元宝塚歌劇団 雪組トップ娘役・朝月希和さん「りんご鍋にハマりました(笑)」【食のトビラ】

母から受け継いだ食への探究心。おいしくいただけるように試行錯誤するのが楽しい
1回目は元雪組トップ娘役の朝月希和(あさづき・きわ)さん。朝月さんが考える食事の大切さや料理についてなど、『食』にまつわるあれこれをインタビュー。
レシピ本は母。何でも作ってしまう母からの影響はとても大きいです
――しなやかな舞台姿で観客を魅了していた朝月さん。いきなり大きなテーマなのですが、ずばり朝月さんにとって「食べること」とは何でしょうか?
自分を内面からつくるもの、と考えています。自分の血肉をつくると言いますか、生活をしているうえで欠かせないものであり、すこやかさの源だと思うんです。
――料理はされますか?
時間があればしたいと思っています。料理を作っているときは無心になれるので、リラックスできるんですよね!
――今日の撮影でお持ちいただきましたが、朝月さんの好きなものが「りんご」ということで、どんなところがお好きなんですか?
りんごは変幻自在の万能食材なんです! フルーツとしてそのまま食べるのはもちろん、おかずになったりスイーツになったりかくし味になったりと、変身っぷりがすごいんです。
初めてりんごを好きになったのはいつだろう……とあらためて考えてみたら、大好きな祖母のカレーがきっかけでした。小さいころ祖母に、「なんでおばあちゃんの作るカレーはおいしいの?」ときいたら「すりおろしりんごを入れているんだよ」と教えてくれて、カレーにちょっと甘みを足したいときはりんごを入れるんだなということがずっと忘れられなかったんです。あとは、体調をくずして寝込んでいるときに、母がいつもすりりんごを作ってくれたこと。すりおろして食べる果物ってなかなかないと思うんですよね。
りんごを使った料理もいろいろ作っているんですよ。
――そうなんですね、すごい! どんなものを作られているんですか?
「りんご鍋」にハマりまして(笑)。スライスしたりんご、白菜、水菜、えのき、豚肉を使い、かつおだしベースであっさりと。りんごと白菜から水分が出てくるので、あまり水分を使わなくていいんです。



パン作りもすごく好きで、それにもりんごを使います。りんごを細かく切って砂糖とレーズンを入れてコンポートのように煮たものを、クリームチーズとともにパンの中に入れています。パンは、丸めた生地をちょっと高さのある型に入れて焼き、それにポッキーとミントの葉をつけると見た目もりんごっぽくなるんです。



りんごをおかずに使うこともあります。切ったりんごと鶏の胸肉に、塩こしょう・白ワイン・にんにく・オリーブオイルをもみ込んで一晩おき、それを焼いてから落としぶたをしてかるく蒸すだけ。お肉がしっとりしておいしいですよ。



