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柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~
人気作家・柚木麻子さんが昭和の料理研究家・小林カツ代さんを語る食エッセイ。映画「ジュリー&ジュリア」ばりに往年のカツ代さんレシピを作り、奮闘します。コロナ禍ですっかり料理嫌いになった柚木さんが、辿り着く先はーー?

【柚木麻子連載】朝井リョウの本屋大賞のお祝いに、カツ代のキャロットケーキを焼いてみた。

柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~

第37回  【柚木麻子連載】朝井リョウの本屋大賞のお祝いに、カツ代のキャロットケーキを焼いてみた。

意識しないうちに気付けばじわじわ市民権を得ているものというのは、人でもモノでも、えてして目立たなくて穏やかな風情であることが多い。キャロットケーキはその最たるものかもしれない。見た目も味も、素朴ながら、この十年くらいのアフタヌーンティーブームか、はたまたコロナ前後のベイクショップブームの影響か、そのどちらの要素も組み合わさっている気がするのだが、いつの間にか定番化している。イギリスの菓子なのか、アメリカの菓子なのか、私にはまだよくわかっていないが、イギリスで生まれたお菓子がアメリカに渡り、クリームチーズのフロスティをかけるようになり、今日本で多くみられるのはそのいいとこどりの進化版らしい。「キャロ活」なる言葉がすでに存在していると、この原稿を書くにあたって初めて知った。
友人の作家の朝井リョウさんが、キャロットケーキ好きが高まって、友達と焼いてみた、と聞いて、その人気はとうとう盤石になったのだと、私は思い知った。彼が本屋大賞を受賞したので、日常化している歌と踊りの練習(私と朝井さんとでか美ちゃんは、ハロー! プロジェクトのカバーを勝手にしていて、機会があるたびに歌ったり踊ったりしている。趣味というには大勢に見てもらい過ぎているし、かといって仕事でもない)の場に、お祝いとして持っていこうと閃いた。
さて、にんじんのお菓子といえば、小林カツ代さんである。紙の本でも、お馴染みのサイト「カツ代レシピ」でも、カツ代さんは細かく刻んだり、すりおろしたにんじんを混ぜ込むお菓子がものすごく好きだ。キャロットケーキが流行る四十年くらい前から、せっせとオレンジ色のスパイスが効いたケーキやドーナツばかりかクッキーまでも、焼きまくっている。
そうでなくても、カツ代さんはにんじんが好きだ。以前、グラタンに添えるに最適とされるにんじんだけを炊き込んだピラフを、一番弟子の本田明子さんに習ったことがあるが、我が家でもあのお米にふわりと絡んだ芳しさとオレンジ色の見た目が好評、あれから定番化している。
私もカツ代レシピを作り続けているのでだんだんと理由がわかっていきた。にんじんは甘味の印象が強いが、火を通すとナッツのような香ばしさが漂う。カツ代さんの好きなシュッとした味だ。複数の野菜と組み合わさるとその個性は周囲とうまく馴染むが、にんじん単体になった瞬間、急にスターの風格が出てくる。カツ代さんはにんじんをフィーチャーしたレシピを作り続け、その隠れた輝きを知らしめ続けた。
さて、スパイスたっぷりの今流行っているタイプのレシピも見つけたが、今回はアーモンドプードルとレモンをきかせた「キャロットケーキ」を焼くことに決めた。イギリス式は刻むらしいが、こちらはたっぷりのにんじんをすりおろす。メレンゲを最後にささっと混ぜ込む作り方は、私が得意をする工程だ。レモン皮と汁をふんだんに入れることで、味にメリハリをつけるのはいかにもカツ代さん。混ぜ過ぎないのは、カツ代さんのお菓子作りで一番大切なことなので、とにかくテキパキとヘラを動かしていく。焼き上げたら、フロスティではなく、アプリコットジャムを塗る。イギリス風でもアメリカ風でもない、これは日本の「キャロットケーキ」だなあと感じ入る。
さて、レッスンのスタジオに、私はキャロットケーキと、前回紹介したカツ代さんレシピのたけのこご飯のおにぎりと、ふきみそを持って行った。でか美ちゃんも朝井さんもそうなのだが、いつも腹ペコなのか、出すなり、すぐにその場で食べてしまう。ケーキは「しっとりしていて、美味しい!」とあっという間に半分以下になり、写真を撮り損ねた。
カツ代さんレシピをいろんな人に振る舞う度に思うのだが、本当にみんな食べるのが早い。どれも数十年以上前のもののはずなのに、完全に「今」の味であることにいつも驚く。カツ代さんの愛してやまないシュッとした味や台所周りのジェンダー平等感覚はとても早かったのと同時に、永遠の定番なのかもしれないと、残りのケーキをつつきながら、考えてしまった。
朝井リョウさんが撮影。

