかせ』『あいにくあんたのためじゃない』など多数。
毎月第4土曜日更新・過去の連載はこちら

文・写真/柚木麻子 イラスト/澁谷玲子 プロフィール写真/イナガキジュンヤ  取材協力/(株)小林カツ代キッチンスタジオ、本田明子

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