柚木さんが驚いたのは、カツ代レシピの今風な味わい。「当時から政治的発言が多かったところも、ある意味現代的な料理家だったと思います」
――この連載は、また料理を好きになりたいという柚木さん思いから始まりました。今のところどうでしょう? 好きになれそうですか?長らく簡単な料理を作ることさえおっくうだったんですが、最近はおっくうを越えられるようにはなってきました!
――すごい! 効果が出ていますね。それこそだしをひかずに水から煮ようとか、今のところは時短料理なんですけど。今週は筑前煮とポテサラを作ってみようと思ってます。でも今度カツ代さんのアシスタントだったみなさんに料理を作ってもらうんですよ。それが楽しみで。連載第2回でブチ切れるけど、第3回でみなさんの料理がおいしくて私の機嫌がよくなるっていう流れが読めた(笑)!
――ちなみに、現代の小林カツ代的存在はいると思いますか?
カツ代さんみたいに、アップデートが早くて変化しつづける人っていつの時代にもいますよね。ちょっと分野は離れますけど、メイクアップアーティストのイガリシノブさんとか。あとは益若つばささん。最初のころと今と、全然キャラクターが違うじゃないですか。
――あー、確かに! わかる気がします。幅広い世代の女性からも支持されていますよね。
そう、今はセクシャルマイノリティの話もするし、いち早くミレーナ(注:子宮内避妊器具)を使ったことを公表したのも益若さん。堅めのプリンがはやる前から「プリンは柔らかいものより堅め」といっていたのも益若さんなんですよ。いつも新しいものを取り入れるタイミングがすごく早いし、だれかがやっているからとか、はやっているからとかではなくて、自分がピンときていることを実践している感じ。
明るくて人生をエンジョイしてて、自分がエンジョイしたものを大勢の前に出したときに爆発的にはねるっていうのが、カツ代さんと共通している気がします。そうそう、最近おもしろいことがあって。日本ユニセフ協会の現会長の赤松良子さんと個人的にお友達になって、おうちにおじゃましたんです!
話題は小林カツ代さんから、まさかのつーちゃん(益若つばささん、現在37歳)と赤松良子さん(現在93歳)へ……! 柚木さんの守備範囲の広さたるや。
――なんと……それはすごそうです。赤松さんのお宅は、古今東西各国のありとあらゆるおもちゃがこちゃこちゃと並んでいて、「これはウルグアイで大使をしていたときの〜」とか、一つ一つに赤松さんの思い入れがあって、お話を聞いていると、この世界の100年がみえてくるんですよね。秘書の方が「今の若い方にもっと赤松先生の功績をしってもらいたいんです」とおっしゃっていたんですが、私が語ったり書くよりも、ご本人の暮らしぶりのほうがずっと魅力的。あまりにお部屋がすてきなので、ご本人を説き伏せ、今度ファッション雑誌に私から売り込んで、巻頭で特集させてもらうんです。
――柚木さんの売り込みで巻頭に! 楽しみです。赤松さんは今のフェミニズムを考えたとき、まさに扇の要の部分にいる人。男女雇用機会均等法をつくったすごく立派なかたです。でもカツ代さんと同じように日々をエンジョイしていて、お宅にあるものからそれが伝わるんですよ。今の時代のよさは、研究者がわざわざアクセスしないとわからないような先人たちの功績が、写真やエピソードで一瞬で一般ユーザーに広まって、良き情報が行き渡ること。
オレンジページで連載をやることになったときも、自分から「カツ代さんでいく!」って言いましたけど、カツ代さんも赤松さんも時代の王道。王道すぎて盲点になるような存在ですが、知れば元気をもらえるんです。考えてみたら、オレンジページも「この時期は夏野菜!」とか「クリスマスはケーキ!」とか王道をはずさないですよね。ドーンと書かれていると、「お、おう。じゃあケーキ作っちゃうか!」ってなる。ユーザーをなめずに王道を貫く姿勢、すごくいいなと思います。
〈PROFILE〉
柚木麻子さん
2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。著書に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『とりあえずお湯わかせ』『オール・ノット』など多数。
今度の柚木麻子は何か違う。これがシスターフッドの新しい現在地!
友達も、恋人も、将来の希望なんてもっとない。貧困にあえぐ苦学生の真央が出会ったのは、かつて栄華を誇った山戸家の生き残り・四葉。「ちゃんとした人にはたった一回の失敗も許されないなんて、そんなのおかしい」彼女に託された一つの宝石箱が、真央の人生を変えていく。