――りんごがこんなにアレンジがきく食材とは驚きです! 料理はご自身で試行錯誤されるんですか?
そうですね。ちょっと調べてから実際に作ってみて、りんごとこの食材が合うなと思ったら、今度はこんな味つけにしてみようとか研究することが多いですね。
私のレシピ本は、母なんです。母は何でも作る人で、小学校に入ってすぐのころに教えてもらったのがゼリーの作り方でした。幼いころから、クッキーをいっしょに作ったり、野菜や果物の皮むきを教えてもらったり、おせち料理を作る手伝いをしたり。私の料理のベースはそこにあると思っています。宝塚に入って一人暮らしをしてからは、何かを作りたいと思ったらすぐに母に連絡をしていました。母は(レシピが)全部頭の中に入っているから、「こうやるといいんだよ」と教えてくれて。
――頼もしいお母さまですね。
母がパン作りを始めたから、私もやってみたり。母が作ってくれるもので唯一チャレンジしたことがないのはそば打ちです。毎年、年越しそばは母の手打ちそば。始めたばかりのころはいびつだったそばが、今はすごくキレイなんです。さすがだなぁと思って。
父も食べることが大好きなんです。家族で食卓を囲みながら、「この味つけはこうしたほうがいいんじゃない?」「じゃあ、次はやってみようか」と会話がはずむことが多いんですよ。
料理する時間もないほど忙しかった現役時代は、お手製カット野菜が味方に
――りんごのほかに、お好きなものはありますか?
お豆腐とゆばが好きです。おばあちゃんみたいですね(笑)。和食が好きなんです。
――お豆腐はどんな食べ方が好きですか?
シンプルな湯豆腐が好きです。豆腐シュウマイや豆腐ハンバーグも、時間があるときは作ったりします。
お豆腐は木綿のほうをよく食べます。栄養がギュッと詰まっている感じがするから(笑)。高野豆腐も好きですね。最近はだしがしみ込んでいる高野豆腐が売られているので、それをありがたく活用しています。
「とうふ屋うかい」の「くみあげとうふ」が大好きで! なんていうんですかね……、くみあげたてでなめらかで、豆の甘みが凝縮されていて……。つるんとしているけれどしっとりしているみたいな。ほんっとに大好きなんですよ。
――お話をうかがっていて食べたくなってしまいました(笑)。宝塚時代はなかなか料理をする時間がとれなかったと思いますが、どうされていましたか?
退団間近のころはものすごく忙しく食材を買いに行く時間もなかったため、そんなときはテイクアウトやデリバリーを活用していました。「しゃぶしゃぶ温野菜」のテイクアウトメニュー「12種の薬膳鍋」には、疲れたときにとても助けてもらいました。クタクタだけど何か食べなきゃ……というときでもさっぱりしていて食べやすく、体も温まってとてもおすすめです。
でも少しでも時間があったら、野菜をバーッと切ってファスナーつきポリ袋に入れて保存しておき、朝にレンチンしてオリーブオイルと塩で食べるとか、とりあえず野菜はとるようにしていました。キャベツや白菜、ほうれん草、ブロッコリーにちょっともやしも加えて。大根を薄く切ったものと、えのき、まいたけ、しめじなどのきのこ類も入れていましたね。本当は食材ごとに保存したほうがいいと思うのですが、そのまますぐに食べられるようにミックスして袋に入れていました。飽きないように調味料もいろいろ試して。塩のバリエーションを増やしておけば、ちょっとでも味が変わるんです。一時期、トリュフ塩にハマっていましたね。
汁ものは絶対に飲みたかったから、「茅乃舎」のだしに余った野菜をたっぷり入れたおみそ汁を作りおきしていました。根菜類はなかなかとれなかったので、忙しいときは筑前煮などを母に送ってもらったりして。
退団してからは、タジン鍋で野菜を食べたり、ヨーグルトメーカーでヨーグルトを作って食べたり、気のおもむくままに料理を再開しています。調理器具も母の影響でいろいろ持っているんですよ。
体を動かすタカラジェンヌに必要なのはやっぱりたんぱく質!
――たとえば公演が終わったときや、今日はすごくお稽古を頑張ったときなどに食べるごほうび食はありますか?
宝塚時代は運動量がものすごくて、ショーもハードで体力を消耗するため、お肉を食べることが多かったですね。なかでもヒレのような脂肪分の少ないお肉。頑張ったときって疲れているから、脂をとりすぎても胃に負担がかかったりして体によくないんですよね。ヒレステーキはシンプルに塩こしょうで。「明日も頑張ろう!」という気持ちでいただいていました。
――体調がよくないときでも、少しでも食べて体力を保っていなければいけないですよね。そんなときはどうされていましたか?
そんなときもやっぱりりんごが助けてくれました! 小さいころは母がすってくれていましたが、一人だとそんな元気もなくて。適当にザクザクと切ってレンジで4〜5分温めると、柔らかくなって甘みが増し、食べやすくなるんです。それで乗り切っていました。
――りんごは朝月さんと切り離せない関係ですね(笑)。毎日忙しい中で、意識的に取り入れていた栄養素はありましたか?
体を動かすために必要なたんぱく質は、積極的にとるようにしていました。なるべく動物性のものと植物性のものの両方を。動物性たんぱく質なら、今はサラダチキンなどで手軽にとることができます。私はできたら魚が食べたいと思っていたため、鯛やさわら、ぶり、たらなどの切り身を買ってきて焼いたり煮たりして食べていました。植物性たんぱく質はお豆腐からでしたね。
腹持ちのいい炭水化物は、ここぞというときにとっていました。「今日は絶対に頑張らないといけない」という日におなかに入れて。白米ではなく、寝かせ酵素玄米や、こんにゃくを混ぜたご飯、雑穀米などいろいろ試していました。
――きちんと朝食をとられていたんですね。
現役のときは、朝に食べるだけでずっと仕事をしていました。お稽古中は食べることを忘れてしまうほど熱中してしまうんです。日によりますが、朝食をとって11時ごろに家を出て、帰宅は夜遅く……というような日々でした。
もちろん、お稽古中は食事休憩がきちんとあるんですよ。でも私の性格なのか、その時間は復習をしたり次の場面を読み込んだりしていて。ごはんは家でリラックスして食べたいという気持ちもあり、帰宅してからおなかに入れるようにしていました。
朝月さんのりんご愛が爆発! 「私、しゃべりすぎていませんか?」と心配されていましたが、料理を追求する姿勢とお話がとても深くて聞き入ってしまいました。編集部の担当Aは「出てくる言葉が、深く料理をされている人の言葉……!」ともらすほど。
次回は朝月さんの「美」についてお話をうかがいます。お楽しみに!
あさづき・きわ/元宝塚歌劇団雪組トップ娘役。2010年に96期生として宝塚歌劇団に入団。月組大劇場公演「THE SCARLET PIMPERNEL」で初舞台を踏み、花組に配属。13年「愛と革命の詩―アンドレア・シェニエ―」で新人公演初ヒロイン。17年「MY HERO」で東上公演ダブルヒロインを務めた後、雪組に組替え。19年に花組に組替えし、翌年「マスカレード・ホテル」で東上公演単独初ヒロインに。再度雪組に組替えとなり、21年雪組トップ娘役に就任。22年「蒼穹の昴」にて宝塚歌劇団を退団。
▶︎Instagram:@asazuki_kiwa

撮影/須田卓馬 本人提供 文/淡路裕子