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柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~
人気作家・柚木麻子さんが昭和の料理研究家・小林カツ代さんを語る食エッセイ。映画「ジュリー&ジュリア」ばりに往年のカツ代さんレシピを作り、奮闘します。コロナ禍ですっかり料理嫌いになった柚木さんが、辿り着く先はーー?

食なくして、平和なし。この備蓄米騒動、小林カツ代ならどうする?【柚木麻子連載】

柚木麻子の「拝啓、小林カツ代様」~令和のジュリー&ジュリア~

第26回  食なくして、平和なし。この備蓄米騒動、小林カツ代ならどうする?

3週間近く仕事でオセアニアに行った。
中でも、自国の食文化を大切にするニュージーランドの姿勢には感銘を受けたが、他国の食品の持ち込みを厳しく制限していることに無頓着だったため、メルボルンからオークランドに入国するさい、うっかりトートバッグに、ホテルが騒音のお詫びでくれたフルーツを入れっぱなしにしていて、空港で高額な罰金を食らったことは自戒を込めて、ここに書き記しておく。ちなみに同じ場所で、韓国語を話す若者が大量のラーメンを没収されていた。さて、ニュージーランドは農業や畜産はもちろん、特に乳業に関して力を入れているせいか、バターやミルクがとても美味しかった。多民族国家のため、空港であんなに制限されているにもかかわらず、アジア系の麺の店、お菓子屋さんが豊富にある。
オーストラリアでは、シドニーのオペラハウスを見学するツアーに参加したのだが、2000年代前半にこの建物の前で「料理の鉄人」のロケがあったと聞いた。オセアニアでは今なおシェフの料理対決番組が人気だそうだが、そのきっかけが「鉄人」の放送が話題となったためだという。
私は「日本のジュリア・チャイルド、カツヨ・コバヤシは、ケンイチ・チンに、ポテト料理で勝利した。私は今、カツヨを研究している」とほうぼうで、英語で言いふらした。ちなみにシドニーのスーパーでのお米のコーナーは日本よりも種類豊富なくらいだった。ずっと食べたいと思っていた麻辣湯も街の至るところで見かけるので、日本でも人気なのに、何度も食べてしまった。そんなわけでなんのストレスもなく、和食が恋しいとはほとんど感じなかったのだが、帰国すると、白米のおいしさに目覚め、脳がカッと覚醒するような感覚があり、今ドーナツやパイを食べるくらいなら、梅干しのおにぎりを食べたい、というターンに突入している。日々せっせと米を炊き、外食ではご飯のおかわりのできる定食屋さんに入る。さて、我が家は、付き合いの長いお米屋さんがあり、こういったご時世でも、優先的に購入できることになっているが、「常連さん以外にはお売りできないんです。ごめんなさい」という手書きの張り紙を見る度に、複雑な気持ちだ。

カツ代さんももちろんご飯が大好きなようだ。お米に合うおかずのレシピは数えきれないが、今、私はできるだけミニマムに白米だけを楽しみたいので、今回は「お漬物」キーワードでお馴染みKATSUYOレシピを検索してみた。

「キャベツの中華風漬物」と「カラフル野菜の浅漬け」に挑戦してみた。どちらも簡単な上、さっぱりと爽やかで、たくさん野菜も摂れるし、何より白米に本当に合う。市販のお漬物と違ってしょっぱすぎないのも嬉しい。サクサク野菜を噛み締め、酸味がご飯を進ませる。しかし、ふと思う。

こんなに美味しい文化が何故、国から守られないのか。こんなことになるまで放置されていたのは何故か。我々に残された道が、個人の努力や消費で米農家を支えるしかないのが、疑問である。

