人と向き合うときに自然と目がいく場所が、自分のコンプレックスなのだと聞いたことがある。
私は気がつけば、人のまつげばかり見ている。この人はまつげが長いな、まつげにボリュームがあっていいな、どうしてこんなにくるりときれいなカールが保てるんだろう。気づけばそんなことばかり考えていた。
そうか、私は自分のまつげにコンプレックスがあるんだ。思えば自分の目もとは比較的薄めで、マスカラを塗ってもそこまでまつげに存在感が生まれないことにがっかりすることが多かった。かといってボリュームタイプのマスカラを使ってみても、マスカラ液の重さに細い毛が耐えられず、せっかくビューラーで上げたまつげがしょんぼり下がっていってしまう。
そんな私が始めた美容法は……
あるとき、共演した役者さんの目もとがあまりにも美しいので「そのまつげはどうしたらキープできるんですか?」ときくと、
まつげパーマをしていると教えてもらった。髪の毛だけでなくまつげにもパーマがかけられる、そんな美容法があるのかと驚いた。それが私とまつげパーマとの出会い。
それから4年くらいだろうか。私はまつげパーマのお世話になりつづけている。
いいところはいくつもある。
まず、朝からぱっちりした目もとでいられること。以前は朝起きて最初に見る、鏡に映るぼんやりとした表情の自分がいやだった。今は朝から目に光の入った目もとでいられるので、思わずもう一人の自分にほほえみかけたくなる。パーマをかけたてのときは特に気分が最高で、「見て! 私のまつげ、こんなにきれいに上がってるの!」とまわりに言って回りたくなるくらいうれしい。
もう一つは圧倒的なメイク時間の短縮。なかなか上がらないまつげをビューラーでグイグイ上げる時間がなくなるし、変なくせがついてしまったまつげをホットビューラーで整える時間もなくなった。その日パッと手にとったマスカラをさっと塗るだけで、まつげが決まる快感はやみつきである。
ほかにも、まつげが下がることを気にせずマスカラを使えることも利点の一つである。これまではボリュームタイプを使って失敗をしたり、上げたまつ毛にカールキープ剤を塗り、そこからさらに下がりにくいといわれるマスカラを塗っていた。それでも数時間たてばまつげはしゅんとしてしまい、気持ちも下降ぎみに。それが今ではマスカラを塗ってもまつげが下がることはなく、あらゆるマスカラを楽しむことができるようになった。湿気の多い時期や夏場に汗をかいても、まつげが下がるなんてことはなく、
まつげも気持ちもいつも上向きをキープできている。まつ毛美容液や、コーティング剤を使えば、カールキープされる期間がのびるので、少しでもきれいなまつげが続きますようにと祈りながら、毎晩まつげに栄養を与えている。
ふだん愛用しているまつげアイテム
かけると気分が上がる、それがまつげパーマの素晴らしいところ。
もちろん、いいところばかりではないことも承知だ。まず毎月費用がかかってしまうし、パーマが取れかけの四方を向いたまつげを見ると心が乱れる。マスカラのノリが悪くなり、そっぽを向いたまつげをホットビューラーなどを使ってギリギリと直す作業が意外と手間である。
サロンでいつも直面する悩み
そんなストレスから解放されるために、私は毎月サロンへ足を運ぶのだ。私が通っているサロンは比較的予約が取りやすく、まつげと眉毛をいっしょに整えてくれる。店内は薄くK-POPが流れ、どのお客さんもリクライニング式の椅子に体を預け、アイリストさんたちは黙々とまつげに向き合っている。サロンに行って世間話をするのが楽しい人もいると思うが、私はできるだけ静かにしていたいタイプなので、この接客スタイルがとても気に入っている。
しかし、サロンに行っていつも直面する悩みが一つある。
目をつぶり、ほぼフルフラットの椅子に体を預けているので、どうしても眠たくなるのだ。毎月サロンを訪れているが、これまで眠らなかったことは一度もない。うとうととしているうちにまつげはきれいに上がっているが、きっと口が開いたり、ときには変な寝言をいっている可能性がある。
一度、完全に眠りに入ったとき、夢の中で階段から落ちてしまった。現実の私の体はびくん! と大きく跳ね上がったが、アイリストさんは何事もなかったかのように施術を続けていく。絶対に、絶対に寝ていたことに気がついているはずなのに……。何も触れられないことが恥ずかしくてしかたがない。せめて、ふふっとでもいいから笑ってほしい……などと思いながらまた寝た。結局目をつぶれば、眠ってしまうのだ。
きっとアイリストさんたちは眠っているお客さんに対して特別な感情を抱いてはいないのだろう。しかし、人前で口を開け、眠るのはあまりにも恥ずかしすぎる! まつげパーマの素晴らしさは伝わったと思うが、
ぜひサロンで眠らない方法を、どなたか教えていただけはしないだろうか。
今月のアイテム
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PROFILE
松井玲奈(まつい・れな)愛知県出身。2008年デビュー。19年に初の単行本『カモフラージュ』(集英社)を刊行し、小説家としても活躍中。24年4月、2冊目のエッセイ集『私だけの水槽』(朝日新聞出版)を刊行するなど、文筆家としても人気に。連続テレビ小説「おむすび」(NHK)に出演。