今回紹介したカツ代さんレシピ

※「KATSUYOレシピ」より一部引用

「しっとりと柔らかい鮮やかで爽やかな人参のケーキ」

『キャロットケーキ』のレシピ

材料と作り方(10人分)
小麦粉……70g
アーモンドプードル……80g
人参のすりおろし……1/2カップ(約70g)
レモンの皮すりおろし……1/2個分
レモン汁……1/2個分(大さじ2)

バター……30g
卵黄……4個
砂糖……120g

卵白……4個
砂糖……50g

【ソース】
あんずジャム……大さじ2強
洋酒……大さじ2~3

作り方
(1)下準備

・直径20cmくらいのスポンジ型を用意して、内側にバターを薄くぬっておく。
・オーブンは180℃に温めておく。
(2)小麦粉とアーモンドプードルは粉ふるいの中で混ぜ合わせておく。
(3)にんじんはすりおろし、レモンの皮もすりおろす。レモンの果汁を搾り、にんじんのすりおろしに混ぜておく。
バターはとろ火にかけて溶かしておく。耐熱容器なら、予熱中のオーブンに入れて溶かしてもいい。
(4)生地を作る
ボウルに卵黄と砂糖120gを入れ、泡立て器でよく混ぜる。砂糖が沈んだ感じがなくなって、もったりとするまで混ぜる。 (5)続いて、(3)のにんじん、レモンの皮を入れて混ぜる。
(6)(2)の粉類を振るい入れてヘラで底から底からよく混ぜ合わせる。
粉けが少し残っているところに溶かしバターを加えてなめらかに混ぜ合わせる。
check point! 溶かしバターはヘラをつたわせて
生地に溶かしバターをダイレクトインすると、重みと勢いでバターが底に沈みます。すると混ぜ合わせるのに手間がかかり、結果、生地を混ぜ過ぎてしまうんです。
(7)卵白を真っ白に泡立て、砂糖50gを加えてさらによく泡立てる。
最後は力強くかき混ぜて泡を締める。
(8)まずは、泡立て器ひとすくい分の卵白を(6)に入れて、泡がつぶれるのを気にせず、よく混ぜ合わせる。
残りの卵白は、2~3回に分けて加え、そのつどサックリと手早く、丁寧に混ぜ合わせる。
check point! 犠牲のメレンゲ
メレンゲを生地に合わせる時は、まず、ひとすくいのメレンゲを泡がつぶれるのを気にせず生地にしっかりと混ぜ合わせます。こうする事で、その後に加えるメレンゲと生地がつながりやすく、混ぜ過ぎ防止になります。この最初に加えるメレンゲを犠牲のメレンゲといいます。
(9)焼く
型に生地を流し入れ、180℃のオーブンで30~40分焼く。
(10)ソースを作る
焼いている間にソースを作る。
あんずジャムに洋酒を混ぜておく。
(11)仕上げ
ケーキが焼けたら、熱いうちにあんずのソースを表面にぬる。
食べる時に、8~10等分に切り分ける。

memo
※カロリー・塩分は10等分した場合
レモンの皮は汁を絞る前の方がすりおろしやすい。
・白い部分は苦みがあるので出来るだけ混ざらないように気をつけて。
・ジャムに混ぜる洋酒はオレンジキュラソーやコアントローなどオレンジ風味の洋酒がよくあう。
次回は6/27(土)更新! お楽しみに。
柚木麻子(ゆずき あさこ)
2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。著書に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『とりあえずお湯わかせ』『あいにくあんたのためじゃない』など多数。
毎月第4土曜日更新・過去の連載はこちら

文・写真/柚木麻子 イラスト/澁谷玲子 プロフィール写真/イナガキジュンヤ  取材協力/(株)小林カツ代キッチンスタジオ、本田明子、山田冨起子

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