米農家だけではない。そもそも政府は日本の文化全般に対しても敬意がない。文化事業の助成金も少ない。自営業者は、日に日に複雑化する税金全般はもちろん、成果主義に脅かされ、自分たちで頑張れの一点張りで、一握りの天才以外はいないも同然だ。個人経営の飲食店もいずれも苦しんでいる。
「平和なくして食なし」はカツ代さんの名言だが、それは同時に「食なくして平和なし」とも言える。せめて食だけは、というより、食だけは平等に行き渡るようにできないのだろうか。

備蓄米のニュースがほぼ毎日報道される現状を、カツ代さんはどう思うのだろうか。政治批判もしつつ、カツ代さんのことだから、安価な古米を使ったレシピを紹介しそうだよな、とは思う。

今回紹介したカツ代さんレシピ

※「KATSUYOレシピ」より一部引用

「ピリリッと辛みのきいたキャベツの浅漬け」

『キャベツの中華風漬物』のレシピ

材料(つくりやすい分量)
キャベツ……1/4個(150g)
セロリ……1/2本
生姜……1かけ

A
赤唐辛子……1本
水……大さじ2
醤油……大さじ
2
酢……大さじ1
砂糖……小さじ1/2
ごま油……小さじ1
ラー油……少々

作り方
(1)キャベツは一口大に手でちぎる。セロリは筋をとって5cm長さの棒状に切る。生姜は皮ごと薄切りにする。全部ボウルに入れておく。
(2)小鍋にAの材料を全て入れ、火にかける。フツフツと煮立ったら、すぐに①の野菜にジャジャッと回しかける。
(3)皿を2~3枚ほどに重ねてのせ、30分以上おく。途中、上下を返す。冷蔵庫で一晩置くとさらにいい。
POINT 生姜のかわりにつぶしたにんにくを漬け込むのもあり。
POINT 春のやわらかいキャベツで作ると格別!酒の肴にも人気です。
POINT 調理時間は漬ける時間を省きます。
POINT 
本来漬け物は重石をすると早く漬かります。重石のかわりに皿数枚を使うとよいですね。

「色とりどりの野菜を浅漬けに、好みの野菜でどうぞ」

『カラフル野菜の浅漬け』のレシピ

材料(つくりやすい分量)
なす……1本
人参……小1本
きゅうり……1本
セロリ……1本
パプリカ……1/2個

【漬け汁】
レモン汁……大さじ1
米酢……大さじ1
砂糖……大さじ1
塩……小さじ1弱
醤油……小さじ1/2
生姜(薄切り)……2~3枚
サラダ油……小さじ1

作り方
(1)なす、きゅうりは細長い乱切りにする。なすは海水くらいの塩水に5分ほどつける。人参はひと回り細く乱切りにする。
(2)セロリは1cm幅の斜め切り、パプリカは縦2cm幅に切る。
(3)保存袋かガラスの保存容器に漬け汁の材料を合わせておく。
(4)湯を沸かし、①②の野菜を1種類ずつ、くぐらせる程度にサッと茹でる。
(5)野菜の水けをしっかりきって、あたたかいうちに漬け汁につけていく。
(6)全体に調味料をからめて、冷めたら冷蔵庫に入れ、30分くらいおいてから食べる。

POINT 野菜は湯にさっと通す感じで、味がすんなりと入りやすくなります。茹で野菜になるほど火が通らない様に気をつけて。
POINT 色とりどりの野菜をピクルス風の浅漬けに。好みの野菜で作って
POINT 一晩おくと、酢の作用で色が変わってくる野菜もあります。次の日以降に食べる場合、彩りよく仕上げるには、なすやきゅうりは避けて作るといいです。
POINT 
冷蔵庫で3~4日保存できます。

次回は7/26(土)更新! お楽しみに。

柚木麻子(ゆずき あさこ)
2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。著書に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『とりあえずお湯わかせ』『あいにくあんたのためじゃない』など多数。 毎月第4土曜日更新・過去の連載はこちら

文・写真/柚木麻子 イラスト/澁谷玲子 プロフィール写真/イナガキジュンヤ  取材協力/(株)小林カツ代キッチンスタジオ、本田明子