超高齢社会を迎え、「人生100年時代」といわれる現代。だからこそ、考えだしたら不安でたまらない、家族や自分の老後の生活。各分野のスペシャリストが、そんなあなたの不安にそっと寄り添います。 今回のお悩み/介護 「終末期医療」について、80代の親と話し合うべき? 今年86歳になる父がいます。ここ数年は肺炎のため入退院を繰り返しており、年々弱っていく父を見ると、もう長くはないかもしれないと覚悟しています。最近、弟と「もしものときに延命治療をするべきか」という話が出ました。今、この状況で、「寝たきりになったら、家と施設のどちらで暮らすか」「延命治療はどこまでするか」など、本人に意思確認をするべきでしょうか。かなり切り出しにくい話なので、どうすればいいか悩んでいます。幸い認知症などの症状はなく、話もきちんとできます。(58歳・男性) 山田悠史さんの回答 お父さまの「大切にしていること」を知ることが、治療方針を決定するうえでの大事な羅針盤になります。 お悩み回答者 山田悠史さん 「延命治療をする・しない」「どこで治療を受けるか」よりも、大事なのは、お父さまが「人生で何をいちばん大切にしているか」を、それまでの生き方やふだんの会話から見定めることです。生きていくうえで何を優先し、何を避けたいのか。「少しでも長生きして、家族との時 間を楽しみたい」というかたであれば、自宅でできる最大限の治療を考えますし、逆に、「寝たきりになってまで、生きたくはない」と話しているかたであれば、人工呼吸器をつけるなどの延命治療※は望んでいないと推測できます。その先にある、具体的にどういった治療をどこまで行うかについては、専門的かつ高度な判断が必要になってきますので、ご家族の意思を伝えたうえで、医師の判断を仰ぐのがいいでしょう。医療というのはチームワークですから、自分たちだけで判断しようと思わず、この内容をそのまま主治医に相談してみてください。入院しているときは正常な判断ができないことが多いので、退院されて体調がいいときに、お父さまの「大切にしていること」について話し合われてみてはどうでしょうか。「お父さんの大切にしていることを尊重しながらサポートしていきたい」と。息子さんのほうから、「自分は人生でこういうことを大切にしている」といった双方向の話し合いであればなおいいですね。その人の価値観・生き方を知ることが、よりよい選択をするための大きな第一歩となるはずです。 ※ 延命治療 衰弱や病気などで生命の維持がむずかしい患者に対して、回復ではなく「延命」を目的に治療すること。延命治療のおもな方法として、「人工呼吸」「人工栄養」「人工透析」などがある。 山田悠史さん 米国老年医学・内科専門医。慶應義塾大学医学部卒。現在は、ニューヨークのマウントサイナイ医科大学老年医学科で高齢者診療に従事。著書に『最高の老後「死ぬまで元気」を実現する5つのM』(講談社)など。ポッドキャスト番組「医者のいらないラジオ」も配信中。 松本明子さんの回答を見る「老後の4K」のお悩みをすべて見る(『オレンジページ』2023年10月2日号より)